読書日記『「地味にいい学校」に学ぶ実践のオーナーシップの育み方』 ~持続可能な学校組織と実践知の継承~
『「地味にいい学校」に学ぶ実践のオーナーシップの育み方』(著者:石井英真 編著、出版社:日本標準、出版年:2026年)を読んでの教育行政・学校経営の視点からの読書日記です。
「うちの学校は、特別なことは何もしていません」
そう語る学校が、なぜか子供も教師も生き生きとしている。 そんな風景に、読み進めるうちに何度も出会った。度重なる教育改革の波、悪化する一方の教職の労働環境。その中で、本書が示すのは「派手な改革」でも「スター教師」でもない。普通の教師が、普通に、しかし確かな手ごたえをもって働いている学校の姿である。
「面の授業改善」という本丸
学校改革でもっとも難しく、それでいて核心となるのは、「面の授業改善」だと著者は言う。一人の教師の授業が優れているという「点」ではなく、「この学校の先生たちの授業は信頼できる」という「面」の信頼を築くことだ。そのためには、3つの壁を越えなければならない。
1 落ち着いて学べる雰囲気をつくること
2 授業・学びのあり方を改善すること
3 キーパーソンが異動しても改革を持続させること
特に3つ目は、教育行政に携わる者として深く刺さった。「あの先生がいたからうまくいっていた」では、組織の力とは言えない。
「タテ・ヨコ・ナナメ」のつながりが学校を変える
本書が処方箋として示すのは、同僚性の重層的な構築である。同年代の「ヨコ」、先輩後輩の「タテ」、そして直接の指導関係にない「ナナメ」。この3方向のつながりが、学校組織の血流をつくる。経験の浅い教師は、先輩の表面的な行動を真似るのではなく、「あの先生ならどこに着目し、どう考えるか」という暗黙知を追体験する「創造的な模倣」によって育っていく。
ある中学校の事例
ある中学校の事例が印象的だった。教師が互いに授業を見合い、教科の枠を超えた研究班を組織することで、自然な対話の場が生まれていたという。管理職が教師や子供を「間接的にほめる」フットライト効果も、職員室の空気を変える実践として紹介されている。小さいが、確かな工夫だ。
目標は「指させる状態」になってはじめて機能する
「学校教育目標の記号接地」という概念も、本書の核心のひとつだ。掲げた目標が達成されたとき、子供の姿や学校の風景を、誰もが「これこれ、このこと」と指させる。そういう状態になってはじめて、目標は機能する。京都市立堀川高校の「自立する18歳」という目標は、探究活動という具体的な舞台において定義され、教師だけでなく生徒自身の日常的な判断基準として文化になっていた。目標を先に決めてから実践を当てはめるのではなく、目の前の子供の実態から出発し、「どんな子供に育ってほしいか」を教師間で対話することが先だ、と著者は言う。この順序は逆にできない。
子供も教師も「オーナー」になれる学校
本書には、子供たちが自ら目標やルールを更新していく事例が数多く出てくる。授業で学んだ論理的思考を活かして校則見直しのプレゼンテーションを行う中学生、学級の課題を見つけ改善策を考える小学生。これらは「子供が主語」で教育環境をデザインした結果として生まれた姿だ。教師のオーナーシップと子供のオーナーシップは、切り離せない。
教育行政が「つながりの設計者」になる
本書を読んで改めて思う。トップダウンの改革や、目新しい手法の導入だけでは、学校は本当には変わらない。管理職や教育行政の役割は、世代や校務分掌という壁を取り払い、教師が安心して挑戦できる環境を整え、一人ひとりの強みを活かした協働の場をつくることだ。そして、そのために必要な資源は、特別な予算でも設備でもない。日々の挨拶。職員室での対話。授業の事後検討会における、事実に基づいた語り合い。地味だが、それが本質だ。子供にとっても教師にとっても、「明日も来たい」と思える場所をどうつくるか。本書を手元に置きながら、目の前の課題に向き合っていきたいと思う。
