【連載小説】「みつばち奇想曲(カプリース)」第三十二話
※今回、一部刺激の強い表現を含みます。苦手な方はご注意ください。
「……また、誰かが死ぬんですか?」
「死ぬかどうかは分からない。言ったはずよ。私たちが直接何か手を下すことはないって。特別なことをしなくても、ドロシーのために『力』は働くの。ドロシーは生徒たちの幸せのために願えばいい。それだけなの」
「安見先生が亡くなったのは……、私のせいなんですか? 私、あの先生のことを知らなかったし、どうにかなってほしいなんて思ってもいなかったんです。私の力だなんて……」
「本当に? それじゃあ、檜崎クララさんの方はどう? あの子がいなくなればいいって思わなかった?」
ああ、言葉にはしなかったが、クララが「いなくなればいい」と思ったかもしれない。白雪をいじめていたことも、金刺繍の校章を胸にいばり散らしていたことも、本心では許せなかった。間接的であれ、教師の安見が死んだのが「自分のせい」であったと改めて突き付けられると、頭を殴られたような強い眩暈がしてくる。
「……次は、誰なんですか?」
「岡崎友梨」
思いもしなかった名前に身体が凍り付く。
「岡崎友梨って……、私のルームメイトの友梨のこと?」
「残念だけれど、彼女はこの学院のことを何も理解していない。魂が解き放たれた白雪さんのことを追い、川瀬奈那さんが入院している病室にも押しかけた。彼女がしていることは、私たち学院生徒の平穏を脅かす行為よ」
なぜ友梨が奈那のところへ行ったのか。舞台の事故のことは伝えられなかったのに、と思いが過ったが、それよりも今はこの場でしなければならないことがある。薫を止めなければ……!
「薫さん、誤解です! 友梨はすごくいい子です! 白雪のことを探すのも、友達だから。それに、私も一緒に白雪を探していたから、彼女と同じなんです!」
「全く違うわ。あなたはこの学校に入学して、白雪さんを救ったの。けれど、友梨さんがやっていることは、全て大昔に姿を消した叔母さまのことを調べるためよ。白雪さんを探すだなんて、ただの口実にすぎない。偽善だわ」
「そんなことない! 友梨はいつも真剣です。白雪のことも、叔母さんのことも、真剣に探しているんです! 偽善なんかじゃない!」
「どちらにしても、決まったことなの。生徒たちを守るために、彼女のことは放置しておけない。あなたがもし、彼女が消えることを願わないというならば、私がこの聖なるナイフに願うわ。「友梨さんがこの学院からいなくなるように」と。叔母さまと同じ石碑に名が刻まれるならば、彼女もきっと喜ぶはずよ」
「叔母さまって……? ここに名前があるんですか?」
「ええ。右側は生徒のための石碑なの。ほら、ここに『岡崎千景』さんと名前があるでしょう」
「うそ……」
「彼女はずっと叔母さまを探していたみたいだけれど、もうこの学院にはいないの。可哀そうだけれど」
友梨の探していた叔母はもうすでにこの学院で亡くなっていたのだ。いや、殺されていた。この学院に大昔から続く、気味の悪い風習に。
「やめて……、薫さん、お願いだからやめてください‼ 友梨は大事な親友なんです! 殺さないで……‼」
泣きわめく美憂の姿に落胆したように、薫は美憂に握らせようとしていたナイフを取り上げた。美憂はすかさず、それを薫に渡すまいとナイフの柄を掴む。
白雪に続いて、友梨まで奪われるなんて耐えられない。他の生徒を守るために誰かを犠牲にしていいなんて、それこそが偽善だ。生徒は皆、次は自分の番ではないかと怯えながら暮らしている。それが、本当に幸せだとでもいうのか? 馬鹿げている。馬鹿げている。こんなことが何十年も前からずっと続いているだなんて、間違っている……!
「私が、私が壊してやる‼」
美憂がそう叫んでナイフを持つ手に力を込めると、その時、妙な感触があった。ナイフの刃先が柔らかいものにどんどん沈みこんでいくような……。
「うっ……」
薫が短く息を吐き、美憂の肩に腕を回して、だんだんと凭れ掛かってきた。
美憂は薫の肩に左手を添えて薫の身体を支えようとする。すると、右手で持つナイフの刃の部分が半分ほど薫の腹に埋まっているのが目に飛び込んできた。
「いやああああああ‼」
思わず叫び声を上げる。
「やだ、いやだ……!薫さん! しっかりして! 薫さん!」
倒れ込む薫の身体をゆっくりと床に寝かせ、上体だけ少し起こして薫の名を呼び続ける。腹にナイフが刺さったまま、薫は瞼を閉じていた。
「薫さん! 薫さん! お願い、目を開けて!」
声を掛け続けていると、薫の目が薄っすらと開いた。
「美憂さん……。なにを泣いているの……。そんなことじゃ、ドロシーは務まらないわよ」
「薫さん、ごめんなさい……、ごめんなさい! こんなことするつもりじゃなかったのに、 なんで私、こんなこと……!」
「美憂さん、泣かないで……。言ったでしょう、その星のバッジが、次のドロシーの印。この学院に女王蜂は……ふたりもいらないの」
「だめです! それなら薫さんがずっとドロシーでいてください! 私に学院とか、生徒を守るなんて、無理なんです!」
「どうせ私はあと半年で卒業よ。ドロシーを引き継ぐあなたを見つけられて良かった……。大丈夫……。あなたは私に似ているもの。きっとやり遂げられるわ」
薫はそう言ってにっこりと笑うと、そのまま意識を失った。
*
(つづく)
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