なんでもグロテスク
なんでも、突き詰めれば、グロテスクである。
春がくれば思い出す。
ベランダに出しっぱなしの、茶色い便所サンダルを履こうとしたら、硬めのポリンキーを踏んづけたような感触があった。
カサ
ぐしゃ?
わあ、と左の足先を抜くと、大量のなにかがサンダルから湧き出した。一斉に、わたしに向かってくる。もうそれは何百と。
「なんだこれ!?おかあさあん!来て!はやく!」
突然の大声に何事かと、ダダダダと足音を響かせ、階段を駆け上がってくる母。娘の一大事なのだ。
「どうにかして!なんか出てきた!気持ち悪い!」
「なあんだ。カマキリの卵じゃん」
目を凝らすと、極小のカマキリが、うじゃうじゃしている。
巨人のひと踏みで突然の旅立ちを余儀なくされた、黄色ともクリームともつかない色のちまっこい侵略者たちは、一丁前に両の鎌を掲げている。
生まれたてのくせに、ガンまで飛ばしてくる。凄まじい闘争本能だ。交尾が済めば、オスを食い尽くしてしまうメスの子どもだ。伊達じゃない。
足がむず痒くなる。こいつら、わたしの平穏なる午後を邪魔せんと、つーっと足を登って攻めてくるんじゃないか。一心不乱に掻きむしって、白い掻き跡ができる。ああ、思い出すだけで痒くてたまらない。
「カマキリからしてみれば、はるかに、お前のほうが気持ち悪いからね。
大きな頭に、大きな目玉。そんなの怖いに決まってるでしょ」
母はこういう人だった。とんでもなく理不尽なことを押しつけてきたと思ったら、突然、世界の真理に辿り着いてしまう母。
どうやら冬の間、密かに、カマキリの卵に棲家(サンダル)を提供していたらしい。
なぜ、昆虫にだけやさしいのだ。娘より、カマキリを慮る母なんて前代未聞だ。
なんでも突き詰めれば、グロテスクだ。
わたしの顔も、カマキリの卵も、数百のカマキリの赤ちゃんも。書けば書くほど、自分が嫌になる毎日だ。
グロテスクの先になにがある?
わたしは、まだ見つけられない。
必ずサンダルは、履く前に中を確認するようになったけれど。
ロシアンルーレットなのか、春は。
それじゃ、おやすみ。
むにゃむにゃ
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