【番外編】ジュース職人・ジル|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜
こにらは、連載小説「追憶のオリジン」の番外編、読み切りストーリーです。
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【番外編】ジュース職人・ジル
私の名はジル。
ルミナリーの街のジュース屋だ。
といっても、この街しか知らない。誰もここより他へは行かれない。なぜかって、周りが「魔獣の森」だらけだからだ。
もう何百年も変わらない。この限られた小さな世界で生きてるってわけ。
この街で私が毎日作るジュースは、ただもんじゃない。
栄養補給、疲労回復、健康長寿――共生系の合成魔法で作る、生活に欠かせない、とっておきの飲み物さ。
この街の四人に一人は魔法を扱うが、私はその中でも素材合成がピカイチってことで。
私は「希望の塔」とかつて呼ばれた、崩れかけの教会塔のそばに暮らしてる。仕事がらここが一番便利だし、一度慣れた場所は動かない主義だ。
だから、最年少のニナの世話役も兼ねてる。ニナは新入りで7歳。足が悪く、目も少し見えづらい。けど、あの子ときたら根性があって、いつも笑顔で魔法糸の布を織っているんだ。その可愛い笑顔に、こっちまで助けられてる。
同じ棟には、タトがいた。
タトは、この教会エリアで数少ない年長者の一人だが、魔法は持っていない。
なのに教会の長老婆にしょっちゅう呼ばれて、守り人候補と一緒に手伝いなんかしてるから、面白くないって奴も多かった。まぁ単に、婆さんのお気に入りなんだろう。
タトは、外じゃ愛想が良いのに、長屋に戻ると、いつもどこか晴れない顔をしていた。
まったく、特別でも、特別でなくても、勝手に悩んで抱え込む。あいつの悪い癖だ。
でも、私とは真逆のその感性が、私には面白かったし、見ていて飽きなかった。
私は、存外あいつを気に入ってたんだ。
ある日、あいつは深刻そうな顔で、黒く輝く石を見せてきた。
そしてなんとその翌日、旅立ちを決めた。
あいつはいつもそうだ。誰にも何も言わないで行動する。
でも、うじうじ悩んでるかと思えば、変なところでテキパキ動くから、衝動的じゃないことは知ってる。
だから私は、黙って見送ることにした。限られた時間でできる、とびきりのジュースを作ってね。
旅立ちのいきさつは、すぐに街中に広まった。 タトが森で伝説の石を見つけ、伝承の「オリジン」だと判明したこと。そして、女王がいる氷山へ旅立つってこと。
驚いたかって?まあね。
私だって、子どもの頃に何人か見送ったのを見てる。
引き返した者は大怪我、帰らない者はそのまま。街を出るってそういうことさ。
街は今、10年前の大災害からやっと落ち着いたところだ。このタイミングで旅立つのは、必然なんだろう。
それがあいつとかって、全く、タトらしいというか、本当に飽きさせない子だ。
長屋まで何人も訪ねて来たけど、あいつはいつもの仕事みたいに、早朝にあっさりと旅立った。
私たちもいつも通り見送ったよ。それがタトの望む形だったし、何より、みんなも声をかけたら、さ…。
あいつは器用貧乏で気が利くくせに、自分のことには鈍感でさ。自己主張もせず、周りの役に立つことばかり気にしていた。
案外、あいつのことを気に入っていた人は多かったんだ。
タトが去ってから、長老婆は毎日、森の入り口を見つめている。
男たちは危険だと分かっていても、わざわざ北の森へ狩りに出るようになった。
ニナは、タトが帰ったら着るだろうと、新しい着替えを一式織って、棚にしまってる。
この世界じゃ、別れはあっけなく来るもんだ。
だからこそ、今日を生き抜き、明日へ繋げる。それが、未来への基盤になる。
私にできることは、ただ目の前のジュースを完璧に仕上げることだ。ニナと笑って、うまい飯を食べて、寝る。
私一人ができることをやれば、それで十分だ。
私たちはいつだって、準備をしているのさ。
タトもそうに違いない。だから、わざと日常の延長で旅立ったんだ。勇者気取りでカッコつける柄でもないだろう。
だがな、時間さえあれば、もっといいものを持たせてやれたんだ。まったく。
願わくば、一緒に過ごした日々が、いつかあいつの力になってくれたらと思う。
たまに思うんだ。
あの子は今、どんな顔をしてるだろうか。
また複雑そうな顔をしていたら、いつもの軽口をたたいて、あの能面ヅラをちょびっと歪ませてやりたい。
氷山にいるのなら、ここから叫んでやりたい。
「お前はいつも——!」
……まあ、いいか。
どうせまた面白い顔して帰って来るに決まってる。
そしたら、たっぷり言ってやるさ。
あいつ、どんな顔するかな。(ニヤリ)
(おわり)
ジルは、第一章と番外編に出てきます。
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◯本編マガジン(月・木更新)
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