キルトピーストケラウノス#02
吹っ飛ばされた男は、
かろうじて倒れずに堪えたが、
綺麗に鳩尾に入った一撃のおかげで、
腹部を押さえて冷たい鉄の床に片膝を付いた。
睨み付ける目線の先には、
もう一体のトリグラフが
テザーガンを構え仁王立ちした状態で、
「don'ts move. Raise your hand」
と冷たく機械的な声で訴えてくる。
もっとも、機械なのだから仕方がないが。
「わかった、わかったよ。
今からゆっくり手を上げるから
撃たないでくれよ」
男は押さえていた腹部から手を離し
ゆっくりと両手を上げる。
するとその右手から何かが落ちた。
トリグラフの注意が一瞬そちらに向かうと、
男はすかさず左手に握ったスイッチを押した。
次の瞬間その電子手榴弾は光と振動を発した。
再び立ったまま痙攣しだしたトリグラフの
背後に素早く回り込むと首元にナイフを差し込む。
電気を流すとトリグラフは、
痙攣しながらロボットダンスを始めた為、
男はブッと吹き出してしまった。
「こりゃいい、本場のロボットダンスじゃないの」
やがてトリグラフは煙を上げて完全に停止した。
男は、その肩に手を置き大きく息を吐いた。
周囲で動きが無いことから、
管理者への通報等もされてないようだ。
男は煙を上げるトリグラフを覗き込むと、
重量500kgの動かなくなった無機質の塊。
こんな路地裏の非常階段の上から
どうやって運ぶのだろうと一瞬考えたが、
自分には関係のない事かと思い直した。
19階の部屋で少し準備をすると、
すぐに20階へと階段を登る。
20階の非常口の扉の前に立つと、
自身の愛銃ワルサーPPK/S を
胸のガンホルダーから抜いた。
非常口のドアに耳をつけると、
中から男達が談笑する声が聞こえた。
「中国語、、間違い無いね」
男はノブに手を掛けると、
ゆっくりと、少し開ける。
室内灯の光に包み込まれて
一瞬眩んで閉じた目を開く、
部屋の中央付近では
酒や食事の乗ったテーブルを囲み
5人の男達が座っていた。
全員ラフな格好だったが、
半袖のシャツを着た男の袖口から
出た逞しい腕には色とりどりな
刺青が覗いていた。
いかにも犯罪組織の構成員
という出立ちの連中だ。
男は人数を数えると、
そのままドアを開けて入っていく。
すると1人がその存在に気づき怒号を飛ばす。
「おい何だおまえ!?誰だコラッ!?」
気付いた男の一声に、全員が一斉に振り向いた。
無理もない、突然開いた非常扉から、
銃を携えた人物が入って来たのだ。
いくら犯罪組織といえど、あまりに非日常的な
ハプニングを前に、穏やかだった男達の間に
一気に緊張が走ったのが分かる。
「いやいや、 お楽しみのところ
驚かせてしまって非常に申し訳ない。
誰だって?そうだねぇ、
身内からはよくハトってあだ名で
呼ばれるからハトで良いよ」
安心させる為に、大袈裟な身振り手振りを
交えながらハトは続けた。
「まず、朗報だ。
ついさっきまで、殺戮コースで
いくつもりだったんだけど、
やはり武器も碌に持たない君達を
蹂躙するのは少々忍びないから、
一旦話し合ってみようと
思ってるんだがどうだい?」
近頃ではいくら犯罪組織だとしても、
拳銃などの銃火器は手に入れづらくなっており、
もっぱらテザーガンやナイフなどが主な武器で
ある事をハトは分かっていた。
ベルトにワルサーを刺しながら、
両手を上げフランクに話す。
混乱した男達を見て、
明るく話せば理解してもらえるだろう、
くらいの感じで立っているハト。
突然入って来た不審者を前に、
何が起きているのか理解出来ずに
無言で固まる男達だったが、
やがて一人の男が口を開いた。
「舐めやがって。
おいっ!お前ら、捕まえて拷問しろ!」
男達は互いに目を見合わせると、
慌ててテザーガンを向けて
中国語で何かを叫んできた。
ハトには分からなかったが、
「動くな!」とか
「ぶっ殺してやる!」的な事だろうとは
薄々理解した。
「はぁ、交渉決裂か。
やっぱ話し合いは苦手だなぁ」
そう言って、ハトは視線をあげた。
刹那、
目の前の男の眉間をワルサーから放つ弾丸で
撃ち抜き、返す刀の2発で敵左翼の2人を撃つと
前転しながら残りの2人が撃ってきた
テザーガンを避ける。
ハトの頭の中では、往年のスーパースター、
ブルーノマーズのグレネードが脳内再生され、
湧き出るアドレナリンにより、
周りの動きがスローモーションに見えていた。
♪♪
「Easy come, easy go, that's just how you live, oh」
『気軽に来ては気軽に去って行く、
それが君の生き方なんだね』
「Take, take, take it all, but you never give」
『全てをもらっていくけど、決して与えはしない』♪♪
一瞬で2人となりパニックになった男達は
ナイフも取り出し振り翳してくるが、
ハトは1人を軽くいなし蹴り飛ばすと、
もう1人の眉間を撃ち抜く。
銃弾がパンと音を立て貫通し、
弾けた頭部から飛散した血と脳髄が、
壁に物騒な赤い花を咲かせた。
蹴り飛ばされて悶えている若い男のそばに立つと、
「いこうか」と声を掛けて手を差し出すハト。
若い男は怯えながら立ち上がり、
最後の気力を振り絞って
「お、お前は一体何者なんだ!」と
一生懸命睨みつけてくる。
一丁前の男気に敬意を表して答えるハト。
「俺か?
俺は、クルックー、平和の象徴"ハト"だ」
そう言って、ハトは手の甲の
ハトの刺青を見せて微笑んだ。
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