#5-13 軌跡と予感|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第13話 軌跡と予感
雪が積もる森を、すでに数日、進んでいた。
そのあいだ、タトは決してミミを一人にしなかった。
しかし、ラーフェで起きたような激しい魔現象は、起こらなかった。
簡易テントの中で、レイが毛皮をブーツに巻き付けながら、ふとタトに声をかける。
「タト、ひとつ気になっていたんだが……、
ルミナリーから隣の“空白の塔”へ向かった者はいなかったのかい?」
タトは刃物の手入れを続けながら答えた。
「いたよ。でも、あちら側は……氷の壁に阻まれているんだ。
ルミナリーが沈んだのか、あちらの街が隆起したのかはわからないけれど、氷に覆われた絶壁がある」
「そうか……。ルミナリーからも分断されているとなると、情報は全くないな」
保存食を作っていたルリが、手を止めて口を挟んだ。
「ヴァリスからラーフェに渡った旅人も気になるわね。イオは、会わなかった?」
問われたイオは、相変わらず淡々と答えた。
「会いました。地下都市ラーフェに数日滞在後、彼はこの地を離れました」
レイはテントの外を舞う雪に目を向けた。
「ずいぶん急いでいたみたいだな。十年前といえば、近年最大の大災害とも重なる」
ルリがうなずく。
「そうね。あの吹き下ろしの大災害は、彼が去った年の冬だったわ。ヴァリスでは長老が亡くなって、長は左腕を失う大怪我をしたのよ」
タトは思考を巡らせる。
「旅人は災害を予感していたのかな……それで急いでいた、とか?」
レイが顎をつまんで呟いた。
「もしくは、彼が……いや、一人で何かできるものでもない。彼が持ち出したヴァリスのオリジア石の行方も気になる。
どこかで彼の痕跡が見つかることを期待しよう」
イオは静かにその場を見渡していた。
仮面の奥から、一人ひとりの言葉を確かめるように。
その視線は、森の先に広がる未来を見通そうとしているかのようだった。
ミミは治りかけの皮膚をつついていたが、伸び始めた毛を引っぱりながら元気に笑う。
「よーし、どんどん進むぞ!」
ルリは肩をすくめ、柔らかく微笑んだ。
「まだ無茶しちゃダメよ。冬の森は油断できないわ」
空からの雪はサラサラと落ちる速度を上げた。
氷山に近づくほど魔獣は増え、魔現象という“過去の痕跡”が息を潜めているように感じられる。
不穏な気配と冬の寒さが、これからの旅路の厳しさを告げていた。
しかし、こうやって共に過ごす時間が、一行の絆を確かに深めていた。
ミミの焚き火がぱちんと弾け、ルリの鼻歌が心地良い。
タトは、自分が二人に分裂するという怪現象を抱えながらも、誰もそれを責めず、そばにいてくれることに、静かな安堵を覚えていた。
――だが、この先でルリの決断と交錯することになるとは、まだ誰も予想すらしていなかった。
(第六章へつづく)

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