#5-7 安心と使命|追憶のオリジン~氷の女王の眠る街
第7話 安心と使命
モーゼは静かに続けた。
「この世界で起こることは、全て定めです。あなた方が今、旅をし何かを変えようとするのも、その時が来たのでしょう。運命かもしれませんね」
ラーはタトたちを温かく見つめ、優しく付け加えた。
「あなた達は大丈夫よ。お仲間がいますものね。それにとても好ましい気が出ているわ」
タトが問いかけた。
「この街は、もう二度と地上へは出ないのですか?」
モーゼは組んだ指を少しだけ緩める。
「我々は地下で暮らすことを選んできました。その長い歴史の中で、変えたい者は変える。維持したい者は維持をするのです。たまに地下を出るものもいますよ。我々は、それは止めません」
タトはふと、意志を持たないような仮面の男を思い出した。
「地上にいる、イオフィリアは何者ですか?」
「彼はいつからか塔の上にいますが、地下へは来ません。我々とは全く別のものなのです。」
ラーがそっとモーゼの腕に手を添え言った。
「彼には彼の信念があるのよ。何かを待っているのかも知れないわね。
私たちは、彼のことを深く詮索しないのです。でも彼はこうして、あなた達を導いたり、自然と助けてくれているわね」
モーゼは穏やかにラーに頷いた。
「さあ、この街をご案内しましょう。ルリさんは照明が気になっているようかな?」
ルリは「え、ええ」と声をもらした。
「…あの緑色のランプは、光苔かしら?なんだか光り方が違うわ」
「観察眼が鋭い。いい色でしょう?これはね、昔から伝わるランプで、光苔と蛍ミミズから抽出したものを合成して発光させているのだよ。白い光は、光魔法を拡散させている。この街の要所に光と熱を届けるための、我々の知恵です」
レイは光る水路と、そこに育つ植物を指差した。
「地上の光は一切使っていないのですか?換気は?」
モーゼは愉快そうに笑い声を上げた。
「ははは。皆さん好奇心が強いですな、素晴らしいことだ。では、こちらへどうぞ。百聞は一見にしかず、です」
モーゼとラーの案内に従い、タトたちは地下都市の核心へと足を踏み入れた。
レイもルリもそしてミミも、見た事のない街と技術に、すでに夢中だった。
*
地下都市の暮らしは、驚くほど豊かだった。
地下とは思えないほど明るく、広場がたくさんあった。
「様々なセクションは色ごとに分かれているのですよ。こちらは白の広場です」
白い光に満ちた広場に棚状に植物が実り、噴水からたっぷりの水があふれている。 この光は、太陽の光よりも穏やかで、しかし驚くほど安定して見える。
光栽培の畑は通路の先まで続き、茂る豆や野菜。 水は噴水から都市を巡り、養殖池まで備えられていた。
地上の冬では見られない多くの食物に、ミミは目を輝かせた。
都市の中は、いつも一定の温度に保たれており、人々は簡素な服一枚で、穏やかに暮らしている。
宿泊のために用意された地下の部屋は、温かく乾いた空気がゆっくりと循環していた。
「――技術を維持したい者は維持をする、か……」
レイは、モーゼの言葉を反芻しながら、寝台に横たわった。
タトは柔らかな寝具、天井の装飾を見やった。
磨かれた石と古木の梁、微かに聞こえる水音。
その囲まれた安堵感に、地上の脅威を忘れそうにすらなった。
ここで穏やかに暮らせたら――そんな思いがよぎるタに、トは腹立たしくもなった。
(つづく)


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