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Yom Kippur(ヨム・キップール;贖罪日)の法理と構造 9回目:「金の祭壇」における血の混合・塗布法理と、キドロンの谷に至る排水システムの構造――ミシュナ「Yoma」5章4節~6節の逐条解説

*本稿は「ヨム・キップール(Yom Kippur:贖罪日)」の祭儀構造を、旧約聖書(トーラ)レビ記16章と、その実効的解釈を規定する口伝律法ミシュナ「Yoma(ヨマ)」篇の原典に基づき解明するシリーズである。

 今回は雄牛と雄山羊の血を混合する物理的手法、外の祭壇とは異なる塗布順序、そしてラビ・エリエゼルが提唱する微細な塗布方向の法理を検証する。さらに、奉仕後の残血が神殿床下の水路を通り、キドロンの谷で「肥料」として再利用されるまでの法的・経済的循環構造を明らかにする。


前回の振り返り:祭儀空間の法理と準備


 前回は以下の内容を確認した。

【1】至聖所内での献香と退出の作法

 大祭司は至聖所に入ると、炭の入ったシャベルを契約の箱の2本の担ぎ棒の間に置く。

 炭の上に香草を載せ、空間が煙で満たされるのを待つ。

 退出する際は、神の臨在の象徴である契約の箱に背を向けないよう、後ろ歩きで聖所へと戻る。

 聖所に出た後、イスラエルの安寧を願う短い祈りを捧る。祈りを長くしないのは、大祭司が中で死んだのではないかと会衆が不安になるのを防ぐ為である。

【2】雄牛の血の奉仕と独特な数え方

 大祭司は再び至聖所に入り、雄牛の血を振りまく。

 契約の箱を直接狙うのではなく、鞭を振るようにして「上方に1回、下方に7回」血を振りまく。

 「1回、1回プラス1回、1回プラス2回……1回プラス7回」という独特な数え方をする。

【3】雄山羊の血の奉仕と「金のスタンド」

 次に、贖罪用の雄山羊を屠り、その血を持って三度目の至聖所入場を行う。

 雄牛の時と同様に、上方に1回、下方に7回血を振りまく。

 奉仕を終えた血の入った器は、聖所にある「金のスタンド」の上に置かれる。このスタンドの数については、2つあるとする見解と、1つ(ラビ・ユダ説)とする見解がある。

【4】聖所の垂れ幕(カーテン)への血の振り出し

 レビ記16章16節の規定に基づき、至聖所だけでなく「聖所(臨在の幕屋)」の贖いも行われる。

 大祭司は聖所において、至聖所との仕切りである垂れ幕(外側)に向けて血を振りまく。

 最初に雄牛の血を「上方に1回、下方に7回」、次に雄山羊の血を同様に「上方に1回、下方に7回」振りまく。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉Yom Kippur(ヨム・キップール:贖罪日)の法理と構造 8回目:レビ記16章およびミシュナ「Yoma」に基づく至聖所奉仕

https://note.com/mishnah/n/n010033c04b68

血の混合と器の移し替え(yoma 5章4節)


 今回はその続きである。「Yoma」5章4節から引用する。

 大祭司は雄牛の血を雄山羊の血の器に入れる。それから満杯になった方を空になった方に移す。

(Yoma 5:4)

 雄山羊の血を幕に向かって振りかけた後、「雄牛の血を雄山羊の血の器に入れる」。「それから満杯になった方を空になった方に移す」とある。これは書いてある通りで、説明は不要であろう。

 次節はこの混ざった血をどのように扱うのかを述べる。

 「主の御前にある祭壇に出て来て、そのために贖いの儀式を行う」(レビ16:18)― これは聖所の金の祭壇を指す。
 大祭司は血を塗り始める。どこからであろうか?北東部、北西部、南西部、南東部。通常の贖罪の献げ物の時、外の祭壇で始める所において、聖所の祭壇は終わる。

(Yoma 5:5)

 最初の2行は混ぜた血を聖所内の金の祭壇で使うことを言っている。「彼は雄牛の血と雄山羊の血の一部を取って祭壇の四隅の角に塗り」(レビ16:18)とある通り、聖所の祭壇には4つの角がある。そこに1つずつ血を塗る。図を見て欲しい。

金の祭壇の4つの角

金の祭壇(聖所の祭壇)における血の塗布法理(Yoma 5章5節)


 ただ、血を塗るには順番がある。本文をまとめると、次のようになる。

 ①北東部、②北西部、③南西部、④南東部

 至聖所は西側になるので、自分の手で書いてイメージするのが良いだろう。反時計回りになる。

 次である。

 通常の贖罪の献げ物の時外の祭壇で始める所において、聖所の祭壇は終わる。
 ラビ・エリエゼルは言う、「大祭司は同じ場所に留まり、血を塗る。全て角の底から先に向かって塗る。北東部の部分を除いて。そこだけは先から底に向けて塗る。」

(Yoma 5:5)

 最初の一文「通常の贖罪の献げ物の時、外の祭壇で始める所において、聖所の祭壇は終わる」については、前提知識を要する。

 贖罪の献げ物の血は、外の祭壇の角に塗る。この場合、血を塗る順番は

①南東部、②北東部、③北西部、④南西部

 になる。次の写真で確認して欲しい。

外の祭壇において、血を塗る順番

これとヨム・キップールの日、聖所の中で塗る順序と比較しまとめると次のようになる。

【1】金の祭壇(聖所の中)

①北東部、②北西部、③南西部、④南東部

【2】外の祭壇(通常の贖罪の献げ物)

南東部、②北東部、③北西部、④南西部

この通り「外の祭壇で始める所において、聖所の祭壇は終わる」ことになる。

 ラビ・エリエゼルの「大祭司は同じ場所に留まり、血を塗る」とは、聖所の中において、歩きながら血を塗るのではなく、1箇所で立ったまま血を塗ることを言っている。

 外の祭壇は巨大であるが、聖所の中の祭壇は上に貼付の通り小さい。物理的に歩かなくても塗れる。

 そして、ラビ・エリエゼルによると、血の塗り方は「全て角の底から先に向かって塗る」。下から上に向かって塗るという事である。

ただし、「北東部の部分を除いて。そこだけは先から底に向けて塗る」とある。北東部の角は最初に血を塗る角である。

 この塗り方に関しては、祭壇の周りを歩きながら塗るという立場も、1箇所に立ちながら塗るという立場でも同じである。

 次に移る。

 大祭司は祭壇に向けて7回血を振りまき、残りは外の祭壇の西の基の所に流す。・・・(中略)・・・これらとそれらは水路の中で混ざりあい、キドロンの谷に流れる。肥料の為に庭師に売られる。勝手に用いることは法に触れる。

(Yoma 5:6)

 今通常の贖罪の献げ物の血の塗り方と、ヨム・キップールの血の塗り方の比較をしてしまったが、ここまでの流れはヨム・キップールにおいて、金の祭壇に血を塗ったところであった。

金の祭壇への「七度の振り出し」と前置作業(レビ16章18~19節)


 「大祭司は祭壇に向けて7回血を振りまき」とは、まずはトーラを見るのがよい。

 主の御前にある祭壇に出て来て、その為に贖いの儀式を行う。彼は雄牛の血と雄山羊の血の一部を取って祭壇の四隅の角に塗り、血の一部を指で七度祭壇に振りまいて、イスラエルの人々の汚れからそれを清め聖別する。

(レビ16:18~19)

 冒頭の「主の御前にある祭壇」とは金の祭壇のことである。血を4つの角に塗った後、この金の祭壇に向かって血を振りまくということである。

 血は7回振りまく。

 ここで1つ注意して欲しいのは、トーラ本文には書いていないが、血を振りまく前にすることがある。

 金の祭壇には、以前の段階でtamidの香を燃やした。そろそろ時系列が混乱してきていると思うので、大体の流れを以下に記そう。ただし、過去の記事の番号の振り方と、多少ずれているとも思うので、その点は容赦して欲しい。

【検証】ヨム・キップール祭儀の時系列チャート(①〜㉓)

①灰の一部を祭壇の横に置く(terumat hadeshen:テルマット・ハデシェン)。

②身を清める(1回目)。金の祭服を着る。

③tamidのいけにえを屠る(刃を入れるのみ)。

④血を受け、祭壇に振りかける。

⑤聖所へ移動し、menorahを整える(5つの燭台)。

⑥金の祭壇に献香する。

⑦menorahを整える(残りの2つの燭台)。

⑧外に出て、tamidの焼き尽くす献げ物を燃やす。

⑨穀物の献げ物を献げる。

⑩chavitinを献げる。

⑪ぶどう酒を献げる。

⑫身を清める(2回目)。白の祭服を着る。

⑬大祭司による、雄牛への罪の告白(1回目)。

⑭2匹の雄羊に関するくじを引く。

⑮大祭司による、雄牛への罪の告白(2回目)。

⑯雄牛を屠る。祭壇から炭を取り、至聖所で香を焚く(至聖所に入る1回目)。

⑰至聖所で雄牛の血を振りまく(至聖所に入る2回目)。

⑱雄山羊を屠る。

⑲雄山羊の血を至聖所で振りまく(至聖所に入る3回目)。

⑳雄牛の血を聖所で振りまく。

㉑雄山羊の血を聖所で振りまく。

㉒雄牛の血と雄山羊の血を混ぜる。

㉓混ぜた血を聖所の祭壇に塗り、振りかける。

 上のチャートの⑥には、金の祭壇に献香することが記されている。この時の炭や灰がまだ祭壇上に残っている。

 血を振りかける前に、これらのものを端に寄せるのである。

 次である。

残血の排出とキドロンの谷の法理(Yoma 5章6節)


 「残りは外の祭壇の西の基の所に流す」。これは残った血の扱いについて言っている。

 「西の基」がどこになるのか気になるところだが、以前既に学んだ。祭壇の周囲に地面から突き出ている段がある。

祭壇の西の基の箇所

 これが基と呼ばれる。

 西側の基に流された血は図の穴に入って行く。

祭壇の西の基の排水口

 注意して欲しいのは、基は完全に祭壇を囲んでいないということである。別の図を見てみると、手前側(東側)にはほぼ無いことが分かる。

祭壇の基は祭壇の四方を囲んでおらず、東側はわずかにしか囲んでいない図

 次の「これらとそれらは水路の中で混ざりあい、キドロンの谷に流れる」とは、基の穴に入った血は神殿の床下にある水路を通っていく。それはキドロンの谷にまで至る。

 「肥料の為に庭師に売られる。勝手に用いることは法に触れる」は詳しいことは分からないが、キドロンの谷まで流れた血の潤したものを肥料として、神殿の役人が農夫に売るらしい。その売上は神殿の宝物庫に入れられる。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Yoma』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n7222129b891f


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

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