キルトピーストケラウノス#03
「ハト」というコードネームで呼ばれている
この男は、通称"カンパニー"と言われる、
米国中央情報局(CIA)の
エージェントであり、在日米国大使館内に
設置してあるCIAの日本支部からの指令で
活動していた。
その役割は、日本国内におけるテロリストや
反社会的組織が米国に害を及ぼす可能性がある際の
対策や対応から排除、米国と日本との外交の面での
トラブル解決の依頼があった際に裏で動き、
その結果に変化を与える事を主な生業としている。
今回は後者で、
日本の大物政治家の娘が誘拐されたが
早いうちにチャイニーズマフィアが絡んでいると
分かった為、正規のルートでは手遅れになると
思ったその政治家が裏から手を回してカンパニーに
依頼して来たのであった。
そして司令を受けたハトが
捜索を進めて行くうちに、
このマンションの20階に住み、
この一帯の裏社会を
牛耳るチャイニーズマフィアの
ワン・シンが率いる組織
"梁山泊"の構成員の仕業である事が判明した。
"梁山泊"は違法薬物や人身売買、詐欺等の
犯罪行為により多額の金を稼いでいる、
悪党の集まりだ。
通常はもっと上品に事を運ぶのだが、
今回は急を要する為直接乗り込み
少々手荒になってしまった次第である。
しかしハトもまた荒事が嫌いでは無かった。
ハトは男を連れてワンの部屋の前にくると、
怯える男をインターフォンのカメラの前に
立たせて立呼び鈴を鳴らすよう指示を出す。
「日本語が分かるやつがいて助かったよ。
ワンが出て来たら、おれが言った通りに話せ」
男はコクコクと素早く頷いた。
数秒経った所で「ブツッ」と
通話が始まる音がして、
「なんだ?」とインターフォンから
低い男の声がした。
イントネーションからして中国人で間違いないし、
今日はワンは一人で家にいる事は確認済みである。
ハトは男の後ろに立ち、
銃口を背中に押し付け
目線を下げた状態で男に応対させる。
「お、お寛ぎのところ大変申し訳御座いません。
裏カジノに関する事で、
少々お耳に入れておきたい事が有りまして」
ハトは、男の背中に突き付けた銃をグッと押す。
「あ、あの、とても急ぎの案件でしたので、
おうちを訪ねさせて頂きました。
すみませんっ!」
インターフォンの向こうの男は、
思案しているのか、
少し間が空いたがやがて。
「わかった、まってろ」と言った。
ここでバレて篭られては厄介だった為、
ハトは小さく息を吐いた。
ドアが開くと、中からバスローブ姿のワンが
気だるそうな顔で出てきた。
ハトが急いでドアを強く開くと、
急にドアに引っ張られたワンは
体制を崩して外に出た。
咄嗟の事に何が起きたか分からず
動揺しているワンの眉間に
サイレンサー付きの銃を突きつける。
「静かに部屋に入れ」
そう言って、左手に持ったナイフを
若い男の首筋に当てた。
呆気に取られるワンと若い男。
そのまま部屋の奥に押し込むと、
ワンをソファに座らせ、
その後ろにワンを立たせる。
ハトはテーブルを挟み
反対側のソファにどっかと腰掛けた。
ワンは最初驚いた様子だったが、
流石にチャイニーズマフィアの
大物ボスだけあって、
すぐに落ち着きを取り戻した。
「まずお前は誰だ?俺に何のようだ?」
「なに、俺はしがない人探しだよ。
逆に聞くが、心当たりはあるか?」
とハトが返す。
「まぁ、この稼業だ、心当たりしかないが」
ワンが苦笑すると、ハトも確かにと続けた。
「ところでチョウ、他の奴らはどうした?」
ハトが連れて来た若い男はチョウというらしい。
チョウは首を横に振り「全員やられました」
と震える声で答える。
それを聞いてワンは一瞬目を見開くと、
親指を立てて首の横で真一文字に動かす。
チョウは今度はコクコクと首を縦に振る。
ワンは俯いてため息を一つ吐く。
「まぁ、他に誰も入ってこない所と、
お前の服に付いた血を見ると
満更嘘でもないようだ」
チョウのシャツには仲間の返り血が付いていた。
こんな安全な国で、こんな無茶苦茶な奴が
入って来たら止めるのは
無理な話かと苦笑するワン。
「それはしょうがないとして、
お前が通ってきた道は
カメラが何台も仕掛けてある。
捕まるのも時間の問題だぞ?」
「いや、カメラは一台も無い。
俺は裏口から来た」
「裏からってお前、まさかトリグラフを
抜けてきたと言うのか!?
トリグラフは!?」
ハトがゆっくり首を振る。
「壊した」
ワンの表情からみるみる
余裕の色が消え失せて行く。
「あれが一体いくらすると思ってやがる?
一億だぞ!?」
「どうせ悪事で稼いだ金だろう」
ハトは手を組んでワンをじっと見据える。
ワンは諦めた様に笑うと両手を上げた。
「改めて聞くがお前はいったい何者で、
俺に何のようだ?」
ハトは緩慢な動作で胸ポケットから
セブンスターの箱を取り出すと、
一本良いか?と顔の前で振る。
ワンが頷くと、早速火を付けた。
「いやぁ、日本のタバコはセブンスターに限る。
ほのかな甘みと深い味わいに
14mgの強い刺激は
他には無いものだ。
何事も良き相棒、良き家族
に出会えることは良い事だよ。
家族は一緒にいるべきだと思わないか?
まぁ指と口は臭くなるがな」
ハトはそう言って自重気味に笑うと、
胸ポケットから
一枚の写真を取り出して、
テーブルの上に投げ置いた。
写真には20歳前後と思しき女性が写っていた。
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