#6-9 大地の檻|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
【前回までのあらすじ】
ラーフェで女王討伐を断られたルリ。正義を信じて疑わなかった彼女は、初めて突きつけられた現実に足を止めていた。
一方、ミミを救いたい一心で魔力を発現させたタトは、木の力で極寒の森にシェルターを築く。一行は、ひとときの休息をとっていた。
6-9 大地の檻
初めて魔力が発現したタトは、湧き上がるような熱を感じていた。
大地から足裏を通って身体の奥に何かが流れ込んでくる。
(不思議だ…自分の体の血の巡りが、まるで見えるように感じられる)
そばの大木に手のひらをあててみた。
触れた瞬間、このモミの巨木の根の末端から、道管を通る樹液の震え、葉脈の先までもが見える気がした。
(ボクが魔法能力を…しかも木のエレメンタルなのか?)
現時点で分かった能力は、樹木の成長を操る力と、呪文を使った蘇生回復のようだ。
ルリの簡略化された呪文と違い、完成された癒し呪文の効果は大きく、疲弊していた三人の身体は、あっという間に回復した。
レイは興味深くタトを一通り調べると、嬉しそうに言った。
「未知の力だから、これから自分で開発していくといいよ。しかし、力の残量には気をつけるんだ。頭痛や目まいが初めのサインだよ。そのくらいなら一晩寝れば治る。無理をしないように」
*
魔現象に対して慎重になったタトは、常にミミに防御シェルターをかけた。
「タト〜、枝のカゴがミミから離れないよー」
「魔現象はミミを狙っているかもしれないんだ。いつもボクたちのそばにいるんだよ」
「でもぉ、狩りにも行けないよ」
「しばらくは三人で行動するんだ。いいね?」
「ちぇっ!これじゃあミミ、飼われてるみたいじゃんか…レイ、なんとか言ってよ〜!」
レイは困ったように肩をすくめた。
「悪いな。僕の魔法はミミには弾かれてしまうんだ。
でもたしかに…タト、心配のしすぎじゃないか?」
「ミミに何かあるよりはいいよ。ボクのそばにいるんだ」
ミミとレイは顔を見合わせた。
こうなると、タトはこれ以上何を言っても無駄なようだった。
*
深く静かな森を、三人は淡々と進んだ。さらに半月ほど経ったころ、不意に森が途切れた。その大地は一面、白い平野だった。
風が雪を巻き上げる。
いや、その一帯は氷だった。
「この凍りついた平野は……?」
「位置的には、このあたりが『空白の塔』の街のはずだ」
「森は途切れているけれど、何の跡もないね」
まるで街があった場所が、世界からぽっかりと消えてしまったかのような大地。
風が流れ、みるみるうちに光景を変えていく。
いつの間にか雲が流れ、光が差し込んだ。
「湖が、凍っているのか……! 」
「上を歩けるのかな?一応、ロープを繋ごう」
「ミミ、見てくる!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねて、白い雪煙の中に消えるミミ。
「待って! ……ミミ!!」
「大丈夫だよー! ねー、こっちー! 下に街が見えるよー!」
湖の中央方向へ進むと、薄く積もる粉雪の下、透明な氷の遥か深くに、街が見えた。
「街が、水に沈んで凍っている……?」
タトは息を呑んだ。
平野だと思った場所は巨大な湖で、その下に街がそのまま沈み、湖全体が凍っているのだ。
どこまでも透き通った氷の下に、放射状のメインロードと街路樹、街の建物が静止画のように見えた。
タトは、途端に足元がくらりとした。
大地がない。命の根源である土が、足元にないのだ。
「塔あったーーっ!!」
風が粉雪を舞い上げて辺りが白い。
どこからかミミの声が聞こえるが、タトは自分の立ち位置さえ分からなくなっていた。
(地面がない……。カゴが作れない。ミミを、守れない。ミミが、いなくなる!!)
「タト!」
強い力で腕を掴まれた。
レイのグレーの瞳がある。
その瞳が光を吸い込むようにタトの視線を固定し、同時に光が波紋となってタトの意識に返ってきた。
「しっかりしろ! 僕を見て」
「……あ……」
「タト、僕がここにいる。君もミミもここにいる。大丈夫だ」
パッ、と視界が開けた。
氷は相変わらず透明で、地面はない。でも、レイが掴む腕の感触や、凍てつく風の匂いが、確かな現実として脳に届く。
「……レイ?」
「ごめん、少しだけ言葉を通したよ。
……深呼吸して。ほら、離れないように進もう」
「ミミが……」
「大丈夫だ、彼女は強い。君が安定していれば、ミミも安定するんだ。わかるか?」
「……っ」
「もう少し、力を使うよ。
大地は常に僕らを支える。氷の下にも、水の下にも」
レイの口から心地よい呪文が漏れる。
意味は分からないのに、その音の粒に包まれるようだった。
すると、タトの足の裏が、確かに地面を感じた。
イメージが流れ込む。この世界の大地を、どこにいても感じることができる。
タトはしっかりと氷を踏みしめた。
「……もう大丈夫、ありがとう」
レイは頷くとロープを確認し、タトと固く手を握った。
二人は、雪煙の舞う氷の上をミミを探して歩き始めた。
(つづく)



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