【学校が教えないお金の講座の連載小説その2】「がんばって自分の時間を売る」のをやめたとき、その男の子の目の前で、本物の魔法が始まった!第2話:おもちゃのお医者さん。まほうの「HP回復」
次の日、僕は昨日洗ったお皿の「10円玉」を持って、トボトボと歩いていた。
「はぁ……。ゲームを買う前に、僕のゲーム機自体が壊れちゃうよ……」
実は、僕が今持っている古いゲーム機は、十字キーのボタンがへこんだまま戻らなくなっていた。
これじゃあ、新しいゲームを買ってもまともに遊べない。
あきらめ半分で向かったのは、商店街のはずれにある小さな古いお店。
木でできた看板には、手書きの文字でこう書かれている。
おもちゃの病院 修理・お直し
ここは、壊れたおもちゃをなんでも直してくれる、ゲンさんというおじいちゃんがやっているお店だ。
カラン、コロン…と、ドアを開けると、中には古いねじ巻き人形や、カラフルなブリキのロボット、柱時計が所狭しと並んでいた。
奥の作業台では、白いひげを生やしたゲンさんが、拡大鏡を目にあててピンセットを動かしている。
「おや、ソウタくんじゃないか。
どうした、元気がなさそうだな」
「ゲンさん……。
これ、ボタンが動かなくなっちゃって。
直せるかな?」
僕はポケットからボロボロのゲーム機を取り出した。
ゲンさんは「ふむ」とそれを受け取って、ピンセットでカチャカチャと弄り始めた。
僕は作業を待ちながら、昨日の「10円お皿洗い地獄」の愚痴をこぼした。
「ゲームソフトが欲しくてお皿洗いを始めたんだけど、1回10円なんだ。
6,600円貯めるには660回もやらなきゃいけなくて……。
疲れすぎて僕のHPがゼロになっちゃった。
お仕事って、こんなに辛くって、我慢するだけのものなのかな…?」
ゲンさんは小さなネジを締め直しながら、フハハと優しく笑った。
「ソウタくん。それはね、ゲームで言えば、
『レベル1のまま、一番弱いスライムを660匹、ずーっと倒し続けている』
・・・ようなものじゃよ。
退屈だし、疲れるばかりでちっともレベルアップしない。
そんな『クソゲー』みたいな働き方をしてばかりいたら、HPがいくらあっても足りんよ」

「スライムを660匹……。
まさにそんな感じだよ!
じゃあ、どうしたらいいの?」
「お仕事の本質はね、我慢することじゃないよ。
『誰かの困りごとを解決して、相手のHPを回復させてあげる』
・・・ことなんじゃよ」
ゲンさんはそう言うと、カチッ、とゲーム機のボタンを押した。
へこんでいた十字キーが、新品みたいに軽快な音を立ててパッと戻ってきた。
「ほれ、直ったぞ。
動かしてみてごらん」
「うわぁ! 動く!
すっごい!
ありがとう、ゲンさん!」
僕が飛び上がって喜ぶと、ゲンさんは嬉しそうに目を細めた。
「どうだい?
ボタンが直って、ソウタくんの『困った(HPマイナス)』が消えて、ワクワク(HP回復)しただろう。
今、ワシはソウタくんの困りごとを解決して『ありがとう』という価値を生み出した。
お金というのはな、この、
『相手のHPを回復してあげた時の、ありがとうのしるし』
・・・として受け取るものなんじゃよ」
「ありがとうの、しるし……」
「そう。
ただ時間を売って我慢するだけだったら、誰もHPは回復せん。
どうすれば目の前の人を喜ばせられるか、ワクワクさせられるか。
その『クエスト』をクリアしたときに、初めて本物の報酬がもらえるんじゃよ」
ゲンさんの言葉が、僕の胸の中にスーッと染み込んでいくのを感じた。
お皿を洗ってお金をもらうのは、お母さんの困りごとを解決したからなんじゃない。
ただ「時間を売った我慢の代わり」だったから、ただただ、あんなに辛かっただけだったんだ。

「相手のHPを回復するクエスト……。
僕にも、誰かの困りごとを解決して、ありがとうって言ってもらえるクエスト、作れるかな?」
「もちろんとも。ソウタくんは、どんな人を笑顔にしたいかい?」
ゲンさんは、僕の頭を大きな温かい手でなでてくれた。
ゲーム機のボタンをパチパチと押しながら、僕の頭の中で、新しい
「冒険のマップ」
が、少しずつ広がり始めていた。
(第3話へ続く)
