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口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』の全法理 第2回:ぶどう畑の混交禁止とBeit Shammai/Beit Hillelの距離論争(4章1節)

*申命記22章9節が規定する「ぶどう畑の異種混交(kilayim)」の法理を、口伝律法ミシュナ『Kilayim』4章1節に基づき厳密に解読。ぶどう畑の中に別の作物の種を蒔く場合に確保するべきスペースについて、Beit Shammai(シャマイ学派)の24キュビット説とBeit Hillel(ヒレル学派)の16キュビット説の論争を詳解し、それと並行してぶどう畑に必要な「4キュビットの作業スペース」の定義を解説する。


前回の振り返り:ミシュナ『Kilayim』1章における基本規定と歴代ラビ論争の総括


 前回はレビ記19章、申命記22章及び口伝律法ミシュナ「Kilayim(キルアイム)」1章1節、1章7節を扱った。

 主な内容は以下の通りである。

【1】kilayimの定義と3つの基本規定

 kilayimとは、トーラで禁じられている「異なる種類のものを交ぜ合わせる行為」を指す。

 レビ記19章19節および申命記22章によると、大きく以下の3つの禁止事項に分類される。

①異なった種同士の動物の交配(および異なる家畜を組にして耕すこと)

②異なった種類の種を同じ畑に蒔くこと

③異なった糸(羊毛と亜麻)を織り合わせた衣服を身に着けること

【2】「類似した作物」の例外規定

 ミシュナ『Kilayim』1章1節では、一見異なって見えても「同じ種類」と見なされ、kilayimに該当しないペア(小麦と毒麦、大麦とオート麦など)が列挙されている。

①小麦と毒麦の同根性

 タルムードやミドラーシュでは、小麦と毒麦は元々同一の種であり、土地の劣化や人類の堕落によって変異したものとされている。

②新約聖書への影響

 この「外見は似ているが価値が異なる」という背景が、マタイによる福音書13章の「毒麦の譬え」の思想的基盤になっている。

【3】「接ぎ木」の禁止と論争

 ミシュナ1章7節では、植物同士の物理的な結合である「接ぎ木」が禁止されている。これには以下の論点がある。

①禁止の範囲

 「樹木+樹木」「野菜+野菜」「樹木+野菜」「野菜+野菜」のどの組み合わせも禁止対象となる。

②ラビによる厳格度の違い

 どの程度まで禁止するかについては、ランバム(Rambam)、シュルハン・アルーフ(Shulchan Aruch)、エルサレム・タルムードの間で解釈の相違がある。

③思想的根拠

 創世記1章の創造の秩序(種を持つ草木がそれぞれの種類に従って生えること)を尊重し、それを乱さないためであると考えられている。

【4】樹木と野菜の定義

 ミシュナでは樹木と野菜の定義を条文のように下していないが、多くの判例を通じて以下のように解釈されている。

①樹木

 毎年、幹や枝が枯れずに残り、再び芽や実を出すもの。

②野菜

 収穫すると茎や根が完全に枯れるもの(一年生)、あるいは永続的な木質の幹を持たないもの。

 なお、専門家の多くは、樹木の種と野菜の種を同じ場所に蒔くこと自体は、接ぎ木とは異なりトーラでは禁止されていないと解釈している。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉口伝律法ミシュナ『Kilayim(キルアイム)』の全法理 第1回:レビ記19章・申命記22章の禁止命令から歴代ラビ(Rambam/Shulchan Aruch)の接ぎ木論争、新約聖書「毒麦の譬え」の思想的背景まで

https://note.com/mishnah/n/na63fc2a909dc


申命記22章9節の法理:ぶどう畑のkilayim(異種混交禁止)と収穫物禁止の原則


 今回はその続きである。ぶどう畑のkilayimについて扱う。まずはトーラである申命記22章から引用する。

 ぶどう畑にそれと別の種を蒔いてはならない。あなたの蒔く種の実りも、ぶどう畑本来の収穫も共に汚れたものとならないためである。

(申22:9)

 ここではぶどう畑のkilayimであると判断される状況になると、ぶどうも、それと一緒に栽培した他の作物も禁止されたものになることを言っている。

 この原則は文字として読むのは容易である。しかしもし誰かがぶどうを栽培しているのなら、どれ程広い土地を所有していても、その者は他の作物を育てることは出来ないだろうか?

 勿論そうではない。ぶどう畑の内部や周囲には、一定の距離を確保するならば、他の作物(穀物や野菜)を植えてもよいとされている。

 以下のミシュナではこの点について具体的に触れている。

ミシュナ『Kilayim』4章1節:ぶどう畑内部のスペースを巡る学派間論争(Beit Shammai対Beit Hillel)

 次のように書かれている。

 ぶどう畑に空けるスペースについて、-Beit Shammaiは言う、「24キュビット。」しかしBeit Hillelは言う、「16キュビット。」
 ぶどう畑の周辺について。-Beit Shammaiは言う、「16キュビット。」しかしBeit Hillelは言う、「12キュビット。」

(Kilayim 4:1)

 1段落目はぶどう畑の中に、別の作物の種を蒔く場合について言っている。これについて、Beit Shammaiは最低でも24キュビット(アンマ)のスペースが必要であるとし、Beit Hillelは最低でも16キュビットあれば足りるとする。

 どちらの学派でも一致していることは、4キュビットの作業スペースを他の作物の為の畑の両側に確保しなくてはならないという事である。この「作業スペース」はぶどう畑の為である。

 この4キュビットの作業スペースには何も植えてはならない。なぜならぶどう畑の一部として見なされるからである。

 従って左右に4キュビットずつ、合計8キュビットの作業スペースを要することになる。

 しかしそのスペースさえ確保しているのなら、ぶどう畑の中に如何なる条件でも他の作物を植えてよいのではない。

例えばこの空きスペースの中に1本だけ小麦を植えたとしても、その規模では独立した畑とは見なされず、「ぶどう畑の中の小麦」として扱われる。

 この場合、ぶどう畑のkilayimに抵触することになる。

 つまりぶどう畑から一定の距離を確保すると共に、その間にある空間が「独立した別の畑」として確立する必要がある。

 結論はこうなる。

 ぶどう畑の中に他の作物を作る場合、両側に一定の作業スペースをぶどう畑の為に確保し、かつ一定規模の広さで他の作物の畑を作らなくてはならない。

 以上を前提にしつつ、まずBeit Shammaiの見解を解説する。

Beit Shammai(シャマイ学派)の解釈:影響圏「24キュビット」の構造と計算式


 Beit Shammaiの学派によると、独立した畑として見なされるには8キュビットの広さを要する。

 また、Beit Shammaiは問題の空きスペースが「右側のぶどう畑」と「左側のぶどう畑」の双方に挟まれている(真ん中にある)ことに注目する。

 この地形上の特徴を次のように解釈する。

 つまり右側のぶどう畑から8キュビットの範囲内には、独立した畑は作れないという事である。その範囲内は右側のぶどう畑の影響化にあるからである。

 左側のぶどう畑も同様で、8キュビットの範囲内には、独立した畑は作れない。

 従って、ぶどう畑の中に他の作物を栽培するなら、その距離を確保した上で8キュビットの別の畑を作ることになる。以上をまとめると、Beit Shammaiの見解では、最低でも24キュビットの広さを要することになる。

 計算式は下のようになる。

 (右側のぶどう畑から)8キュビット + (左側のぶどう畑から)8キュビット + (独立した畑の為の)8キュビット = 24キュビット 

Beit Hillel(ヒレル学派)の解釈:最低限度「16キュビット」の必要性とArtscroll註釈の検討


 他方、Artscrollによると、Beit Hillelにおいては独立した畑は4キュビットで足りる。

 そこで右側のぶどう畑から4キュビット、左側のぶどう畑から4キュビットの範囲内には、他の作物の畑を作ることが出来ない。

 すると計算式では、次のようになりそうである。

 (右側のぶどう畑から)4キュビット + (左側のぶどう畑から)4キュビット + (独立した畑の為の)4キュビット = 12キュビット

 しかしミシュナ本文では16キュビットと明記されている。この点Artscrollの解説では「Beit Hillelにおいては独立した畑は4キュビットで足りる」点を前提としつつ、次のような内容を結果として示しているだけである。

 (右側のぶどう畑から)8キュビット + (左側のぶどう畑から)8キュビット + (他の作物の畑の為の)8キュビット = 16キュビット 

 8キュビットは2つ分の畑の広さである。従って「本節では最低限の広さを示している」という趣旨で理解しようとしても疑問が残る。

 個人的な憶測で説明を試みることは控えたいので、このまま先に進む。次のように書かれている。

総括:ぶどう畑の作業スペース(4キュビット)の帰属と独立した畑の確立条件

 ぶどう畑に空けるスペースとは何であろうか?ぶどう畑の真ん中に設けられた、ぶどう畑が排除されたスペースである。もし16キュビットないならば、他の種を蒔いてはならない。もし16キュビットあるならば、作業スペースを与え、植えてよい。

(Kilayim 4:1)

 上で、もしぶどう畑の中に他の作物の畑を作る場合、Beit Shammaiは24キュビットなければならないと主張していたが、ここではBeit Hillelの見解通り、16キュビットが必要最低限の広さとして話が進められている。

 「作業スペースを与え、植えてよい」の「作業スペース」とは、左右のぶどう畑の為のスペースである。

 必要な作業スペースは上で述べた通り、4キュビットである。これはBeit Hillelが左右のぶどう畑の影響下にある広さと一致する。

 そこでこのスペース内に他の作物を植えないことは当然である。

 「Kilayim」4章1節の最後の「ぶどう畑の周辺」については、4章2節に詳しく展開されている内容であるので、次回扱うことにする。

 今回の解説は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Kilayim』法理研究

https://note.com/mishnah/n/nbf78cc478503


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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