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#6-9 大地の檻|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街

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【前回までのあらすじ】
ラーフェで女王討伐を断られたルリ。正義を信じて疑わなかった彼女は、初めて突きつけられた現実に足を止めていた。
一方、ミミを救いたい一心で魔力を発現させたタトは、木の力で極寒の森にシェルターを築く。一行は、ひとときの休息をとっていた。

6-9 大地の檻


初めて魔力が発現したタトは、湧き上がるような熱を感じていた。

大地から足裏を通って身体の奥に何かが流れ込んでくる。


(不思議だ…自分の体の血の巡りが、まるで見えるように感じられる)


そばの大木に手のひらをあててみた。

触れた瞬間、このモミの巨木の根の末端から、道管を通る樹液の震え、葉脈の先までもが見える気がした。

(ボクが魔法能力を…しかも木のエレメンタルなのか?)


現時点で分かった能力は、樹木の成長を操る力と、呪文を使った蘇生回復のようだ。

ルリの簡略化された呪文と違い、完成された癒し呪文の効果は大きく、疲弊していた三人の身体は、あっという間に回復した。


レイは興味深くタトを一通り調べると、嬉しそうに言った。

「未知の力だから、これから自分で開発していくといいよ。しかし、力の残量には気をつけるんだ。頭痛や目まいが初めのサインだよ。そのくらいなら一晩寝れば治る。無理をしないように」



魔現象に対して慎重になったタトは、常にミミに防御シェルターをかけた。


「タト〜、枝のカゴがミミから離れないよー」

「魔現象はミミを狙っているかもしれないんだ。いつもボクたちのそばにいるんだよ」

「でもぉ、狩りにも行けないよ」

「しばらくは三人で行動するんだ。いいね?」


「ちぇっ!これじゃあミミ、飼われてるみたいじゃんか…レイ、なんとか言ってよ〜!」


レイは困ったように肩をすくめた。


「悪いな。僕の魔法はミミには弾かれてしまうんだ。
でもたしかに…タト、心配のしすぎじゃないか?」


「ミミに何かあるよりはいいよ。ボクのそばにいるんだ」


ミミとレイは顔を見合わせた。

こうなると、タトはこれ以上何を言っても無駄なようだった。




深く静かな森を、三人は淡々と進んだ。さらに半月ほど経ったころ、不意に森が途切れた。その大地は一面、白い平野だった。

風が雪を巻き上げる。
いや、その一帯は氷だった。


「この凍りついた平野は……?」

「位置的には、このあたりが『空白の塔』の街のはずだ」

「森は途切れているけれど、何の跡もないね」

まるで街があった場所が、世界からぽっかりと消えてしまったかのような大地。
風が流れ、みるみるうちに光景を変えていく。

いつの間にか雲が流れ、光が差し込んだ。


「湖が、凍っているのか……! 」

「上を歩けるのかな?一応、ロープを繋ごう」

「ミミ、見てくる!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねて、白い雪煙の中に消えるミミ。

「待って! ……ミミ!!」

「大丈夫だよー! ねー、こっちー! 下に街が見えるよー!」

湖の中央方向へ進むと、薄く積もる粉雪の下、透明な氷の遥か深くに、街が見えた。


「街が、水に沈んで凍っている……?」

タトは息を呑んだ。

平野だと思った場所は巨大な湖で、その下に街がそのまま沈み、湖全体が凍っているのだ。

どこまでも透き通った氷の下に、放射状のメインロードと街路樹、街の建物が静止画のように見えた。

タトは、途端に足元がくらりとした。

大地がない。命の根源である土が、足元にないのだ。


「塔あったーーっ!!」


風が粉雪を舞い上げて辺りが白い。

どこからかミミの声が聞こえるが、タトは自分の立ち位置さえ分からなくなっていた。

(地面がない……。カゴが作れない。ミミを、守れない。ミミが、いなくなる!!)


「タト!」

強い力で腕を掴まれた。

レイのグレーの瞳がある。
その瞳が光を吸い込むようにタトの視線を固定し、同時に光が波紋となってタトの意識に返ってきた。


「しっかりしろ! 僕を見て」

「……あ……」

「タト、僕がここにいる。君もミミもここにいる。大丈夫だ」

パッ、と視界が開けた。

氷は相変わらず透明で、地面はない。でも、レイが掴む腕の感触や、凍てつく風の匂いが、確かな現実として脳に届く。


「……レイ?」

「ごめん、少しだけ言葉を通したよ。
……深呼吸して。ほら、離れないように進もう」

「ミミが……」

「大丈夫だ、彼女は強い。君が安定していれば、ミミも安定するんだ。わかるか?」

「……っ」

「もう少し、力を使うよ。
大地は常に僕らを支える。氷の下にも、水の下にも」

レイの口から心地よい呪文が漏れる。
意味は分からないのに、その音の粒に包まれるようだった。

すると、タトの足の裏が、確かに地面を感じた。

イメージが流れ込む。この世界の大地を、どこにいても感じることができる。

タトはしっかりと氷を踏みしめた。

「……もう大丈夫、ありがとう」


レイは頷くとロープを確認し、タトと固く手を握った。
二人は、雪煙の舞う氷の上をミミを探して歩き始めた。



(つづく)



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望月むう(ムーン)🐾|物語と思考|物語に浸りたい ここまで読んでくれてありがとう♡