見出し画像

ミシュナ『Oholot』の法理 第2回――民数記における「剣は死体のごとし」の例外伝播法則と「体の諸器官(limb)」の構成要件

*本稿では、ミシュナ『Oholot(オホロット)』1章1節〜3節および7節に基づき、死者の汚れ(tumah)の伝播における法学的例外規定を検証する。

 トーラ(民数記19章・31章)の記述を根拠とする「死体に触れた物」へのavi avot hatumahの不規則な移行、および人(av hatumah)から物への連鎖伝播(「剣は死体のごとし」の法理)を体系化。

 更に通常の汚れの分量基準である「kezayit(オリーブの大きさ)」の例外となる「体の諸器官(limb)」の3要件(肉・gidin・骨)について、ハラーハーの厳密な論理から詳解する。


前回の振り返り:死者の汚れの伝播と「汚れの六段階階層」における減衰原則


 前回は口伝律法ミシュナの「Tohorot(清浄)」部に属する『Oholot』篇1章1節を中心に、死者による汚れ(tumat met:トゥマット・メット)の伝播法則を解説した。

 主な内容は以下の通りである。

【1】汚れの伝播と減衰の基本原則

 汚れ(tumah:トゥマ)は、人や物に移るたびにその強さが一段階ずつ弱くなるという性質を持っている。

 生きている生物の中で汚れの影響を受けるのは人間のみであり、他の動物は死んでから初めて汚れの対象となる。

【2】死者から始まる「汚れの六段階階層」

 汚れは最も重い死体から聖別された物のみに影響する微弱なものまで、以下の6段階で構成されている。

①avi avot hatumah(アヴィ・アヴォット・ハトゥマ:汚れの父の父)

 死体そのものを指し、この世で最も強い祭儀的汚れの源である。

②av hatumah(アヴ・ハトゥマ:汚れの父)

 死体に触れた人や物を指す。人間がこの状態になった場合、清めには7日間の手続きが必要となる。

③rishon l’tumah(リッション・レトゥマ:第1の汚れ)

 「汚れの父」から汚れを受けた状態である。人間や普通の物が受ける汚れは、基本的にこの段階が終着点となる。mikvehで清め、日没を待つことで清くなる。

④sheni l’tumah(シェニ・レトゥマ:第2の汚れ)

 mikvehに入った後、日没を迎えるまでの状態(tevul yom:テヴル・ヨム)等を指す。この状態では人や物に汚れを移すことは基本的に無いが、聖なるものに触れるとそれを不適格(pasul:パスール)にする。

⑤shelishi l’tumah(シュリシ・レトゥマ:第3の汚れ)

 terumahやkodashimが受ける汚れである。

⑥revii l’tumah(レヴィイ・レトゥマ:第4の汚れ)

 最も聖性の高いkodashimのみがこの段階まで汚れる。

【3】「汚れている(tamei:タメイ)」と「不適格(pasul:パスール)」の相違

 法学的な重要な区別として、以下の2点があげられる。

①tamei(タメイ:汚れている)

 その物自体が汚れており、更に他のものへ汚れを移す力がある状態である。

②pasul(パスール:不適格)

 汚れが弱まり、他を汚す力はないものの、聖なる物としての用途には適さず廃棄しなければならない状態を指す。

 このように、聖別されたものは聖性が高いほど汚れに対して敏感であり、より弱いレベルの汚れ(第3、第4の汚れ)によっても不適格(pasul:パスール)になる。

 以上の内容に不安を感じる方は、下のリンクから確認して欲しい。

◉ミシュナ『Oholot』の法理 第1回――死者の汚れの伝播法則:avi avot hatumahからrevii l'tumahまでの6段階減衰

https://note.com/mishnah/n/n9dfd81d6aa03

ミシュナ『Oholot』1章2節による解説:物(道具)に直接伝播するavi avot hatumahの法理


 前回、ミシュナ「Oholot」1章1節を引用した。

 死者によって2人の者が汚れる。-1人は7日間、1人は日没まで。
 3つのものが死者によって汚れ得る。―2つが7日間、1つが日没まで。
 4つのものが死者によって汚れ得る。―3つが7日間、1つが日没まで。
 どのようにして、2つのものが汚れるのだろうか?死体に触れる者は7日間汚れ、彼に触れる者が日没まで汚れる。

(Oholot 1:1)

 この内、最初の部分のみ終えた。今回はその続きである。

 まず「3つのものが死者によって汚れ得る。―2つが7日間、1つが日没まで」について解説する。

 これについては、次節が解説している。

 どのようにして、3つのものが汚れるのだろうか?死体に触れるもの、そのものに触れたもの、どちらも7日間汚れる。3つ目のものは、――人であろうと物であろうと、――日没まで汚れる。

(Oholot 1:2)

 ここでは死体に触れた第1のものと、第1のものに触れた第2のものが、どちらも7日間汚れることを言っている。

 通常、汚れが移ると1段階低くなるものだが、ここでは第1のものが死体と同じくavi avot hatumahであり、第2のものが原則通りav hatumahになる。

 この不規則な伝播にはトーラの根拠がある。

民数記19章16節のハラーハー解釈:「剣は死体のごとし」による物への汚れの移行

 野外で剣で殺された者や死体、人骨や墓に触れた者はすべて、七日の間汚れる。

(民19:16)

  汚れの程度は原因によっては左右されない。しかしトーラはここであえて「剣で殺された者や死体」と述べている。

 ラビたちはここに言外の掟が示唆されていると解釈している。つまり「死者に直接触れて汚れた物」は、死体と同じ汚れを帯びることが示されているとする。

 従って死体に触れた剣は、死体と同じくavi avot hatumahと見なされる。

 以上により「どのようにして、3つのものが汚れるのだろうか?死体に触れるもの、そのものに触れたもの、どちらも7日間汚れる」とは、次のことを意味すると理解出来る。

①死体はavi avot hatumahである。

②死体に直接触れた物(第1のもの)はavi avot hatumahである。

③第1のものに触れた第2のものはav hatumahである。

 avi avot hatumahとav hatumahの物は、どちらも7日間の清めの期間を要する。

④第2のものに触れた第3のものはrishon l’tumahである。

 これにより「全体で3つのものが汚れる。その内最初の2つは7日間の清めの手続きを要する」内容が示された。

 ところで前回は説明の便宜の為、「死者に触れた人について、7日間の清めの期間を要する」と述べたが、ここで正確には人に限られないことが分かる。物も7日間の清めの手続きをしなくてはならない。3日目と7日目に清めの水を振りかけ、mikvehに浸す。

ミシュナ『Oholot』1章3節による解説:死体から道具・人・道具へと至る4段階の連鎖伝播


 次に「4つのものが死者によって汚れ得る。―3つが7日間、1つが日没まで」について解説する。

 この考え方は「Oholot」1章3節に示されている。

 どのようにして4つのものが汚れるのだろうか?死体に触れた道具、道具に触れた者、その者に触れる道具、―全て7日間汚れる。4つ目のものは、人であろうと物であろうと、日没まで汚れる。

(Oholot 1:3)

 ここでは死体から4つのものが汚れることを言っている。箇条書きにすると、以下の通りである。

①死体はavi avot hatumahである。

②死体に直接触れた物(第1のもの)はavi avot hatumahである。

③第1のものに触れた第2のもの(人)はav hatumahである。

④第2のもの(人)に触れた第3のものはav hatumahである。

 この点が例外である。ちょうど死体に直接触れた物がavi avot hatumahであるように、死体によって汚れた人(av hatumah)に触れた物もav hatumahとされる。

 これはトーラの次の箇所を根拠とする。

民数記31章21〜24節にみる、死体によって汚れた人に触れた物の清め期間

 21祭司エルアザルは、戦いから帰還した兵士に言った。「主がモーセに与えられた律法の定めは次のとおりである。・・・(中略)・・・24七日目に衣服を洗うとあなたたちは清くなる。その後で、宿営に入りなさい。

(民31:21~24)

 この民数記31章24節にあるのは、兵士たちが着ていた服が7日間汚れるという事である。

 そこで死体によって汚れた人に触れた物も、7日間の清めを要するとされる。

⑤第3のものに触れた第4のものはrishon l’tumahである。

 これは原則通りである。

 以上で「Oholot」1章1節~3節までの解説を終えた。

ミシュナ『Oholot』1章7節の解説:「体の諸器官(limb)」における分量規則(kezayit)の例外


 次に「Oholot」1章7節に進む。次のように書かれている。

 体の諸器官(英語のlimb)には最小限の大きさはない。オリーブよりも小さな死体の一部でも・・・(中略)・・・汚れを移す。

(Oholot 1:7)

 これは重要な原則である。人の死体、または他の動物の死骸の一部が、死体または死骸の資格として汚れを移すには、原則としてオリーブの大きさ(kezayit:ケザイット)以上の容量を要する。

 しかし「体の諸器官(limb)」と見なされる条件が満たされている場合、kezayitの大きさを要しない。「体の諸器官と見なされる条件」とはトーラ独特のものであり、下の通りである。

器官として汚れを移すための3要件と組織「gidin(ギディン)」の定義


 「肉、gidin、骨の3つが揃っているもの」である。

 gidin(ギディン)は初めて見るだろうが、人や動物の体内にある、容易には食べられない繊維状または索状の組織の総称である。

動脈、静脈、腱、靭帯、神経などはすべてgidinに含まれる。

 「肉、gidin、骨」この3つ揃っているなら、kezayitの分量を持たなくても汚れを移す。

 今回の内容は以上である。

(この記事は、旧約聖書の最高権威モーセ五書[トーラ]と口伝律法[ミシュナ]及びその膨大な参考書の研究に基づいています。日本語圏における聖書学の再構築を継続し、さらなる『掃除』を推し進めるための研究費として、志ある方のご支援をいただければ幸いです)

 シリーズ目次は以下からご覧になれます。

◉【シリーズ目次】ミシュナ『Oholot』法理研究

https://note.com/mishnah/n/n84019ea0b112


 本記事周辺の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【全体目次Vol.1】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事リスト(No.1〜No.200)

https://note.com/mishnah/n/nf0de8c6c7334


 全記事の時系列目次は以下からご覧になれます。

◉【時系列総目次】ミシュナと旧約聖書・新約聖書:全研究記事インデックス

https://note.com/mishnah/n/nd780d32f266c


(ミシュナの構造による目次は以下からご覧になれます)

◉ミシュナの部(seder)に基づく全記事の目次

 ミシュナは生活と信仰の全領域を「種子」「祭日」「女性」「損害」「聖物」「清浄」の6つの部(セデル)で網羅している。各記事を法典本来の分類に配置し直すことで、2,000年前の「律法の現場」における聖書の背景をより明確に提示する。

https://note.com/mishnah/n/n4ccb130fe6ef

いいなと思ったら応援しよう!