#6-5 冬の芽吹き|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
6-5 冬の芽吹き
ミミが倒れた地面は、まだ熱を帯びていた。
焦げた木々の匂いと、雪で濡れ始めた土の匂いが混ざる。
タ・トはふらふらと駆け寄り、小さなミミの前に膝をついた。
彼女の体から、蒸気が立ちのぼっている。
その白いかすみの中に――誰かの苦しむ息づかいが、微かに混じっている気がした。
目の前で、大切なものが……壊れていく。
タトは夢なのか現実なのか、分からなくなっていた。
揺らぐ思考の中で、感情がどっと押し寄せる。
もう、どうだっていいんだ
夢でも、現実でも、
苛立ちも、悲しみも、
悔しさも、愛しさも、
プライドも、
憧れも、
矛盾も…
そう、そんなの、全部どうだっていい
ミミが生きていてくれるのなら。
震える手を伸ばす。
それまでタとトの二人だった手が一つに重なり、
ミミの小さな肩に触れた。
「ミミ…」
その体はぐったりと重く沈んでいた。
それでも、どうしようもなく、その命に手を伸ばしたくて――
二人のタトの存在がシンクロし、
重なった口から、自然に言葉がこぼれた。
ひとつ、深き風よ
ふたつ、揺れる影よ
みっつ、灯をたずさえ
魂のうたかたよ、
いまここにとどまり
凍える心に、ひとしずくの光を
イリース・ダムファム…
声は小さく、かすかにふるえていた。
けれど、唱えるほどにタトの意識はクリアになり 、その音は、確かに力強くなった。
その祈りは、タトの目から冷たくこぼれた涙と共に、 空気へ溶けていく――
その瞬間、 一人に重なったタトの全身が、やわらかな光に包まれた。
タトとミミを中心に地面から枝が伸びて、枝から緑色の葉がいっせいに芽吹いた。
それらは二人を丸く包み込んだ。
「魔力…!」
光る枝を見つめて、レイがつぶやいた。
タトとミミは枝に包まれて見えなくなった。 中がひときわ輝くと、 茂った葉が蕾が開くようにほどけて、土に還っていった。
止まっていたミミの胸が上下していた。血色のなかった顔に色がもどり、穏やかに目を閉じている。
――祈りは、届いた。
タトは彼女の表情を見つめ、そっと頬に触れた。
目から、熱い涙があふれる。
(なぜ、今まで信じようとしなかったのだろう。 なぜ、もっと早くに祈りの言葉を、かけてあげなかったのだろう…… 私は……
ミミ、ごめん)
横たわるミミの前で涙するタトの肩に、そっと手が添えられた。
レイは何も言わなかった。ただ、タトそばで共に祈ってくれた。
(つづく)

【ミニ解説👉️】二人のタト(タとト)はタ・トまたはタトと記載しています。これはタトがミミとレイの前ではほとんど差異がなくシンクロしているためです。
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