#7-3 夢幻の階段|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
【前回の話】
氷山の入り口「氷の門」で、門番ウォールに行く手を阻まれたタトたち。だが、ミミの姿を見たウォールは態度を一変させ、意味深に笑う。頂上の裁判官ドーマに会えと告げると、彼女は三人を通して門を閉じたのだった。

二手に分かれて移動中
7-3 夢幻の階段
門を抜けると、氷山の麓からジグザグに氷の階段が刻まれていた。
「タト、これを使って」
レイが腰からスッと杖を出す。
「二本あるの?」
「うん。伸縮式なんだ。こうして爪も出る。守りの魔法をかけた」
「レイ、ありがとう……」
「グラフトと作った特別製さ。 ミミは大丈夫だな?」
「うん。熱を分けようか?」
「ああ、頼む。」
ミミが二人の手を握ると、手のひらからじわりと熱が流れ込んだ。
寒さで疲弊していた体の芯が内側から温められ、二人は「ホーッ」と息を吐いた。
「へっへー、あとね、この毛皮のキレはし!熱を通すとめっちゃいいの!はい、足とおなかに入れてね」
ミミがギュッと握って熱を通すと、ポカポカと上質の湯たんぽのように熱を蓄えた。
防寒を整えると、タトは先の見えない階段を見据えた。
「よし、進もう」
三人は手すりも何もないその階段に足をかけた。
階段を上がるごとに、景色はまったく違う様相を見せた。
空の色が見る間に変わり、昼なのか夜なのか分からなかった。
黙々と足を進める背後から、ウォールの足音が、コツ、コツ、とだけ同じ調子で刻んでいる。
休んでも、進んでも聞こえるそれは、まるで、氷柱から落ちる水滴のようだった。
*
タトはいつしか、白い空の向こうに故郷ルミナリーの街を見ていた。
見えるはずのないあの森と星空。塔や長屋の仲間たち。冷害や獣害に立ち向かう大人たち。魔法を使えない悔しさ。見上げた氷山はいつも美しかった。
*
ミミは淡々と登る。
この氷は、どこか嫌だった。イライラとした。言葉を発したら叫びそうだった。そんなミミを察してか、タトは手を握ってくれた。見上げれば、タトはいつもほほえみかけてくれた。それはいつのことだったろう…。
*
同時にレイも、高い青空の向こうに、白鷹の視点でノーレムの街を見下ろしていた。
いつもの鐘がなる。朝の歌が聞こえる。感謝の歌、愛の歌、祈りの歌、風の歌…。共に育った仲間と塔を守る人々、にぎわいの街。
吹雪が視界をかき消す。レイは杖のプリズムを回した。グラフトと杖を作った時間が光に浮かぶ。
三人は、ここにいるのに、どこかへ旅をしているような、不思議な迷いのなかにいた。
コツ、コツ、という足音が、三人の意識をたまに氷山へ戻す。
いつ眠ったのか、何日経ったのかも分からない。
体温がうばわれ、ぶるりと身が縮むと、ミミが熱を分けてくれる。
目を合わせた視線だけが意識を細く保っていた。
その瞳の奥に記憶を見る。
これは誰の、いつの記憶だろうか?
三人は、自分であって誰かだった。
苦しみ、怒り、焦燥、慈しみ、悲しみ、安心…。
タトの詩が、レイの呪文が、たまに聞こえる。風がつぶやきを運ぶ。
朝焼けを見た。
高い空、白い光。
夕焼け、星めぐり。
光が落ちる。
暗闇が明ける。
これは誰の一歩だろう。
杖を突く振動も、分け合う熱の境目も、もう分からない。
フードの周りは凍りつき
呼吸音しか聞こえない。
吸って、吐く。
何度、繰り返しただろう。
もう覚えていない。
だが、そこは、見渡す限り広かった。
空と氷が溶け合うような、白一面。
氷の向こうから日が昇り、徐々に青く染めていく。
三人は足を止めた。
足元にはもう、登る階段はなかった。
(つづく)
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〇第七章マガジン
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