見出し画像

【読書感想文】「ツバキ文具店」読了後は手書きの手紙をしたためたくなる

私は自分の書く字が好きではない。学生時代、板書をノートに書きとる際に早く書こうと崩れた文字を書く習慣がついてしまった。社会人になってからは、ますます文字を書く機会が減った。手書きの手紙を書くことなんてほとんどないし、唯一手書きでメッセージを書く習慣があった年賀状は、海外に移住してから、いやその前からもう書かなくなってしまった。

さて、小川糸さんの「ツバキ文具店シリーズ」3冊をAudibleで読んだ。この物語の主人公の鳩子は先代(祖母)から受け継いだ文具屋兼代書屋を営んでいる。

「上質な筆記具を使って、美文字で誰かに手紙をしたためたい」これが読了後に抱いた気持ち。

代書屋という職業があることを私はこの本で知った。字が綺麗ではないから、大事な書類などは自分で手書きしたくない気持ちは分かる。私は祝儀袋に名前を書くとき、いつも誰かに代筆を頼みたくなる。しかも、代書屋は依頼者の手書き文字に寄せた字で書くこともできるようだ。多くの書道家はそんな才能を持ち合わせているのだろうかと興味が沸く。このシリーズ読了後に読んだ、三浦しをんさんの「墨のゆらめき」でも、書道家で代書屋をしている人物が出てくるのだが、その人物もまた依頼者に寄せた文字を書く才能を有していた。

ただ手紙の代筆を、それも書く内容も含めて代書屋に依頼することに関してはいかがなものかと思ってしまう。手紙の文面の言葉遣い、言葉の紡ぎ方、選ぶ言葉で、その人の人となりが表れる。依頼者から少々ヒアリングをしただけで、見ず知らずの人宛ての手紙を、依頼者になりきって書けるものだろうかと思ってしまった。

手紙の代書屋は言わば現在のChatGPTなどといった文章生成AIのような役割だろうか。「こういうことを伝えたい」という思いは明確にあるのだが、なかなか頭の中でうまく文章を組み立てられないときに、最近私は生成AIを利用してしまう。特に目上の方に依頼事や申し上げにくいことを伝えるときに、「へりくだり過ぎずに、かつ相手の気持ちを尊重した言い回しで、こういう内容を伝える文章を作ってください」といったプロンプトを入力すれば、思い描いたものに近い文章を提案してくれる。まあ、相手に伝える際には、それを参考に自分らしい表現に多少修正を加えるのだが、生成AIに頼り過ぎて自分で自分の言葉を紡ぐ能力が衰えていくことを危惧している。

小説の内容に話を戻すと、この小説は文具店が主な舞台なので、さまざまな文具が登場する。一通の手紙を書くのに、使う紙の材質からデザイン、筆記具、インクの色、切手のデザインにまでこだわるのかと感心した。羊皮紙に羽ペンなんて、中世かハリーポッターの世界だけだと思っていた。鳩子が使用する万年筆やボールペンのメーカーや型名が文中にあり、どんなものなのかとWebサイトで調べてみれば、1本数万円もするような代物だった。別に私は文房具マニアではないのだが、上質な筆記具を手に取って、文字を綴ってみたい気持ちになる。その前に、その筆記具に見合う文字を書けるようになりたいものだ。


いいなと思ったら応援しよう!