#3-1 ざわめくもの|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜
第1話 ざわめくもの
フェリサリアの教会を後にし、森へ入ると、どこからかミミが現れた。
「ミミ。お待たせ。
教会で、守り人のエリザに会ったよ。
君の話をしたら、驚いていた。」
日が傾きはじめた森を、ふたりは歩く。
「……エリザ」
その名を聞いたミミは悲しそうに俯き、小さな声で言った。
「ミミ、怒りん坊なの。だから、みんなに嫌われちゃうの。
……タトも、ミミのこと嫌いになる?」
タトは少し歩を緩めた。
「そうか……ミミは、正直だからだね。
ボクは、ミミのそういうところ、好きだよ」
ふと、冷たい風が通り過ぎた気がした。
次の瞬間――
「ウソだっ!!」
鋭い声が森に響いた。ミミの毛が逆立ち、耳がピンと立つ。
「みんなそういって、でもミミから離れていくんだっ!それで、それで、ミジュクモノっていって、ミミを捨てるんだ!!」
ミミの形相が見る間に獣のように変わる。
「ガルルル……タトだって、ウソつくなら、噛みちぎってやるっ!!」
蒸気が立ちのぼり、空気が熱を帯びる。ミミの怒りが燃えあがり、その瞳が揺れていた。
タトは体が熱くなるのを感じた。
しかし、タトは逃げなかった。
ただまっすぐにミミを見て、静かに言った。
「……確かにボクは、ミミのことを全部は知らない。
でも、この森で一緒に過ごして、ボクは君を信じるよ」
タトは、まるで発火しそうなミミに、ゆっくりと歩み寄った。
「フーッ!ガルルルル……!」
「ミミ…。
ほら、大丈夫だから。こっちへおいで?」
ミミの前まで来ると、顔をのぞき込んだ。
そして、大切なものを包むように、そっと抱き上げると、
火照ったミミを膝に乗せ、赤い毛並みをやさしく撫でた。
「ウーッ……グルルル……」
歯を食いしばって唸るミミの口元に、飴を一粒差し出す。
パクッ。
「……あれっ?これ、樹液のじゃない!」
「ふふ。とっておきの、ベリーの飴なんだ」
ミミは驚いて、口の中に甘酸っぱさが広がるのを感じた。
――そして。
「おいしい……ふ、ふぇ〜ん!」
琥珀色の瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
「よしよし。ボクは、知ってる。ミミは、いい子だよ」
タトは、ミミの怒りを、炎のように美しいと思っていた。
それは、タトの心を温めてホッとすらさせる。
決して、人を傷つけるためではないのだ。
「ボクたちは、ずっと、友達だよ」
タトはただ黙って、泣きじゃくるミミを撫で続けた。
(つづく)
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