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何を食べるかより、"いつ食べるか"が眠りを決めていた

「食事には気をつけてる。野菜もちゃんと食べてるし、栄養バランスも意識してる」

それでも、眠りが浅い。朝、すっきり起きられない。

そういう方に、ひとつ聞かせてください。「夕食は、何時ごろ食べていますか?」

眠りの質に関して、多くの人が「何を食べるか」にフォーカスします。でも実は、それと同じくらい——いや、場合によってはそれ以上に——「いつ食べるか」が睡眠の深さを決めています。

今日は、食事のタイミングと睡眠の関係を、体内時計の仕組みから解説します。


◎ 食事は「体内時計のリセットボタン」だった

体内時計は、「光」だけでリセットされると思っていませんか。実は、食事もまた体内時計を動かす強力なリセットボタンです。

私たちの体には、脳にある「マスタークロック(視交叉上核)」の他に、肝臓・胃・腸・脂肪組織など全身の臓器に「末梢時計」と呼ばれる体内時計が存在します。マスタークロックは主に光でリセットされますが、末梢時計は食事のタイミングに強く反応します(Sato et al., 2011)。

ウェーレンスら(Wehrens et al., 2017)の研究では、食事のタイミングを5時間遅らせるだけで、末梢時計が約5時間シフトすることが示されています。つまり、食事を遅い時間に摂ることで、臓器の「体内時計」が夜型にずれていく。

眠りの深さは、体内時計が整っているかどうかと直結しています。食事の時間が乱れると、体内時計が乱れ、眠りが乱れる。この流れが、毎晩静かに起きています。


◎ 夕食が遅いほど、眠りが浅くなる理由

深く眠るためには「深部体温が下がること」が必要です。これはお風呂の記事でもお伝えしましたが、体の内部の温度が下がることで、脳が「眠る時間だ」と認識します。

問題は、食事をすると体温が上がることです。

食後には消化のために胃腸が活発に動き出し、インスリンが分泌され、体温が一時的に上昇します。就寝直前に夕食を食べると、ちょうど眠りにつく時間帯に体温が上がってしまう。深部体温が下がりきらないまま横になることになり、深睡眠への入り口がなかなか開かない。

「夕食後すぐ眠くなるのに、いざ布団に入ると眠れない」という経験がある方は、この体温の問題が原因かもしれません。食後の眠気は「消化活動による血流の変化」で起きる眠気であり、「深部体温が下がった眠気」とは別物です。

理想は、就寝の2〜3時間前までに夕食を終えること。こどものいる家庭では難しいことも多いですが、20時就寝なら17〜18時の夕食が目安になります。


◎ 「深夜のちょい食い」が睡眠を壊す

こどもが寝た後、やっと一人の時間。ちょっとお腹が空いて、冷蔵庫を開ける——。

この「深夜のちょい食い」が、睡眠を壊す大きな要因になっています。

就寝直前の食事は、消化という「仕事」を胃腸に課します。胃腸は眠っている間も消化活動を続けるために活発に動き続け、深睡眠への移行を妨げます。

モリスら(Morris et al., 2015)の研究では、深夜に食事をしたグループは、そうでないグループと比べて深睡眠の割合が有意に低く、翌朝の疲労感も強いことが示されています。

お腹が空いて眠れない場合は、消化しやすい温かいものを少量だけ。バナナ・温かいスープ・ホットミルクなど、胃腸への負担が少ないものを選ぶことで、影響を最小限に抑えられます。


◎ トリプトファンの話——「何を食べるか」が活きる「いつ食べるか」

「何を食べるか」がまったく関係ないわけではありません。ただ、「いつ食べるか」が整っていて初めて、「何を食べるか」の効果が発揮されます。

その代表が「トリプトファン」です。

トリプトファンは必須アミノ酸のひとつで、体内でセロトニンに変換され、さらに夜になるとメラトニン(睡眠ホルモン)に変換されます。つまり、トリプトファンを摂ることで夜のメラトニン分泌が促され、自然な眠気が生まれやすくなります。

トリプトファンを多く含む食品は、豆腐・納豆・チーズ・ナッツ類・バナナなど。

ポイントは、これらを「夕食に食べること」です。トリプトファンがセロトニンを経てメラトニンに変換されるには数時間かかります。夕食でトリプトファンを摂取し、就寝の時間帯にメラトニンとして機能する——このタイミングの設計が、「何を食べるか」の効果を最大化します。

ゴールが先だ! 方法は後だ!——「今夜、自然な眠気で眠りにつく」というゴールを先に置いて、夕食のタイミングと内容を逆算して設計する。それが、食事と睡眠の最も賢い関係です。


◎ 「夕食を1時間早めただけで、朝の目覚めが変わった」

ある30代のお母さんのお話をさせてください。

「仕事が遅いこともあって、夕食がいつも21時〜22時になっていた」という方がいました。食事の内容には気をつけていたけれど、朝は毎日ぼんやりしていて、なかなかすっきり起きられなかったと。

試してもらったのは、夕食を1時間だけ早めること。できない日もあっていい、週に3〜4日だけでもいい、と伝えました。

3週間後、「なんか最近、朝の目覚めが違う気がする」と言ってくれました。食事の内容は何も変えていない。変えたのは、食べる時間だけ。

時間は未来から流れてきています。今夜の夕食の時間が、明日の朝の目覚めを決めています。


◎ まとめ

今日お伝えしたことを、3つに整理します。

・食事は体内時計のリセットボタン。食べる時間が乱れると、体内時計が乱れ、眠りが乱れる
・夕食が遅いと深部体温が下がらず深睡眠に入れない。就寝2〜3時間前までに食べ終えることが目安
・トリプトファンを夕食に摂ると、数時間後にメラトニンとして機能し、自然な眠気を生む

みんな"自分の体"の経営者です。睡眠の質を上げたいとき、サプリや食材を変える前に、まず「食べる時間」を見直してみてください。それだけで、眠りが変わることがあります。

睡眠はスキルであり、手段です。今夜の夕食の時間から、もう始められます。

——今日も、お喜楽さんに行ってらっしゃい


■ 参考文献

・Sato, M., et al. (2011). The role of the endocrine system in feeding-induced tissue-specific circadian entrainment. Cell Reports, 8(2), 393-401.
・Wehrens, S. M. T., et al. (2017). Meal timing regulates the human circadian system. Current Biology, 27(12), 1768-1775.
・Morris, C. J., et al. (2015). Endogenous circadian system and circadian misalignment impact glucose tolerance via separate mechanisms in humans. PNAS, 112(17), E2225-E2234.


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