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ミシュナ『Gittin(ギッティン)』篇における離縁状の法理的構造:toref(トレフ)とtofes(トフェス)の区分及び証言の有効性

*本稿では、口伝律法ミシュナ第3部Nashim(ナシーム:婦人)の「Gittin(ギッティン)」篇を一次資料とし、ユダヤ法における離縁状(get:ゲト)の成立要件を法学的に詳述する。

 申命記24章1節を法源とする離縁の手続きがいかに厳格な書式規程と証言原則に基づいているかを、toref(トレフ:核心部分)とtofes(トフェス:定型部分)の峻別、および第9章における署名の物理的真正性の議論を通じて詳解する。日本語圏において2,000年前の「律法の現場」における法的実務の再現を目指す。

離縁状(get:ゲト)の定義と二部構成:torefとtofes


 離縁状について、トーラには次のように書かれている。

 人が妻をめとり、その夫となってから、妻に何か恥ずべきことを見いだし、気に入らなくなったときは、離縁状を書いて彼女の手に渡し、家を去らせる。

(申24:1)

 この節から妻を離縁する為には、一定の文書を要することが分かる。この文書はget(ゲト)と呼ばれる。複数形はgittin(ギッティン)であり、これがミシュナの離縁に関する篇のタイトルになっている。

 getは公的な他の文書も意味し得るのだが、一般的には離縁状を指す。

 離縁状は2つの部分に分かれている。

①toref(トレフ)

 日付、夫婦の氏名、getが書かれた場所、離縁に関する基本的な宣言が書かれている。getの根本的な部分である。

②tofes(トフェス)

 全てのgetでほぼ共通している定型部分にあたる。

 これに関しては「Gittin」3章2節に次のように書かれている。

 誰かtofesを書く者は、男の名前、女の名前、日付の為に空白を作らなくてはならない。

(Gittin 3:2)

 これは書記が事務効率のために離縁状をあらかじめ準備しておく際、以下のルールを守るべきという意味である。

・toref(個別具体的な部分)については空欄にしておく。

・tofes(定型部分)はあらかじめ書いておいてもよい。

 もう少し具体的には、次のようになる。

①「男の名前、女の名前」について

 書紀はある夫婦が離縁に向けて準備していることを知っていても、自らの判断で彼らの氏名を記載してはならない。それは夫の決断を待って可能になる。

②「日付」

 証人たちが署名するまで、日付は記載してはならない。

③「getが書かれた場所」

 これは「Gittin」の中で触れられていない。torefの部分であるが、事前に記載可能とされている。

④「離縁に関する基本的な宣言」

 「あなたはこれより、何人(いかなる男性)に対しても自由である」といった、離縁の法的な効果を記載した箇所。

 この箇所は離縁状の本質であり、事前に準備してはならない。

 次に証人について解説する。

離縁状の成立における二人の証人の義務と「mamzer(マムゼル)」回避の救済規定

 いかなる犯罪であれ、およそ人の犯す罪について、一人の証人によって立証されることはない。二人ないし三人の証人の証言によって、その事は立証されねばならない。

(申19:15)

 これは法廷の審理におけるルールを語っているが、gittinについても当てはまると考えられている。

 訴訟においては2人の証人が証言の有効性の為に要求されるが、離縁状に関しても同様であると解されている。つまり離縁が成立する為には、2人の証人を必要とする。

 証人については、「Gittin」9章で多く語られている。

 3つのgittinは無効である。しかしもし彼女が結婚するなら、子孫は合法である。もし彼が自分の手で書いて、証人が誰も署名しないなら、もし証人が署名していて、日付が無いならば、もし日付があって、1人しか証人の署名が無いならば、これら3つのgittinは無効である。しかしもし彼女が結婚するなら、子孫は合法である。

(Gittin 9:4)

 以下のgittinは無効とされる。

①証人の署名が無い場合

②証人の署名があるが、日付が無い場合

③日付があるが、1人の証人の署名しか無い場合

 しかしこの離縁状を有効と思い、女性が再婚し、子供が生まれた場合、「子孫は合法」である。これはmamzerとは見なされないことを言っている。

 下の記事で確認した通り、mamzerは正統な血縁のイスラエルの民との結婚が認められない。

◉ミシュナ『Kiddushin(キッドゥーシン)』の法理 第1回:ユダヤ法における「女性の聖別」と獲得の諸態様――第1章1節–2章3節による三つの獲得手段・代理人・錯誤による合意の無効

https://note.com/mishnah/n/n32ed69a29932

 手続き上の瑕疵で子供がmamzerとされるのは、酷であるという判断と思われる。

 署名の仕方についても、ミシュナで言及されている。

署名の物理的配置と改竄防止:ミシュナ9章7節の規定

 もし誰かがgetの一部を残しておいて、2列目にそれを書くなら、そして証人の署名が一番下であるなら、それは有効である。もし証人がページの一番上に署名し、または脇であり、または裏にするなら、それは無効である。

(Gittin 9:7)

 これは羊皮紙を半分に区切り、2列にしてgetを書いた場合のルールである。

 一部を1列目に書き、残りを2列目に書き、証人の署名がその直下にあるのなら、そのgetは有効である。

 しかしもしも署名がページの冒頭、脇、裏にあるのなら、それは後付けの外観があり、改竄も疑われる。このgetは有効ではない。

 続きである。

 もしこちらのトップがこちらのトップに接続しているなら、また署名がその間にあるのなら、どちらも無効である。

(Gittin 9:7)

 これは2つのgittinが繋げられた場合である。上下逆さまに2つの離縁状が繋げられ、つまりは互いに冒頭部分が向き合う形になり、その間に証人の署名がされている。

 この形式では、どちらのgittinに対しても署名は冒頭にあることになる。従って両方のgetが無効である。

 次は言語について。

言語の混用と署名の形式:エルサレムの慣習と家系の記述

 本文がヘブライ語で署名がギリシア語、本文がギリシア語で署名がヘブライ語、1人の署名がヘブライ語で1人の署名がギリシア語、1人が書記、1人が証人の署名は有効である。

(Gittin 9:8)

 本文と署名の言語が異なっている場合、もしも証人が本文の言語を理解出来るなら有効である。

 証人によって言語が異なる場合も同様である。しかし1人の署名の途中で言語が変わるのは、有効とされない。

 「1人が書記、1人が証人の署名は有効である」はその通りであるが、夫の意向に基づく必要がある。

 次は署名の形式についてである。

 次のように読める署名。「誰々、証人」は有効である。「誰々の息子、証人」は有効である。もし彼が「誰々の息子誰々」、そして「証人」と書かない場合、有効である。そしてこれがエルサレムのかつての精神である。もし彼または彼女の家族の名前を書くなら 、それは有効である。

(Gittin 9:8)

 次は有効な署名とされる。

①「誰々、証人」

 ここでは証人の父親の名前が書いていないが、有効とされる。

②「誰々の息子、証人」

 自分の名前が書いていないが、有効とされる。

 しかし①、②については無効とする見解もある。

③「誰々の息子誰々」、そして「証人」と書かない場合

 証人欄に書いているので、「証人」の語が書かれていなくても有効とされる。

 「これがエルサレムのかつての精神である」とは、③について指している。彼らは余計な語は付けないので、「証人」を書かなかったとされる。

④「家族の名前」

 父親の名前を書かず、代わりに家族の名を書いた場合、有効とされる。

 また、3世代以内に著名人がいるのなら、その名前を書くことが出来るとされる。

 例えば「エズラの子の誰々」という風にである。「10世代以内」という見解もある。

 次は夫が代理人を渡してgetを渡すにあたり、どこから送って来ているかを問題にする。

遠隔地からの伝達(代理人)と「私の目前での書記・署名」の宣言要件

 海外からgetを持って来る者は 、言わなければならない。「これは私の目の前で書かれ、署名された。」

(Gittin 1:1)

 これはイスラエルの国外に滞在している夫が代理人を通してgetを渡しに来た状況である。

 代理人は2人の証人の前で、以下の2点について明確に言わなくてはならない。

①このgetは目の前で書かれたこと。

 上述のtorefの部分について言っていると思われる。

②目の前で署名されたこと。

 これに対して、イスラエル国内から代理人を通してgetが渡された場合については、次のように書かれている。

 聖地の内からgetを持って来る者は、言う必要がない。「これは私の目の前で書かれ、署名された」と。もし抵抗する者がいるのなら、署名によって確認するべきである。

(Gittin 1:3)

 この場合はイスラエル国外から持って来た場合と異なり、「私の目の前で書かれ、署名された」宣言を要しない。

 「抵抗する者」は夫本人を指している。夫がこのgetについて偽造を主張しているのである。

 この場合「署名によって確認する」。具体的には証人を呼んで自分の署名であるのか確認したり、同じ証人の署名と比較し、筆跡鑑定すること等挙げられる。

 次は夫の撤回と離縁の効果である。「Gittin」6章から引用する。

代理受領による離縁の効果発生と撤回権の法的限界

 もし誰かが「このgetを妻の為に受け取って下さい」、もしくは「このgetを妻に持って行って下さい」と言うなら、それから彼が撤回したいと望むなら、彼は撤回出来る。もし妻が「私の為にgetを受け取って下さい」と言い、夫が撤回を望むなら、彼は撤回出来ない。

(Gittin 6:1)

 まず冒頭については、夫が妻の為に誰かをgetの受取人として依頼した場合である。

 妻が任命していないので、この者は有効な受取人ではない。離縁の効果は発生しておらず、夫は撤回出来る。

 しかし「妻が受け取っていないなら」という条件を付ける識者もいる。

 2番目の文章は妻が受取りの為に代理人を立てた場合である。もしも代理人がgetを受け取ったら、その後夫は離縁の意志を撤回出来ない。

 以上のそれぞれの項目については、「Gittin」の中で更に細かい内容が議論されている。

 しかし本稿では既に十分と判断する。今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉ユダヤ法における結婚・離縁・家族の法理学

https://note.com/mishnah/n/ndeee1c7e77b4

 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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