#2-3 炎の予感|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街〜
第3話 炎の予感
夜が来ると、森はさらに厳しさを増した。
氷の底のような冷気。気を抜けば命を落とす。
タトは、立ったまま眠気と恐怖に耐え、ただ、夜明けを待った。
闇の中、遠くで木の軋む音がする。
風か。魔獣か。それとも――誰かの叫びのようにも聞こえる。
何かが、森を通り抜けていく。
――本当に、隣町はあるのだろうか?
タトは心の中で問いかけた。
この先の街について、誰も知らない。行って帰ってきた者が、ひとりもいないのだから。
脇に抱えた熾石(しせき)の温もりが、じんわりと伝わってくる。
この熱がある限りーー。
そう思えることだけが、タトを保っていた。
そんな夜を、タトは三晩、越えた。
*
日の光りが木々の隙間から差し込む昼下がり。
わずかな日が当たる岩の上で、タトは目を閉じていた。束の間の静かな温もりが、冷えきった体の奥まで染み込んでくるようだった。
――そのとき。
かすかに、焦げた匂いが鼻先をかすめた。
タトはさっと地面に降りると身を低くし、苔の上を無音で移動する。
(これは……木が燃える匂いだ)
ルミナリーでは、森で火を使うことは禁じられていた。
そもそも火を扱えるのは、火魔法に長けた者だけ。街では、長老婆だけだった。
ここはもう、あの街の加護が届かない場所――
そう思った瞬間、胸の奥に冷たいものが走る。
木々の奥に、ちらちらと赤い光が揺れている。
火の気配――どうやら、開けた場所があるらしい。
タトは息をひそめ、慎重に歩を進めた。
パチ、パチ……
薪の爆ぜる音がする。
――炎が、確かにそこにある。
(つづく)
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