生サーモンの日に、かにを頼む
昼間に買い物へ行くと暑い。それがわかっているので、今日は仕事が終わってからにした。
外に出ると、日は落ちかけていた。アスファルトはまだ熱を持っている。ただ、風が吹くと腕のあたりだけ涼しくなる。昼間の風は熱風だが、この時間のはちゃんと風である。同じものが、時間で別物になる。
業務スーパーへ向かった。オートミールの買い置きがなくなったからだ。切れたわけではない。今使っている袋はまだある。ただ、次の袋がないという状態が落ち着かない。切れてから買いに行くのでは間に合わない気がする。何に間に合わないのかは、自分でもよくわからない。
オートミールは二種類買う。ロールドオーツとクイックオーツ。五百グラムずつ。粒がしっかり残るほうと、すぐ煮えるほう。一種類にまとめればいいのに、毎回二袋になる。用途が違うのだから仕方がない、と自分には説明してある。ついでに塩昆布を買い、お菓子も買った。お菓子はいつも「ついで」の枠からはみ出す。
袋を提げて歩いていると、腹が減ってきた。じわじわ、ではない。ある地点を過ぎたところで、はっきりと減った。そう、腹がへったのだ。
で、くら寿司の前を通った。迷わなかった。
この前来たときは、にしんとほっけをやっていた。あれをもう一度食べるつもりで入った。ところが、フェアは終わっていた。今はかにである。魚の名前が変わっただけで、店の中は同じ顔をしている。
まずサーモン。7月30日は生サーモンの日らしいので、これは義理のようなものだ。生(7)サーモン(30)の語呂合わせだそうで、強引だが、記念日というのはだいたい強引である。ネタが厚い。醤油は少しでいい。噛むというより、口の中の温度で先に崩れる。玉ねぎとマヨネーズの乗ったサーモンも頼んだ。同じ魚が二皿続く。今日はそれでいいことにする。


かに身軍艦が来た。海苔の上に、白い繊維が山になっている。皿からはみ出して、二本ほど落ちている。見た目は立派である。これは期待していい、と思った。

食べた。かにである。かにではあるのだが、思っていたかにより二段ほど手前で止まった。期待しすぎたのだと思う。かにに罪はない。頼む前に頭の中でかにを二回くらい食べていた、こちらの問題である。
あとはえんがわ、鉄火巻き。結局いつものものに戻る。皿を重ねて、腹はきちんといっぱいになった。


帰りも歩いた。まっすぐ帰ればいいのに、水辺の森公園のほうへ回り道をした。腹がいっぱいのときほど遠回りをしたくなるのは、なぜなのか。水の上を渡ってくる風は、来るときの風よりもう少し涼しかった。
空に月が出ていた。建物の上のあたりに、ひとつだけ明るい。少し霞んでいて、まわりに光の輪ができている。たしか昨日が満月だったはずだ。あとで調べたら、満月の瞬間は昨夜の十一時三十六分だった。今夜は十六夜ということになる。欠けているはずだが、見上げてもわからない。

耳ではオーディブルが鳴っている。「転生したらスライムだった件」の四巻。スライムに転生した男が、着々と国を作っていた。こちらは寿司を食べて、月を見ながら歩いている。
袋の中で、オートミールが歩くたびに鳴っていた。二袋ぶんの音がした。

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