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【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第三十話

 一枚目は、「今」「師」「シ」「ん」「多」。
 二枚目は、「自」「コ」「じゃ」「な」「移」。
 三枚目は、「渡」「ハ」「大」「出」「蘭」。

 そのままでは、かなも漢字もでたらめだが、おそらくこういうメッセージだ。

「教師死んだ」。
「事故じゃない」。
「私は大出蘭」。

 一枚目の便箋に書かれている内容で重要なのは、『オズの魔法使い』の舞台稽古で事故が起きたこと。瑠音が伝えたいのは、その事故で「教師が死んだ」ということだ。
 二枚目の便箋には、舞台で美憂と共演する川瀬奈那が心の病で入院し、檜崎クララが突然退学となったことが書かれているが、「事故じゃない」というメッセージとはどういう関係があるのだろう。もし、「教師が死んだ」事故が「事故じゃない」のだとしたら、クララと奈那がその教師に害を加えたということなのだろうか。いや、いくら白雪をいじめていたとはいえ、学院生活が全ての彼女らがそんなリスキーなことをするとは考えにくい。
「カシオペヤ座」の神話は、確か古代エチオピア王国の王妃・カシオペヤが自分と娘の美貌に自惚れ、怒りを買った故にポセイドンから海の怪物を遣わされてしまいピンチに陥る、という物語だった記憶がある。文面のみでは詳細は分からないが、おそらく、「一番」でなければ気の済まないクララが主役の美憂に嫉妬し、奈那と共に何かを仕掛けたが、それが失敗したのではないか。要は、「自身の自惚れが自身に返ってくる形で災いを呼んだ」ということだ。
 きっと、それがきっかけとなり、「教師が死んだ」。そうであれば、(学院で「特別」であるクララがすんなりと退学になったことには疑問が残るが、)気の強い奈那が心を病んでしまったことには頷ける。そして、おそらくこの事故について警察や外部の人間は介入していない。だからこそ、瑠音はわざわざ学院の外部から手紙を送って来たのだ。
 便箋の裏に「仲良しの川瀬奈那さんは、クレール女学院大学附属病院に入院しています。お見舞いに行ってあげてね。」と小さな文字を見つけると、すぐに向かう準備を始めた。

 今日、奈那には「かま」をかけて話してみたのだが、どうやら事前に立てた仮説はだいたい合っていたらしい。
 誰が安見という教師を殺したのか、それが学院のどんな力に影響されているのか、そして、叔母はどうして失踪してしまったのか、それらについては真相を掴むことはできなかった。しかし、「大出蘭」について情報を得られたことは、大きな収穫だ。
 三枚目の便箋に示されていた、「私は大出蘭」というメッセージ。全く分からなかったこのメッセージの意味が、やっと分かった。
「大出蘭」は、昨年、「赤い意見箱」を見つけたと言った直後に姿を消した。しかし、誰も行方を知らなかった彼女の名を、今、こうして打ち明ける者がいる。──そう、この手紙を書いた「笠間瑠音」こそが「大出蘭」なのだ。中等部時代に存在した彼女の存在に同級生たちが今も気付いていないとすると、彼女は容姿を変えている可能性がある。「赤い意見箱」を見つけた彼女は、きっと何らかの願い事をして、「笠間瑠音」として人生を生き直しているのだ。
 瑠音の手紙は、ただの悪戯いたずらにしては手間がかかり過ぎているし、彼女は慎重な性格で、人の死を軽く扱うような人間とは思えなかった。
 瑠音は、学院の秘密を何か知っている。もしかしたら、今回の事件が誰の仕業であるのかも……。一刻も早く彼女に会い、直接話を聞きたいが、未だ停学処分が解けそうにないのがもどかしい。
 しかし、学院に戻る前に、次に会うべき人物はもう決めた。その人物はきっと学院の外、そう遠くない場所にいる。
「白雪は消えてなんかない。今もどこか近くで生きている」
 友梨は、そう確信した。


(つづく)


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