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「読めなかった小冊子を、ようやく開いた日」

研修講師、手話通訳士の横山熊太郎です。

AIを活用しながら、シニア向けの情報や、書籍やガジェットの紹介などをしています。

昨年末から寝たきりの母の介護をしています。

少し前に、訪問診療をしてくださっている医師から、
一冊の小さな冊子をいただきました。

タイトルは、
「これからの過ごし方について」。

やわらかい言葉で書かれているけれど、
中身ははっきりしています。
それは、自宅で家族を看取る人のためのガイドブックでした。


正直に言うと、
その冊子を受け取ったとき、すぐには読めませんでした。

「これから」を考えるということは、
母の「その先」を前提にすることになるからです。

頭ではわかっていても、
気持ちが追いつかない。

ページを開くこと自体が、
何かを認めてしまうようで、しんどかった。

だから私は、その冊子を
しばらく本棚の奥にしまったままにしていました。


けれど最近、
母の体調が少しずつ変わってきたことを感じています。

大きな変化ではないけれど、
確実に、以前とは違う。

ふとした瞬間に、
「今、どんな段階にいるんだろう」と
考えるようになりました。

そのとき、
あの冊子のことを思い出しました。


意を決して、ページを開きました。

そこには、老衰によって
ゆっくりと「その先」に近づいていく様子が、
静かに、丁寧に書かれていました。

食事量が減ること、
眠る時間が増えること、
反応がゆるやかになっていくこと。

どれも、今の母に重なることばかりでした。

読み進めながら、
胸の奥が少しずつ重くなる感覚がありました。

同時に、
「いま、ここなんだな」と
現実を受け取る感覚もありました。

母は今、
その入り口にいるのかもしれません。


冊子を読み終えたあと、
不思議と気持ちは少しだけ落ち着いていました。

怖さや寂しさが消えたわけではありません。

でも、
「何が起きているのか分からない不安」から、
「今をどう過ごすか」という視点に
少しだけ変わった気がします。


先のことは、やっぱり考えすぎないほうがいい。

でも、何も知らないままでもいられない。

その間にあるのが、
「今を大切にする」という選択なのかもしれません。


母と過ごせる時間は、
無限ではない。

だからこそ、
何気ない会話や、
一緒にいる静かな時間を、
これまで以上に丁寧に味わっていきたいと思いました。


あのとき読めなかった冊子は、
今の自分にとって、必要なタイミングで開くものだったのだと思います。

そしてきっと、
この気持ちもまた、
これから少しずつ変わっていくのでしょう。


それでもひとつだけ、はっきりしていることがあります。

「今日を大切にする」

それだけは、
迷わず選んでいこうと思います。

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