見出し画像

黄色い物を持ち寄る夜

今夜は偶数月の満月。黄色い物を持ち寄る夜だ。さあ私は今夜はどんな黄色い物を持って行こう。
本当は決まっている。この二か月ずっと探して用意した。集まるみんな全員きっとおんなじ。はりきって知恵を絞って用意したはずだ。
一番大事なのは招待状。これがないと集まりに参加できない。私は招待状を黄色い花柄の布で作ったバッグに入れる。ちなみにこのバッグは持ち寄る物ではない。持ち寄りのために用意した物はレースのハンカチで包んでバッグに入れる。

私は髪を整えて、可愛い刺繍入りの白いブラウスとスカートに着替え、靴下をはいてストラップシューズを履く。夜に外を歩くときは白い服を着ないと危険だ。みんな白っぽい服で集まってくるけれどそれは決まりではなく危険回避の為なのだ。

白っぽい人たちが店に入って行く。
歩いて行ける程度の町はずれの古い喫茶店だ。ほとんど開いていることのない、いつも「closed」という札がかかっている喫茶店だ。今夜はもちろん「open」だ。店の名前は「イエロー」だ。店のママは黄色いワンピースを着ている。店のカップもポットもみんな黄色。ママの猫の名前も「きいろ」。カーテンも壁も床も黄色だ。
そんなになにもかも黄色で頭が変にならないの?ってそんなことを考える人はこの店にこないから大丈夫。それにお客は別に黄色い服を着なくても良いのだ。

私が店に入った時にはもう店内はほとんどいっぱいだった。
椅子の分しか招待状は出されないから大丈夫。私はいつもの隅っこの席に座る。飲み物は全員にハチミツ入り搾りたてレモンジュースが出される。夏は冷たく氷入りで、冬はホットだ。
招待客全員が椅子に着くと(と言っても10人もいない)みんな静かにおしゃべりをやめ、ママが会を始めるのを待つ。カウンターの中のママが会の始まりを宣言する。そしてみんな回された箱の中から札を取る。引いた数字が黄色い物を披露する順番だ。私は一番だった。

「今日私が持ってきた物はこれです」
私はハンカチを開いて中から黄色い三日月のブローチを取り出す。
「まあ可愛いわね」
ママが満足そうに言う。私はハンカチごとママにブローチを渡し、ママが見終わるとそれは客に順番に回されて私のところに戻ってくる。私はそのブローチを胸に付ける。
次の客は小さくて青葱くらい細い黄色い笛を取り出し美しい曲を吹いた。細い笛からは細い音がする。細い月の光のような音色だ。みんな拍手した。
次の客は小さな透明の箱に入れたとても小さな黄色いカエルを回した。そのとても小さなカエルの眼は金色だった。みんなそおっと静かにのぞいて箱を回す。カエルは一回だけ、すごく小さな声でころころと鳴いた。
そのように静かに黄色い物をみんなで楽しんだ。

最後に初めて参加した女性がバッグから古い詩集を取り出すと、ぱたっと開いて挟んであった押し花を取り出した。美しいタンポポの押し花は黄色く光っていた。みんなため息をついて眺めた。繊細なそれは壊れてしまうと困るのでママが近寄って見ただけで持ち主に返された。
「今夜の一等はそれね」
ママが言うとみんな納得の笑顔を彼女に向けて拍手した。
賞品の黄色い袋が渡される。中身はこの店のオリジナルの珈琲豆だ。みんな少し羨ましそうな顔をする。
「ではまた再来月に。招待状が来た人はね」
ママがそういうと、あとはみんなおしゃべりをしたり飲み物を飲んだりして気が済むと店を出て帰るのだった。
私は隣のテーブルの、一等を取った女性に声を掛ける。
「素敵な押し花ね。自分で作ったの?」
彼女は首を振る。
「いいえ、ええと、鳩…に貰ったの」
「へえ…」
私は質問したことをちょっと後悔する。
が、気を取り直してまた挑戦しようと思いながら家に帰った。

(了)

*今日も絵を選んでからお話を書きました。この絵がきっと招待状です。優勝者のタンポポは鳩人間がくれたものですね。招待状も鳩が運んだのかもしれませんね。
(👇鳩がタンポポをくれる話)

*三羽 烏さんの「色のある風景」に参加します!


いいなと思ったら応援しよう!