「がんばって自分の時間を売る」のをやめたとき、その男の子の目の前で、本物の魔法が始まった!【学校が教えないお金の講座の連載小説その2】第1話:クエスト発生!「おこづかい10円」の壁
「うわぁ!
これ、絶対に面白いやつだ……!」
僕の名前はソウタ。
小学3年生の9歳。
今、おもちゃ屋さんのショーウィンドウの前で、僕の目は完全に釘付けになっていた。
大好きなRPG(ロールプレイングゲーム)の最新作のポスター。
剣を持った主人公が、カッコいいドラゴンに向かって飛び出す絵が描かれている。
「欲しい!
どうしてもこのゲームがやりたい!」
でも、ポスターの端っこに書かれた数字を見て、僕の心はシュンと萎んでしまった。
価格:6,600円(消費税等込)
6,600円。
僕にとって、それは宇宙の果てにある星くらい、遠くて大きすぎる数字だった。
家に帰って、キッチンにいるお母さんにダメ元で頼んでみた。
「お母さん! お願い。今度のゲーム、本当に面白そうなんだ! 買って!」
お母さんは野菜を切る手を止めて、困ったようにハハハと笑った。
「ダメよ、ソウタ。うちにはゲームを買う余分なお金はありません。欲しければ、自分のおこづかいを貯めて買いなさい」
僕の毎月のおこづかいは、300円。
頭の中で、簡単な算数をしてみる。
6,600円 ÷ 300円 = 22……。
「に、22ヶ月……!?
2年近くも待ったら、もう新しいゲームが出ちゃうよ!」
ガックリと肩を落とす僕を見て、お母さんがニコニコしながら言った。
「じゃあ、ソウタにお仕事をあげるわ。
おうちのお手伝いをしたら、おこづかいをプラスしてあげる。
お皿洗いを1回やったら、10円ね」
お皿洗い、1回10円。
ゲームは6,600円。
ということは……。
6,600円 ÷ 10円 = 660回。
お皿を660回洗えば、ゲームが手に入る!
なんだか、ゲームの中で
「スライムを660匹倒すクエスト」
・・・に挑戦するみたいで、なんだか少しだけ、ワクワクしてきた。
「よし、クエスト発生だ! やるぞー!」

でも、ゲームのクエストと、現実の「おしごと」は全然違っていた。
キッチンの前に青い台を置いて、その上に立つ。
洗剤の泡まみれのお皿はぬるぬる滑って、何度も落としそうになる。
「うわっ! 目に泡が入った!」
お湯は熱いし、立ちっぱなしで足や腰が痛くなってくる。
お皿洗いをたった1回やるだけで、僕のHP(体力)は、ほぼゼロになってしまった。
クタクタになってリビングの床にへたり込んだ僕の手のひらに、お母さんがポンと、茶色いコインを載せてくれた。
「はい、お疲れ様。お給料の10円よ」
手のひらの上の、たった1枚の10円玉。
あと659回、この地獄のようなお皿洗いを続けなきゃいけない…
そう思うと、僕の目の前は真っ暗になった。

「こんなの、無理だよ……。
ゲームを買う前に、僕のHPがゼロになって倒れちゃうよ……」
自分の時間をがんばって売ってお金をもらう「おしごと」は、僕にとって、絶対にクリアできない、まさに『超・クソゲー!』だった。
でも、この時の僕はまだ知らなかった。
時間を売るのをやめた時に、僕の目の前に「本当の魔法(お仕事クエスト)」が現れることを。
(第2話へ続く)
