まだ慣れない 特別編|子どもを愛せるかわからない
第一章|話さない子ども
子どもが欲しいと思えない人間は、
どこか欠陥なんだろうか。
そう思ってしまうくらいには、
彼は、
普通の家庭を知らなかった。
第二章|安全基地
彼は厳しい家で育った。
父親に、
人前で自分のことを話すな、
それは、恥ずかしいことだ。
彼は多くを語らない子どもに育った。
中学の頃に母親を亡くした。
母親の愛を断つには、
まだ早い歳だった。
それでも気丈に振る舞っていたが、
再婚した父の元から離れたいと、
高校から寮生活を始めた。
早くに家庭という、
守られる安全基地から
自らの意思で離れ、
一人で立って歩いて行ったのだ。
彼はとにかくお金がなかった。
父親は一切援助はしてくれなかった。
大学は行きたいところには行けず、
仕方なく、
奨学金で行けるところを選んだ。
毎日バイト三昧。
生活費を稼ぐので精一杯で、
なんとか卒業した。
第三章|なくなる前提
この頃から彼は、
「なくなる前提」で生きている。
冷蔵庫の食材。
銀行口座。
ポイントカード。
電気代。
ティッシュの減り。
大丈夫だよと言っても、
彼はどこか、
“次の不足”を探している。
困っていても、
あまり人に頼らない。
ひとりでなんとかすることに、
慣れすぎている。
幸せは、
なくなるものとして扱っている。
第四章|子どもが欲しいと思えない
「子ども欲しいと思ったことない?」
彼は少し考えてから言った。
「子どもを愛せるかわからない。」
冗談っぽく笑っていたけど、
たぶん、
あれは本音だった。
愛されることに慣れていない人間が、
誰かを愛せるんだろうか。
守られてこなかった人間が、
誰かを守れるんだろうか。
彼はきっと、
子どもが怖いんじゃない。
壊してしまう未来の方を、
先に想像してしまうのだ。
第五章|彼の愛情
彼は言葉で愛情を伝えたりしない。
エアコンの温度を、
エコと真逆に変えてくれる。
彼は今でも"なくなる前提"で生きている。
電気を細かく消す。
割引の日に、鶏ハム用の胸肉を
まとめ買いをする。
それなのに、
自分には我慢するくせに、
私にはわりと甘い。
たぶん彼は、
愛し方を知らなかっただけだ。
彼の愛情の器は、
欠けてなんかいなかった。
▶︎幸せなのに、
どこか落ち着かない人へ。
「私はまだ、幸せに慣れない」
▶︎別の恋をしているつもりで、
私はいつも、
同じ場所を触っていた。
▶︎気づくとまた、
ここに戻ってきてしまう。
▶︎愛されることに、
まだ慣れない人へ。
「あなたの不完全さの隣にいる。」
▶︎「お前はダメだ」と言われた私が、
“選ばれる人”の共通点を見つけるまで
