【noteでBL】ゾンビ別ルート
※ギャラリーでお借りしました。
noteでBLお題で書いたゾンビBLの
『生存ルートA』辺りのお話
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マンションを見上げれば、一室のベランダに異様にカラスが群がっているのが見えて、石井は顔が引きつる。
(クレームが来なきゃいいけど…)
後でカラス避けを調べておこう、とぼんやり考えながらエレベーターに乗る。
「あっ、石井さん!丁度良い所に」
とエレベーターの中で声をかけてきたのは、同じ階に住む女性だった。
「何ですか?」
「さっき、管理費の集金にお伺いしたら留守のようでしたので」
「あぁ!」
いつもはさっさと支払いを済ませてしまうのだが、色々あって頭から吹き飛んでいたようだ。
「後で投函しときます」
「お願いしまーす」
女性がニコニコと首を傾ける。
明るい髪がさらりと揺れて、可愛いらしい。
カラスの事は特に気になっていないのか、話題に出る事は無く、石井は内心ホッと胸を撫で下ろす。
エレベーターが5階で止まり、女性を先に行かせた。
「そういえば」
くるりと、女性が振り返る。
「お留守番してたの、お友だちの方ですか?」
今度、紹介してくださ〜い。と女性はニコニコしながら小さく手を振り、返事も待たずにさっさと行ってしまった。
(出たのかよアイツ…!)
女性の様子を見る限り、同居人は溶けた状態で出たわけではないようだ。
鍵を開けて自室に入ると、榎倉がソファに横たわっていた。
「榎倉!」
「おかえり」
気怠げに、ゆっくりと榎倉が起き上がる。
左目には眼帯が当てられて、空洞が塞がれていた。
「何で出たんだよ」
「まずは、うがい手洗い」
「やかましい」
毒づきながらも、石井はうがい手洗いを済ませて、ついでに顔もぬるま湯ですすいだ。
すぐにでも榎倉を問い詰めたかったが、このルーティンだけは省略できない。
「何で出たんだよ」
濡れた顔をタオルで拭きながら、改めて問い詰めると榎倉はテーブルの上で、かっぱえびせん(海苔塩味)の袋を広げている。
「石井はコーラだっけ?」
「いいから座ってろって」
色々あって、榎倉と2人で過ごす時間も長く、すっかり石井のルーティンを把握されてしまっていた。まるで自宅であるかのように、榎倉もくつろいでいる。
グラスを並べて、石井はコーラ。
榎倉は烏龍茶。
当たり前のように冷蔵庫には、烏龍茶のボトルが居候していた。
「何で」
「ごめん」
榎倉はすぐに謝った。
「理由があるんだ。聞いてほしい」
「何だ」
「前に石井が、俺に恋人がいたという話をしてくれただろう?」
「ん?あぁ。したけど……」
榎倉は動き回る遺体として黄泉還ったものの、所々、生前の記憶が欠けているようだった。
同棲していた恋人の女性や、家族、自宅の場所等の記憶が喪失してしまっているらしい。
「あっ!それでか?」
石井が手を打つ。
おそらく、榎倉は女性の声がしたので開けてみてしまったのだろう。
不用心ではあるが、それならば出たくなってしまった事にも納得はいく。
「あれは、502号室の小波さんだよ。お前の恋人じゃない」
「そうなのか」
ふと、いやな想像が石井の頭をよぎる。
「……お前、まさか。いきなり確認とかしてないよな?」
「それはしてない」
きっぱりと、榎倉が言う。
「石井に用があったみたいだから、俺は関係ないんだなってさすがに分かったよ」
「それならいいんだけど…」
石井はようやく落ち着いて、かっぱえびせんに手を伸ばすことが出来た。
口の中に塩気を残したまま、コーラを一気に流し込む。至福のひとときだ。
TVのスイッチを押すと、ニュースが流れている所だった。
近くの海で、身元不明の遺体が上がったらしい。
身元は判明している遺体が、隣で呑気にかっぱえびせんを食べている。
そんな様子に石井も慣れてきたつもりではあったが、やはりまだどこか現実離れしていて理解が追いついていない。
榎倉が深夜に訪ねてきた日から、一ヶ月が過ぎようとしていた。
「───なぁ、榎倉」
「ん?」
「恋人に会って、どうすんの?」
「……………」
榎倉がグラスを手に取り、口を付けようとした所を石井が止める。
「それコーラだよ」
「あ、烏龍茶はこっちか」
左目が無いのも何かと不便なようだ。
「……………うーん…」
烏龍茶のグラスを手にしながら、榎倉は呻いている。
「分かんないな。どうしたらいい?」
「俺に聞くなよ。お前の恋人だろ」
「そうだけど……」
「っ!」
榎倉が、グラスを手にしていない方の手を石井の手に重ねてくる。
どういうわけか、それは人肌よりも高い温度を感じさせた。
「そうなんだよな……」
頭を悩ませながら、榎倉は指を絡めてくる。
(何がしたいんだコイツは…)
自由な手で榎倉の手の甲をつねるがビクともしない。感覚が無いのだろうか。
「一ヶ月以内には…何とかするよ」
すっかり石井の手を握り込んで、視線はTVの画面に向けたまま榎倉は言った。
「1週間」
と石井は素っ気ない。
「金曜までは何とかしろよ」
「いやぁ、無理かなぁ」
榎倉が腕を組む。
「2週間」
「一ヶ月!」
「3週間。これ以上は譲れないぞ」
「3週間も一ヶ月も大差無いよ。ゆとりはもって行こう」
などと、じゃれ合いながら袋の中のえびせんを減らしていく。
グラスの中は空になり、石井はコーラのおかわりを求めて立ち上がった。
問題はまだあるが今はただ、冷えた炭酸で喉を潤したかった。
