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ミシュナ『Peah』の法理体系 第7回:ぶどう畑の窮民救済法――収穫の偶発性(peret:ペレト)と形態的未成熟(oleilot:オレロット)をめぐる境界線

*本稿は、口伝律法(ミシュナ)第1部『Zeraim』の『Peah(ペアー篇)』第7章3節〜4節の法理体系を、聖書テキスト(レビ記19章10節)の言語学的背景および伝統的註釈(Ravad等)に基づき精密に検証したものである。

 ぶどう畑における窮民救済法である「peret(ペレト:落ちた実)」の偶発的脱落要件と、「oleilot(オレロット:未成熟な房)」の形態学的定義(「肩」および「ペンダント」の有無)による所有権の境界線を法意から解説する。


前回の振り返り:ミシュナ『Peah』第7章におけるオリーブの法理体系


 前回は、ミシュナ「Peah(ペアー篇)」第7章1節に基づき、オリーブの収穫における「shichchah(シフハー:忘れられた作物)」の免責要件と、その歴史的背景について解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】オリーブにおけるshichchahの基本原則

 穀物と同様に、収穫し忘れられたオリーブの実は「shichchah」として貧しい人のものになるが、際立った特徴のある木については、この掟は適用されない。

【2】忘却を否定する「際立った」3つの要素

 特定のオリーブの木が以下の条件(名前・生産力・場所)を満たす場合、農夫がそれを忘れることはあり得ないと見なされ、shichchahの義務から免除される。

①名前(名声)

 次の②や③と連動するが、その木が持つ特徴ゆえに、例えば「あの収穫する前から油が滴るくらい、豊かに実っている木」とか、あだ名で呼ばれるようなもの。

②生産力

 非常に豊かな実をつけ、収穫前から油が滴り落ちるほどであったり、他の木に「辱めを与える」ほど圧倒的な収穫量があるようなもの。

③場所

 圧搾機のすぐ近くや、壁の中に生えているなど、その位置によって記憶に残りやすいこと。

【3】数量による境界線

 特別な条件を満たさない通常のオリーブの木については、残された数によって判断される。

2本まで: shichchahとなり、貧しい人のものになる。

3本以上: shichchahとは見なされず、所有者の権利が保持される。

 以前の記事で扱った「2つの束はshichchah、3つはshichchahではない」という規定と共通している。

【4】ラビ・ヨセの歴史的例外法理

 ラビ・ヨセは「いかなる場合もオリーブにshichchahは適用されない」という独自の主張をした。これには当時の社会情勢が深く関わっている。

①時局的背景

 ローマ帝国による破壊により、オリーブの木が激減し、オリーブの木自体が極めて貴重になった。

②法理の解釈

 そのものが稀少価値を持ったため、当時の状況下では「どのオリーブの木も忘れることは不可能である」という論理から、shichchahの成立条件である「忘却」そのものが否定された。

 これらの規定は、主観的な「忘却」という心理的状態を、木の特徴や歴史的状況という客観的な指標で画定しようとする、律法の実務的な側面を示している。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Peah』の法理体系 第6回:オリーブの収穫における免責要件(名前・生産力・場所)とラビ・ヨセの歴史的例外法理

https://note.com/mishnah/n/ndbd477c8ecbd

トーラ(レビ記19章10節)におけるぶどう畑の窮民救済法


 今回はその続きである。

 トーラでは貧しい人に対して、基本的にpeah、leket、shichchahを与えている。この内、leketについては樹木に対して適用されない。

 しかしぶどうの木については例外で、レビ記19章10節に次のように書かれている。

 ぶどう畑の落ちた実を拾い集めてはならない。

(レビ19:10)

 この(ぶどう畑の)落ちた実のことは、原文で「peret(ペレト)」と呼ばれている。口伝律法ミシュナ「Peah」7章3節に次のように書かれている。

「peret(ペレト)」の言語学的語根(prt)と果粒の分離

 peretとは何であろうか?ぶどうを収穫する時に落ちたものである。もし誰かがぶどうを収穫していて、房を切り、それが葉の中でもつれ、彼の手から下に落ちてしまったなら、そしてぶどうが落ちてしまったなら、―それらは所有者のものである。

(Peah 7:3)

 「peret」の語源については、「分かれること」、「分離すること」を表すとされる。アルファベットで語根を表すと「prt」であるが、大きな単位から分離した小さな単位を示す。

 ここでは房から分離した個々のぶどうの果粒を表すと言える。

 通常の作業において、房から分離した粒はperetとして貧しい人のものになる。「peretとは何であろうか?ぶどうを収穫する時に落ちたものである」とは、通常の作業において落ちたものがperetになるという意味である。

 次に「もし誰かがぶどうを収穫していて、房を切り、それが葉の中でもつれ、彼の手から下に落ちてしまったなら、そしてぶどうが落ちてしまったなら、―それらは所有者のものである」の箇所である。

 農夫が茎から房を切ったが、それが枝の中で絡まり、果粒が落ちてしまったなら、それはperetではないことを言っている。

 本節の続きには次のように書かれている。

収穫動態における不当利得(「かご」の設置)の禁止

 もし誰かがぶどうを収穫している間、下にかごを置くなら、彼は貧しい人から盗む者である。

(Peah 7:3)

 この箇所は文字通りの意味であり、農夫が収穫している間、房から果粒が地面に落ちないように、「かご」を置いている状況である。

 律法上、作業中に房から果粒が落ちるなら、それは地面に落ちる前に貧しい人のものである。従って、そこに「かご」を置くようなことをする農夫は「貧しい人から盗む者である」と言われている。

 以上でperetについての基本的な解説を終えた。

「oleilot(オレロット)」の形態学的定義と所有権の帰属(『Peah』 7章4節)


 次にoleilot(オレロット)について解説する。この単語は「子供」に関係する単語であり、成熟した果粒に対して「未成熟」であるこを表している。

 口伝律法ミシュナ「Peah」7章4節を引用する。

 oleilotとは何であろうか?肩もペンダントも無いものである。もし肩かペンダントがあるのなら、所有者のものである。疑いがあるなら、貧しい人のものである。

(Peah 7:4)

 この箇所でぶどうの房におけるoleilotとは何なのか定義されている。

 まず「肩」について解説する。

形態学的指標①:「肩」の構造と密集度


 ぶどうの木を想像して欲しい。茎から主軸となる枝が出て、この枝から2次的な枝が出る。2次的な枝には小さな房が実る。このようにして小さな房が集まって、大きな1つの房が構成される。

 通常、「ぶどう」には小さな房は次々に重なり合い、それは人の肩に担がれている荷物に似ている。これが「肩」と呼ばれるものである。もしそれが次々に重なっていないなら、「肩がない」と表現される。

 逆に中心の枝から出た小さな房たちが、隙間なくびっしりと重なり合って密集している状態は「肩がある」と表現される。

 ここまで「肩」について解説した。

 次に「ペンダント」について説明する。

形態学的指標②:「ペンダント」の構造と直接結実


 上記の通り、主軸となる枝から分岐した2次的な枝に小さな房ができるが、主軸の下方の先からは、直接果粒が実る。この「一番下で、中心となる枝に直接実っている果粒」を「ペンダント」と呼ぶ。

 もしペンダントとなる果粒が実っていないなら、「ペンダントを欠いている」と言われる。

 以上を前提に、「Peah」7章4節を再掲する。

 oleilotとは何であろうか?肩もペンダントも無いものである。もし肩かペンダントがあるのなら、所有者のものである。疑いがあるなら、貧しい人のものである。

(再掲Peah 7:4)

 この箇所から、oleilotは「肩もペンダントも、どちらも無いもの」と定義される。

 もしも肩が無くても、ペンダントが付いているなら、oleilotではない。同様にペンダントが無くても、肩があるならoleilotではない。これらの場合は所有者のものである。

 肩もペンダントも無いなら、oleilotとして貧しい人のものになる。

「つなぎ目」をめぐるグレーゾーンとRavadの註釈による画定


 どのような問題でも判断に困る微妙なラインがある。続きには次のように書かれている。

 つなぎ目の上のoleilotについて、―もし房と一緒に切るのなら、所有者のものである。そうでないなら、貧しい人のものである。

(Peah 7:4)

 「つなぎ目」について、中世の代表的なミシュナ註釈家であるRavadは、主軸の枝から小さな房が分岐する箇所として説明している。本節は、成熟した房が出ているのと同じ枝から、oleilotの房が出ている状況を言っているものと思われる。

 この場合、成熟した房と、oleilotの房が一緒になるように枝を切るなら、所有者のものとし、バラバラになるように切るなら、oleilotは貧しい人のものになることを言っている。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Peah』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n2d88667d1089


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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