見出し画像

#7-3 夢幻の階段|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

←前のはなし    |    →次のはなし

【前回の話】
氷山の入り口「氷の門」で、門番ウォールに行く手を阻まれたタトたち。だが、ミミの姿を見たウォールは態度を一変させ、意味深に笑う。頂上の裁判官ドーマに会えと告げると、彼女は三人を通して門を閉じたのだった。

7−1,7−2
タト・ミミ・レイ/ルリ・イオ
二手に分かれて移動中


7-3 夢幻の階段


門を抜けると、氷山の麓からジグザグに氷の階段が刻まれていた。


「タト、これを使って」


レイが腰からスッと杖を出す。


「二本あるの?」


「うん。伸縮式なんだ。こうして爪も出る。守りの魔法をかけた」


「レイ、ありがとう……」


「グラフトと作った特別製さ。 ミミは大丈夫だな?」


「うん。熱を分けようか?」


「ああ、頼む。」


ミミが二人の手を握ると、手のひらからじわりと熱が流れ込んだ。
寒さで疲弊していた体の芯が内側から温められ、二人は「ホーッ」と息を吐いた。


「へっへー、あとね、この毛皮のキレはし!熱を通すとめっちゃいいの!はい、足とおなかに入れてね」

ミミがギュッと握って熱を通すと、ポカポカと上質の湯たんぽのように熱を蓄えた。


防寒を整えると、タトは先の見えない階段を見据えた。


「よし、進もう」


三人は手すりも何もないその階段に足をかけた。




階段を上がるごとに、景色はまったく違う様相を見せた。

空の色が見る間に変わり、昼なのか夜なのか分からなかった。


黙々と足を進める背後から、ウォールの足音が、コツ、コツ、とだけ同じ調子で刻んでいる。

休んでも、進んでも聞こえるそれは、まるで、氷柱から落ちる水滴のようだった。



タトはいつしか、白い空の向こうに故郷ルミナリーの街を見ていた。

見えるはずのないあの森と星空。塔や長屋の仲間たち。冷害や獣害に立ち向かう大人たち。魔法を使えない悔しさ。見上げた氷山はいつも美しかった。


ミミは淡々と登る。

この氷は、どこか嫌だった。イライラとした。言葉を発したら叫びそうだった。そんなミミを察してか、タトは手を握ってくれた。見上げれば、タトはいつもほほえみかけてくれた。それはいつのことだったろう…。


同時にレイも、高い青空の向こうに、白鷹の視点でノーレムの街を見下ろしていた。

いつもの鐘がなる。朝の歌が聞こえる。感謝の歌、愛の歌、祈りの歌、風の歌…。共に育った仲間と塔を守る人々、にぎわいの街。

吹雪が視界をかき消す。レイは杖のプリズムを回した。グラフトと杖を作った時間が光に浮かぶ。




三人は、ここにいるのに、どこかへ旅をしているような、不思議な迷いのなかにいた。


コツ、コツ、という足音が、三人の意識をたまに氷山へ戻す。


いつ眠ったのか、何日経ったのかも分からない。

体温がうばわれ、ぶるりと身が縮むと、ミミが熱を分けてくれる。

目を合わせた視線だけが意識を細く保っていた。


その瞳の奥に記憶を見る。

これは誰の、いつの記憶だろうか?

三人は、自分であって誰かだった。

苦しみ、怒り、焦燥、慈しみ、悲しみ、安心…。


タトの詩が、レイの呪文が、たまに聞こえる。風がつぶやきを運ぶ。


朝焼けを見た。

高い空、白い光。

夕焼け、星めぐり。

光が落ちる。

暗闇が明ける。


これは誰の一歩だろう。

杖を突く振動も、分け合う熱の境目も、もう分からない。

フードの周りは凍りつき

呼吸音しか聞こえない。

吸って、吐く。


何度、繰り返しただろう。

もう覚えていない。




だが、そこは、見渡す限り広かった。


空と氷が溶け合うような、白一面。

氷の向こうから日が昇り、徐々に青く染めていく。


三人は足を止めた。

足元にはもう、登る階段はなかった。



(つづく)


←前のはなし    |    →次のはなし


◯本編はこちら


◯設定・サイドストーリーはこちら


〇第七章マガジン


いいなと思ったら応援しよう!

望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡