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【noteでBL】お題をお借りしました

急に『お題で創作したい欲』が出てきまして、何もかも初めてですが、お題を解放中とのことでお借りしました。

お題
『食事風景を入れる+失恋+ゾンビ』をお借りして、BLのようなお話を書いていきます。




真夜中の事だった。

ペタ、ペタと何かが這うような音が玄関から聴こえて、眠りが浅かった石井は目を覚ました。

ペタ、ペタ

ペタ、ペタ……

「石井」

呻くような声がかすかに耳に届いた気がして、石井は飛び起きる。
同僚の榎倉の声のような気がした。

「………どちら様?」

念のため、玄関を開ける前に声をかけてみる。

「榎倉だよ。開けてくれ」

返ってきた声はやはり、榎倉のものだった。



榎倉は三年前に失踪して、警察に届けたのは同棲していた女性だったと聞いていた。

こんな真夜中に訪問するとは、彼女と何か揉めたのだろうか。痴話喧嘩に巻き込まれたくないな…と思いながら、石井は玄関のドアを開けた。


太陽の光を一度も浴びた事が無いような泥の匂い。塩素を浴びせすぎた排水溝の匂いとも言うだろうか。

強烈な匂いがドアの隙間から流れてきて、石井は本能的にドアを閉めようとしたが、しかし榎倉が早かった。隙間から手を差し込んでドアを強引にこじ開けられてしまった。

「うわぁ……」

数年ぶりの同僚との再会に、石井は顔を歪ませていた。

綺麗に整っていた榎倉の顔は崩れていて、片目が無い。皮膚の色は変質していて、フランケンシュタインの特殊メイクでも見せびらかしに来たのかと一瞬思ったが。
生々しい臭いがそうではないと言っているようだった。

「元気………そうではないよな……」

おそらく榎倉は無事では無いのだろう。

感情が追いつかず、目から溢れ出す熱を感じることしか出来なくて、ただ石井はその場に立ち尽くしていた。

榎倉がぺた、ぺたと湿り気のある手で石井の腕を、肩を這って頬に辿り着く。

涙を拭う親指の感触は、まるで潰れたトマトを押し付けられているようだった。



石井は我ながらよく眠れたものだと思っていた。

出来事に頭が追いつかず、玄関に榎倉を残したまま石井はシャワーを浴び、再び寝床についていた。

薄く開けたカーテンからやわらかく差し込む朝陽。
形容しがたい匂いは、もうしていない。

夢だったのだろうか?

むくり、と起き上がれば、ふわ、と鼻腔を横切っていく香りがあった。
出汁のきいてる味噌汁の匂い。

石井が朝からあまり感じることの無い匂いだった。

「おはよう」

台所に向かうと、榎倉が立っていた。

「え……?あれっ??」

石井の頭が混乱する。

夢(?)で見た榎倉はゾンビのように崩れていたが、台所には身なりの整った榎倉が立っている。皮膚の色は生気を感じる色をしていて、顔も崩れていない。

しかし、左目はずっと閉じられていた。

「何で居んの?」

そう訊くのが石井の精一杯だった。

「昨日来たろ」
「…………帰ったと思ってたよ」
「あれからシャワー借りたから。勝手にごめんな」
「それはいいけど…」
「それと、ごめん」
「なに」
「流すに流せなかったから、後で浴室の掃除しとくな」

と、榎倉が謝る。

イヤな予感がして、石井は浴室に向かった。

バタン。

見なかった事にしたくて、浴室のドアを閉じる。

間違いない。
昨日見た光景は、現実の出来事だった。

「お詫びにちゃんと掃除するから」
「いや、後でやっとく。いいから、とりあえずお前は帰れよ」
「どこに?」
「は?」

榎倉はキョトンとしている。

「俺はどこに帰ればいいの?」



榎倉はどうやら、会社と石井の自宅以外の記憶が抜け落ちているようだった。

同棲していた女性の事も覚えていない。
自宅も覚えていない。
実家も。
家族のことも。

捜索願が出ている男が家に居る。
警察に届けたらいいのか、まずは会社に向かうべきなのか。
調べようと反射的にスマホを取り出したが、石井は充電器の上に戻した。

決心がつかなかった。

報せてしまえば、榎倉は────



「石井」

榎倉に呼ばれて、我に返る。

「どうしたんだ、ぼんやりして」

そう言いながら、榎倉は白飯を口に運ぶ。
咀嚼して飲み込めているようだ。

生きてるのか、死んでるのか、はっきりしろよ…。

石井は深くため息をついた。

再びスマホを手にとると、石井は会社に休みの連絡を入れた。
有給はさすがに無理だろうな……。

再び、ため息をつく。




「何があったんだよ」

食器を洗いながら、石井が尋ねる。
榎倉は呑気にコーヒーを飲んでいた。

「何がって?」
「昨日、ひどい有様だったろ」

榎倉が昨晩のことを覚えているのなら、と石井は遠慮しなかった。
遺体が訪問など、映画でしか観たことが無い。

「あぁ…………」

コト、とカップを置く音が聞こえた。

「俺も………あまりよく覚えてないんだけど……」

と前置きをして、榎倉が話す。

「いつだったか……、夜だったかな。
どこだったかも覚えてないけど、後ろから急に紐みたいなもので首を絞められてさ。
気が遠くなったまま、車に乗せられて。

それで………」

まるで世間話をするように話しているが想像したよりもひどい目にあっていたようで、食器洗いの手を止めて石井は言葉を遮った。

「辛かったらいいよ!」
「大丈夫だ。今は何とも思ってないよ」

榎倉はふ、と笑って続けた。

「それに、石井にも聞いてもらいたくなった」
「………………」
「山の中なのかな?物置きみたいな所に転がされて、しばらく放ったらかしにされてたのかな…?

気がつくと、俺は裸足で道を歩いてたんだ」
「山からここまで歩いて来たのか!?」
「そうなんだろうな……」

榎倉は右目を細めて、思い出そうとしている。

「それで、何で家だったんだよ」
「…………うーん、何と言えばいいかな…」

一度、榎倉は石井を見て、それから両目を瞑って何やら思案している。

「………俺、昨晩はあまり目が視えてなかったんだ」

ぽつり、と榎倉は続けた。

「真っ暗い中、糸のような光しか視えてなくて。とにかくその糸を辿ったんだ」
「うん」
「…………中でも一番明るくて、太い糸があってな。それを辿ったら、お前の所だった」
「えっ」

「……………」
「……………」

室内に、沈黙が流れる。

窓の外から聴こえる救急車のサイレンの音や、工事の音などが遠ざかっていく。
現実が遠のいていくようだった。

「………俺も一晩考えたんだ。
何で、石井のとこだったんだろう。って」

石井が音に縋るのを榎倉が遮る。

「お前に一番に会いたかったんだと思う」

榎倉は左目の目蓋を上げて、両目で真っ直ぐに石井を見つめた。
左目があるはずの部分は、やはり空洞になっていた。

石井の額に、冷や汗が吹き出す。

「お前と一緒に」

榎倉が向かいに座る石井の腕に、手を這わせる。指の固さを衣服越しに感じて、石井はそれを振り払うことが出来なかった。


「いきたかったんだと思う」







果たしてBLと呼んでいいものか分かりませんが、お題お借りして話を考えるの楽しかったです。
また懲りずに参加したい。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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