【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第二十九話
再び総合受付のある本館に戻ると、一階にあるカフェで遅めの昼食をとることにした。高等部にある食堂「パピヨン」に比べると、メニューも少なく軽食が多い。入学してから久しく食べていなかったハンバーガーとコーラを注文すると、友梨は窓側のカウンター席に座って考えを整理することにした。
まずは、ここに来るきっかけとなった「手紙」をポシェットから取り出して広げる。
差出人は、クラスメイトの笠間瑠音。あまり話す機会こそなかったが、瑠音は「ここぞ」という時に重要な情報をくれる貴重な存在だ。
「白雪が誰かにいじめられているのではないか」と調べ始めた時には、プリクラやルーズソックスと引き換えに、檜崎クララの中等部時代のことを教えてくれた。また、白雪が登校しなくなった後、美憂とふたりでクララのいる「スリジエ」クラスに押しかけた時も、入れ違いでクララたちが「イリス」クラスにやって来ていたことをメモで知らせてくれた。
彼女はクラスで特別浮いているわけではないが、かといって、誰かと一緒に行動するようなこともしない。他の生徒たちのように「他人に興味を持たないようにしている」のとは少し異なり、自分を深く知られないよう、あえて人との距離の保っているような印象だった。
そんな彼女から、手紙が届いたのは二日前。消印を見ると、学院のものではなく、山の麓の町の名前が記載されていた。
今朝、自転車を借りる時、たばこ商店の真ん前に赤い円柱型のポストを見つけると、主人にこう尋ねてみた。
「あの、今月の初め……、何日か前にクレール女学院の生徒がここに来ませんでしたか? 高校生くらいの」
「ああ。そういや、汗だくで女の子がひとり、切手を買っていたっけなぁ。クレールの制服着てる子なんて珍しいなぁ、なんて思ってたけど」
背丈や容姿、髪型などの特徴を伝えると、たばこ商店の主人はたばこを咥えながら「そうそう」と頷いた。
瑠音は「外出希望届」を出したうえで、学院から二十キロ近く距離のある山の麓の町まで、わざわざ手紙を出すためだけにやって来たことになる。それは、手紙の内容がそれだけ緊急性があり、秘匿性を有しているということだ。
届いた手紙の内容は、こちらの健康を気づかう言葉と世間話がほとんどで、単なる「残暑お見舞い」ともいえる。しかし、何でもないような文章の合間に、美憂が舞台『オズの魔法使い』のドロシー役に選ばれたこと、八月初旬の舞台稽古で事故があったこと、その舞台で共演する川瀬奈那が心の病で入院し、九月には檜崎クララが突然退学となったことが、所々に紛れ込ませてあった。万が一、学院の誰かに見つかっても当たり障りのないようにしたかったのだろう。始終、回りくどい言い回しで綴られた世間話の最後は、「今日も変わらず私たちの学院は平和です」という言葉で締めくくられていた。
封筒に同封されていた用紙は四枚。文章が書かれた便箋三枚と、「W」の形が印刷されたトレーシングペーパーが一枚だ。
トレーシングペーパーに印刷された絵は、「W」といってもアルファベットにしては歪で、マッチ棒を四本適当に並べたような形をしていた。
「あ、カシオペヤ座」
それが星座だと分かったのは、「星の日周運動」についてレポートを作成していたからだ。北の空ではカシオペヤ座と北斗七星が北極星を挟んで向き合うように並び、星たちは北極星を中心に反時計回りに空を巡っていく。
「瑠音は星座が好きなのだろうか」と、ベッドに寝転びながら横向きに印刷された「W」を縦書きの便箋に重ねてみると、「カシオペヤ座」の五つの星の場所に文字がちょうど重なることに気が付いた。
それぞれの星の場所には、次の文字がある。
(つづく)
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