書いたやつと飲んだことがある
今日は星の王子さまの日。
窓の外に長崎の港の灯りが見える夜、神様と猪口を交わしていた。神様は、あの本を読んだことがあるのだろうか。そう聞いてみたら、思いがけない答えが返ってきた。


今日は星の王子さまの日。
サン=テグジュペリの誕生日で、箱根に記念館がオープンした日でもあるそうだ。あの本のことは、私もどこかで知っているはずなのだけど、いつ読んだのか思い出せない。
正確には、Audibleで聞いたのだ。でも、ながら聴きで何かをしながら流していたせいか、王子さまがどんな声で、誰と出会って、最後にどこへ行ったのか、輪郭がぼやけたまま頭の中に残っている。砂漠と、薔薇と、キツネ。覚えているのは、そのくらいだ。
だから神様が「書いたやつとは一度飲んだことがある」と言ったとき、私は時代が合わないですよね、と返しかけて、そういえばあの作家は飛行士で、地中海で消息を絶ったのだったか、と頭のどこかで思った。
消息を絶った人と、神様が飲んだことがある。
そう考えると、ぎりぎり辻褄が合ってしまう気もした。
顔を上げたら、神様はもういなかった。卓袱台の上に、徳利と空の猪口だけが残っていた。窓の外の港の灯りが、少しだけ星座の形に並んで見える夜だった。
朝になって、卓袱台の上には、私の猪口だけが残っていた。徳利の中身は半分のまま。窓を開けると、港の上を一隻の貨物船がゆっくり進んでいて、夏の匂いがした。
もう一度、ちゃんと聞いてみようかと思った。今度は何かをしながらじゃなく、王子さまの声を、ちゃんと耳の中に残せるように。
*漫画は新宇佐美式六号で描きました。
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