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【東大日本史 1979年 第4問】三国干渉、日本はなぜ受諾したのか――陸奥宗光の情勢判断を読み解く

日清戦争に勝利し、下関条約で遼東半島を手に入れたはずの日本。しかしそのわずか数日後、ロシア・ドイツ・フランスという3つの大国から、いきなり「その土地を返しなさい」と迫られます。世に言う「三国干渉」です。

東大日本史1979年第4問は、この三国干渉に対する日本政府の対応策が最終的に決定されるまでの経緯を、ある政治家の回想録――実はこれが誰の、どの著作かを見抜くことも設問の一部です――を史料に、その筆者の情勢判断を中心に、たった1問・250字で説明させる一題です。

東大受験生にとっては、史料の中に人物名が明示されていない中で、「余」と記された人物が誰であるかを文脈から特定し、その人物の判断の筋道を正確にたどる、高度な史料読解力が試される良問です。日本史が好きな一般読者にとっても、大国からの理不尽とも思える要求に、日本の指導者たちがどう向き合い、何を優先して判断を下したのかという、外交交渉の緊迫したドラマを味わえる設問になっています。

この記事では、現役弁護士である筆者が、法律文書の答案作成と同じ視点――「問いの要求を正確に分解し、根拠を積み上げて結論を導く」という発想――で、この設問を解きほぐしていきます。

無料パートでは、問題文の要旨と出題の意図、そして設問の「読み取り」までをお渡しします。有料パートでは、史料のどの記述をどの答案要素に対応させるかという構成メモと、字数制限を守った解答例を公開します。


無料パート

1.問題文の要旨

問題文は、ある政治家の回想録の一節を史料として掲げています(原文の逐語的な転載は避け、内容を筆者の言葉で再構成しています。原文全文は各種東大過去問集などでご確認ください)。要点を整理すると、次のような経緯が語られています。

  • 広島で開かれた御前会議で、伊藤博文総理が3つの選択肢を提示した。第一に、露・独・仏の勧告を断固拒絶する案。第二に、列国会議を招請し、遼東半島の問題をその会議で処理する案。第三に、三国の勧告をそのまま受け入れ、清国に遼東半島を返還する案である。

  • 出席者による議論の結果、御前会議ではひとまず第二案(列国会議の招請)で方針が固まった。

  • 伊藤総理は会議を終えたその夜のうちに広島を発ち、病気療養中だった回想録の筆者(「余」)を舞子に訪ね、御前会議の結論を伝え、意見を求めた。

  • しかし「余」は、この列国会議案に同意できないとして反対した。理由は、多数の大国が参加する会議の開催には時間がかかりすぎ、和戦未定のまま時間を費やせば事態がいっそう困難になること、また会議が開かれれば各国がそれぞれの利害を持ち出し、議論が遼東半島の問題にとどまらず、最終的に下関条約全体を破綻させかねないことにあった。

  • 伊藤総理をはじめ、松方・野村の両大臣も「余」の意見に同意した。

  • 「余」はさらに、三国との交渉が長引けば、清国がその隙に乗じて下関条約の批准を放棄する恐れがあると指摘し、三国に対しては譲歩せざるをえないが、清国に対しては一歩も譲るべきではない、という結論に至った。

  • 野村内務大臣がその夜のうちに広島に戻り、この決議の内容を明治天皇に伝え、裁可を得た。

設問は次の1問です(字数はこちらでまとめ直したものです)。

  • 「露、独、仏の勧告」に対する日本政府の対応策が、最終的に決定されるに至る論議の経過について、この回想録の筆者の情勢判断を中心に、250字以内(句読点も1字に数える)で説明せよ。

2.なぜこの問題が面白いのか(受験生向け/一般読者向け)

受験生向けに: この問題の面白さは、史料の中で「余」としか記されていない人物が誰であるかを、史料の内容そのものから推理させる点にあります。舞子で病気療養していたこと、外交の最終判断に決定的な影響を与えたこと、御前会議には出席していなかったことなど、史料中の手がかりを丁寧に拾えば、この人物が三国干渉当時の外務大臣であったことにたどり着けます。単に史実を暗記しているだけでなく、史料を丁寧に読み込んで人物や状況を特定する力が問われる、良質な史料問題です。また、設問が求めているのは単なる出来事の時系列ではなく、「筆者の情勢判断」という、意思決定の"理由"にどこまで踏み込めるかという点です。

一般読者向けに: 日清戦争に勝利し、清国から広大な遼東半島を手に入れたにもかかわらず、日本はわずか1週間ほどでそれを手放すことになります。普通に考えれば屈辱的な決断ですが、その判断を下した人物の頭の中には、実に冷静な損得勘定がありました。「大国どうしの会議を開けば、話がどんどん大きくなって、講和条約そのものが台無しになりかねない。それより、遼東半島は諦めてでも、清国との講和条約はきっちり守らせたほうが得策だ」――この判断は、感情に流されず、複数の選択肢を比較して最悪の事態を避けるという、外交の要諦を教えてくれます。「勝者」でありながら「譲歩」を選んだ、この意思決定のプロセスを追うことで、外交における合理性とは何かが見えてきます。

3.設問の読み取り――何を、どの視点で問われているか

資料の使い方に入る前に、まず「設問が何を要求しているか」を正確に分解しておきましょう。

要求は、「露、独、仏の勧告」に対する日本政府の対応策が最終的に決定されるまでの「論議の経過」です。条件として、史料の筆者の「情勢判断」を中心に説明することが明示されています。つまり、単に出来事を時系列で並べるだけでなく、なぜその判断に至ったのかという理由(情勢判断の中身)を、答案の中心に据える必要があります。

もう1つ押さえておきたいのは、「経過」という言葉が示す構造です。史料には、(1)御前会議での当初の決定、(2)それに対する筆者の反対とその理由、(3)伊藤総理らの同意、(4)最終的な結論、という段階的な流れが描かれています。答案は、この段階的な流れに沿って、「当初どう決まりかけていたか」→「なぜそれが覆ったか」→「最終的にどう決着したか」という構成で組み立てる必要があります。

字数は250字以内(句読点も1字に数える)です。これまでの設問(第1問・第2問・第3問がいずれも200字以内)と比べてやや長く、論議の経過を丁寧に追う分量が確保されています。

――ここから先は有料部分です――
(問いの読み取りまでは無料でお渡ししました。ここから先は、史料のどの記述をどの答案要素に対応させるかという「構成メモ」と、字数制限を守った「解答例」を公開します。ご自身でまず組み立ててみたい方は、ここで一度手を止めて答案を書いてみることをおすすめします。)

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