#4-13 瑠璃石のペンダント|追憶のオリジン〜氷の女王の眠る街
ルリがヴァリスの町を旅立つと告げてから、彼女の家には人の出入りが絶えなかった。
野菜や干し肉、布、手紙……次々と贈り物が届き、訪れる人々は別れを惜しんだ。
ルリは一人ひとりに丁寧に応じた。
「ありがとう、ハンス。愛しているわ」
「リリ、大事なお守り、嬉しい。町をお願いね」
その声はあくまで柔らかく、落ち着いていた。
人々は名残惜しそうにルリの抱擁を受け取り、
当日の見送りには長蛇の列ができていた。
「……これ、いつ出かけられるの?」
はじめは物珍しそうに見ていたミミも、肘をついてぼそりと呟く。
「私たちのルリを頼みます」
「どうか、無事に帰還されますように……」
そんな声が次々に玄関で交わされていた。
レイは感心したように呟いた。
「すごいな……これはもう、信仰に近い」
タトは頷く。
「それだけ、ルリがこの街を愛してきたんだ……」
「タトは単純だよね」
「えっ、そうかな?」
ふいっと顔をそむけるレイ。
「別にいいけど」
──そのとき。
「お待たせしました。さあ、行きましょう」
ルリは栗色の艷やかな髪をサッと結んで振り返った。
それまで、顔周りできらきらと揺れていた豊かな髪が、白く細い指に梳かれて、一本にまとまり、背中へと流れた。
タトはその所作に、なぜか胸を掴まれたような気がして、動けなかった。
ルリがチカチカと光って見える。
また、胸が苦しくなる。
レイがタトを振り返る。
「……タト?」
「あ……、うん」
あわてて外へ向かいながら、タトは、自分の短い髪先に触れた。
*
外に出ると、見送りの列の最後に、ティルが立っていた。
ルリは、彼の前へ出ると、大きく息を吸い込み、
町の人々に届くように言った。
「ティル!
あなたは長を継いで、いずれこの町のリーダーになるわ。
あなたには、その素質も、資格もある」
そう言って、胸元から外した瑠璃石のペンダントをそっと背伸びをして、ティルの首にかけた。
「これを、持っていて」
ティルの瞳が揺れた。
何も言わなかったが、その瞳はしっかりと、ルリの瞳を見つめ返していた。
「みんな、行ってきます!」
ルリは明るくそう言って、ヴァリスの地を後にした。
高く澄んだ空の下、
栗色の髪を結い、瑠璃色の瞳を輝かせた少女は、
かつての塔の街をしっかりと背にして、歩き出した。
(つづく)

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