シリーズ ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー㉝ 第2幕第4場 ~ その2 ~ エーファとマッダレーネの対話
エーファは怒りに任せてザックスのもとを離れます。
すると今度はエーファとマッダレーネの会話が続きます。
ヴァルターがやってくるまでの短いシーンではありますが、
今後の展開への大事な情報を多く含んでいます。
二人の会話を追ってみてください。
(M=マッダレーネ E=エーファ)
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M「まあ、こんな遅くまで何をしていたの?お父様がお呼びですよ。」
E「私はもう眠ってるってお父様に伝えて。」
M「冗談じゃないわ!ねえ、何が起きたと思って?
ベックメッサーに見つかっちゃって、うるさいのよ。
今夜リュートの伴奏で素敵な曲を歌うから、
あなたに窓にいてほしいんですって。
その歌であなたを勝ち取るつもりだから、
気に入ってもらえるか知りたいそうなの。」
E「ああ、困ったわ。あの方さえ来てくださったら。」
M「ダーヴィットを見なかった?」
E「ダーヴィットがどうかしたの?」(道を窺う。)
M(独り言) 「八つ当たりしてしまったからあの子、
きっと悲しんでるわ。」
E「誰か見えない?」
M(窺うようなかっこうをして)「誰か来るみたいだけど。」
E「あの方かしら?」
M「とにかく、いまは家に入らないと!」
E「でも、先にお会いしたいの。」
M「見間違いだったみたいね。違う人でした。
とにかく今は家にいましょう。お父様に気づかれるわ。」
E「心配だわ。」
M「どうやってベックメッサーを
追い払うか考えましょうよ。」
E「あなたが私の代わりに窓に立ってくれない?」
(聞き耳を立てる。)
M「えっ、私が?」
(独り言)そうしたらダーヴィット、焼きもちやくかしら
あの人の部屋は通りに面しているし。
まあ、楽しそう!」
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「ベックメッサーが歌をエーファに聴かせるため
窓辺に立っていてほしい」
というマッダレーネの歌は「罵りの動機」の短い連鎖で表現されます。

その後「懸念の動機」が再び顔を出しますが、
「エーファの動機」との関連性により優れた音楽的展開がなされます。
(以前の記事でこ紹介しました。以下参照)
エーファは、ベックメッサーを追い払うために、
「私の代わりにあなたが窓に立ってくれない?」
とマッダレーネに頼み彼女は一瞬驚きますが、
すぐに面白いことを思いつきます。
「もし私がエーファの代わりに窓に立ったら、
ダーヴィットが嫉妬するかもしれない!」
つまりマッダレーネは、ベックメッサーを
エーファから自分へ引き受けることで、
同時にダーヴィットを嫉妬させて楽しもうと考えるわけです。
これって、例えば「フィガロの結婚」で
ヴェールを取り替えてスザンナと伯爵夫人が入れ替わる、
身代わりと同じようなものですね。
「ドン・ジョヴァンニ」でも
レポレロとドン・ジョヴァンニが
セレナーデの身代わりになりますし、
ある種喜劇の定石的トリックと言えます。
ここで聞かれる「靴屋の動機」は
ザックスの弟子であるダーヴィットを指すと考えられますが、
ザックスの存在を観客に意識させる役割もあるのではないでしょうか?

この直後から、ヴァルターの登場、ザックスの歌、
ベックメッサーのセレナーデ、
ダーヴィットの乱入による大騒動へつながっていきます。
つまりこの場面の短いやり取りは、
2幕後半の "Prügelszene"(殴り合いの場面)を
生み出す仕掛けを準備している場面ということです。
