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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第二十八話

「実はあの事故の日……、昼食休憩の時間にクララさまが舞台にいたのは、私のせいなの。『舞台裏に切り忘れたスイッチがあるから、ひとつだけ点灯しているスイッチを切ってほしい』と薫さまの名前で手紙を書いて、ドロシー役の本村美憂の台本に挟んだつもりだった。机に置かれていた台本に書かれていた名前もしっかり確認したはずなのに、なぜかそれがクララさま元に届いていて……」
「なぜ、そんな手紙を書いたの?」
「あの子……、本村さんをドロシー役から下ろして、代わりにクララさまにドロシーをやってもらうためよ。ドロシー役は次期生徒会長になれる可能性が高いの。だから、クララさまを生徒会長にできたら、生徒会役員になったり、金刺繍の校章も夢じゃないって思って……。だから、何でもしようって思っていたの。でもまさか、舞台セットの小屋が落下して、その下に安見先生がいるなんて……」
「そんな大掛かりな仕掛けをしたのは、あなたなの? 誰かがいたら怪我どころじゃ済まないって想像しなかった?」
「違う……! 私、セットの小屋を吊り上げて、そのスイッチを押させようなんてしてない。スイッチを押したら、大音量で音楽が流れるよう細工をしておいただけよ! オフになっている音楽用のスイッチに、蓄光蛍光テープを貼っておけば暗闇では光っているように見えるから……、その近くに壊れた小道具を置いていただけなの。音楽に気づいた運営の人たちが駆け付けて、壊したのが本村さんだって思わせられたら、それで良かったんだから」
「美憂にそんなことをしようとしていたのか」と友梨は苛立ちを覚えたが、表情には出さずにおく。舞台の主役をクララが奪おうとして奈那が何かしたのだと当たりをつけていたため、あえて警戒されぬよう「美憂の親友」ということは黙っていたのだ。
「だから……、クララさまもきっと、音楽用のスイッチを押そうとしただけなの。だって、小屋のワイヤーのスイッチが稼働して光っていたはずはないもの。直前に何度も確認したの。だから、小屋が落ちたのだって、何かの間違いよ……! でも……、でも、あの時、音楽は何も流れなかった。クララさまがもし、小屋のワイヤーのスイッチを押してしまったなら……、それは、あの場所に呼び出した私のせいなの‼」
 奈那は友梨の腕にしがみつくと、声を上げて泣き始めた。
「じゃあ、一体誰が……」
 奈那の話が本当であれば、「クララは誰かにおとしめられた」ということになる。もし、舞台セットの小屋に繋がるワイヤーのスイッチだけが点灯し、それをクララが押すことになったのだとしたら。美憂が読むはずだった手紙をクララの元へ届け、そして、本来押すはずだった音楽用スイッチの蛍光シールを剥がしてから、代わりに舞台セットの小屋のワイヤーに繋がるスイッチを押して稼働させた人物がいるはずだ。そう考えると、この事故……、いや、事件は、教師の安見またはクララに対する怨恨によるものという可能性が出てくる。
 しかし、五月には白雪が突然姿を消し、八月には教師が一人亡くなり、九月にはクララが退学となり、これまでも学院内で毎年「誰かが消える」という事態が続いている。これら全てのことが不可思議で、何か大きな力が働いていると思えてならない。これらの事件は、長い学院の歴史の中で叔母が失踪した件とも繋がっているように感じられた。
 そうでなければ、以前にさくらが言っていたように、学院でも「特別」であるはずの金刺繡の校章を持つクララが、突然退学になったことの説明がつかない。もちろん、ショックによりクララが自主的に退学した可能性もあるが、幼い頃よりこの学院の世界しか知らず、しかも、この世界でヒエラルキーのトップに君臨し続けてきた彼女が、今更外の世界で生きていこうなどと思えるだろうか。何があろうとも、自分の楽園を守り抜こうとする。クララは、そんな少女のように思えた。
「ねえ、岡崎さん、お願いよ。クララさまを助けて。あの人が退学だなんて、檜崎家でどんな立場に追いやられるか分からないわ。あの人は強気なふりをしているけど、お家では誰も味方がいないの。腹違いのお兄さまばかり期待されて、昔からずっと孤独な人なの。だから、お願い……、クララさまを助けてあげて!」
「奈那さん、ごめん……。事情を聞いても、クララの家での立場に同情はしてあげられない。本当は、白雪をいじめていたあなたたちのことを許すことはできていないんだ。でも、もしクララを貶めた犯人がどこかにいるなら、私はクララのせいじゃないってことは証明したい」
「うん。うん……。ごめんなさい。本当にごめんなさい。自分たちのしてきたことが、どういうことかも分かってる……。だけど……、ありがとう」
 奈那の涙が、友梨の手の甲にぽたぽたと落ちていく。
 クララのことも、奈那のことも、どんな事情があろうと心から好きにはなることはできないが、彼女たちにも苦しみがあることを少しだけ理解できた。
「ところで……、もうひとつ聞きたいことがあるんだけど」
「私にわかることだったら」
「あのさ、内部生で『大出蘭』っていう子はいる?」
「オオイデ……。ああ、大出蘭。中等部でクラスメイトだったわ。クララさまも私も、白雪さんも同じクラスだった。大出さんも、昨年の春頃に突然いなくなったの……。先生は転校したと説明していたけど、転校するには不自然な時期だった。……そうだ、あの子、『赤い意見箱』を見つけたとか言ってたわ。いつも話を大きくして話す子だったから絶対嘘だと思っていたけど、彼女がいなくなったのはそう言っていたすぐ後だった。でも、大出さんがどうしたの?」
 奈那は「今頃なぜそんな名前が出るのか」と不思議そうな顔をして友梨を見る。
「ううん、何でもない。色々話してくれて、ありがとう。後は私に任せて、奈那さんはしっかり心と身体を治してね」
 友梨はもう一度彼女の両手を握ってから、病室を後にする。
 扉が閉まる直前、「安見先生、私たちの中等部時代の良い先生だったのに……」と奈那の呟く声がした。


(つづく)


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