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3歩進んで2歩下がる、でいい。感謝の筋肉の育て方

純喫茶天の川に天然パーマのオバチャンと詰襟の有栖川くんが入店。五十鈴が「アンタ、友達いたの」とひと言
波動研に、新しい風が吹いてきた

また来た。

扉を開けるなり、天然パーマの子が深いため息をついた。後ろにもう一人——詰襟の制服をきっちり着た、七三分けの男の子がついてくる。黒縁メガネの奥で、品定めするみたいにキョロキョロと店内を見回している。

アタシはカウンターでうずまきキャンディをなめながら、ひと言だけ言った。

「アンタ、友達いたの。」

「友達じゃないです。波動研の入部検討中です」

天然パーマ——波動研部長のオバチャンが、隣の詰襟くんを肘でつついた。「有栖川くん、とりあえず座って」。有栖川くんは一瞬躊躇してから、カウンターの椅子に腰を下ろした。はしぞうがカウンターの端でぽてっと座って、じっと彼を見ている。


カウンターでオバチャンが「また2日目に戻りました」とため息。有栖川くんも「論理的に説明できない」と眉間にシワ。五十鈴が「順番が間違ってるだけよ」と静かに言う
続かないのは、あなたのせいじゃない

「また2日目に戻りました」とオバチャンが言った。「感謝ワーク、3歩進んで2歩下がる感じで。いつになったら28日間終わるんだろって」

有栖川くんが静かに口を挟んだ。「僕も一応やってみたんですが、3日で止まりました。継続できない理由が論理的に説明できなくて」

なるほど。タイプは真逆だけど、詰まっている場所は同じ。

アタシはキャンディをコトリとカウンターに置いた。

「続かないのは、意志が弱いからじゃない。順番が間違ってるだけよ」


五十鈴が「雨が降りそうなら傘を持つ」と空・雨・傘フレームワークを説明。有栖川くんがメモを取り、オバチャンが「かっこいい名前ですね」と目を丸くする
マッキンゼーの考え方が、感謝ワークの謎を解いた

「ひとつ聞くけど」とアタシは言った。「空を見て、雨が降りそうだと思ったら、どうする?」

「傘を持っていきます」とオバチャン。

「当然ですね」と有栖川くん。

「そう。それだけのことよ。マッキンゼーっていう世界的なコンサルティング会社が使ってる考え方でね——空を見る(事実)、雨が降りそうと読む(解釈)、だから傘を持つ(行動)。この3つが繋がって初めて、人は動ける。『空・雨・傘フレームワーク』って言うの」

「……なんかかっこいい名前ですね」とオバチャン。

有栖川くんがメモを取り始めた。几帳面な文字で「空=事実、雨=解釈、傘=行動」と書いている。

「感謝ワークが続かないのも、この3つのどこかがズレてる。あなたたちの場合——解釈がズレてるのよ」

「解釈、ですか」と有栖川くんが顔を上げた。

「続かないことを、自分の意志の問題だと解釈してる。違う。脳の問題なの」


脳神経科学者のジョー・ディスペンザはこう言っている。

「私たちの脳は、放っておくと昨日と同じ思考・同じ感情をリピート再生し続ける」

要するに、脳は超絶なめんどくさがり屋。「感謝しよう」と頭で命令しても、体と感情がまだ昨日モードのままなら——脳はさぼる。「どうせ何もない」「今日も普通だった」が、するっと入り込んでくる。

有栖川くんが「つまり、感謝を探す前に、感謝を受け取れる状態を作る必要があると」と言った。

「そういうこと。飲み込みが早いじゃない」

「じゃあどうやって状態を作るんですか」とオバチャン。

「体から入るのよ」

五十鈴がタブレットにゼンタングルの線を引きながら「体から入る」方法を説明。オバチャンと有栖川くんが覗き込む
感謝は探すものじゃなくて、見えるようになるもの

アタシが毎日やっている幸積み(さちつみ)は、ただノートに「よかったこと」を書くワークじゃない。書く前の「チューニング」がすべて。

ステップ1:昨日をゼロにする(ゼンタングル)

判断しない、評価しない。ペン先だけに集中して線を引く。「また続かなかった自分」への批判も、線を一本引くたびにそっと手放していく。

ステップ2:脳を「今ここ」に戻す(笑いヨガ)

おかしくなくていい。楽しくなくていい。とにかく声に出して笑う。脳は本物の笑いと作り笑いを区別できないから、体が先にゆるんでいく。昨日の焦りや自己批判がほどけて、「今ここ」に戻ってくる。そのときはじめて、小さなことが目に入ってくる。感謝は探すものじゃなくて、見えるようになるもの。

ステップ3:1つだけ書く

10個じゃなくていい。「今日、ほっとした瞬間が1つでもあったか」。それだけ。

「1つでいいんですか」とオバチャン。

「最初はね。感謝を感じる筋肉って、使ってないと衰えてるから。いきなり28日連続フルマラソンしようとするから挫折するのよ」

有栖川くんが「段階的負荷の原則ですね。筋トレと同じ理屈だ」とつぶやいた。

「3歩進んで2歩下がってもいい。チューニングを先にやれば、2歩下がる頻度はぐっと減るから」


続けるとどうなるか、正直に言う。

最初の1週間は、あまり変わらない。

でも2週間ほど経つと、日常の中でふと「あ、これ幸積みに書けるな」とアンテナが立ち始める。1ヶ月ほど経つと、モヤモヤしたとき「自分は今、何に引っかかってるんだろう」と少し落ち着いて見られるようになる。

これは「幸せになる」じゃなくて——すでにある幸せが、見えるようになるということ。幸せを増やすんじゃなくて、見えていなかっただけのものが見えてくる。それが幸積みの正体。

有栖川くんが静かに言った。「……RASのリキャリブレーションですね。脳の検索エンジンが、ポジティブな情報を拾いやすくなる」

「難しい言い方するけど、合ってる」

五十鈴がはしぞうをカウンター越しに差し出す。オバチャンが「ぽてぽてしてていいんだって」とつぶやき、有栖川くんが珍しく目を細める
この子は毎日ぽてぽてしてるだけで、愛されてる

「また2日目に戻っても、続けていいんですね」とオバチャンが聞いた。

「当たり前でしょ。筋トレだって、サボった翌日に再開すればいいじゃない。サボるのを推奨してるわけじゃないわよ。完璧主義になって『もう全部やーめた』って投げ出すくらいなら、不格好でも『今日からまた始める』方が、よっぽど感謝の筋肉になるって話。

アタシははしぞうをひょいと持ち上げて、カウンター越しに二人に見せた。

「この子だって、毎日ぽてぽてしてるだけで愛されてるんだから」

有栖川くんが珍しくメガネの奥の目を細めた。オバチャンがはしぞうに向かって「ぽてぽてしてていいんだって」とそっとつぶやいた。

感謝ワークが続かなかったのは、あなたが感謝できない人だからじゃない。「感謝が見える体の状態」を作らずに、頭だけで感謝を絞り出そうとしていたから。

今夜、書く前に一回だけ深呼吸してみて。それが、幸積みの本当の始まり。

最後までお読みいただきありがとうございます。
皆さまの感謝の筋肉、今日より少し柔らかくなりますように(。-人-。)✨ Love & Peace💕


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