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🎭ZAI劇場🎭 🎼 『絶対音感があるとテストが地獄になる件』

青春ラブコメ
🎼 『絶対音感があるとテストが地獄になる件』



教室がシン…と静まり返る。

——はずなのに、
湊にとってはぜんぜん静かじゃない。

カリ…カリ…ッ。
隣の席のペンの“摩擦音”は、ミ♭。
その隣の子は筆圧が強いせいで、ド♯からレへ揺れる。

ミ♭とド♯の不協和音が、頭の中で永遠に軋む。
頼むからやめてくれ……減五度(トライトーン)なんだよ、それ。

サッ、サッ…
消しゴムを使うたびに、細かく震えるラの濁り。

カチ、カチ、カチ。
秒針の音は、律儀にハ長調の8分音符を刻み続ける。

(頼むから休符入れてくれ…!!)

湊は頭を押さえたくなるのをこらえる。
絶対音感なんて、テスト中だけは呪いだ。

ふと、右前の席から一定のリズム。

ーーコッ、コッ、コッ。

「あ、明里さんのペンは今日も“安定のソ”。
 やっぱり頭良い人の音は乱れないんだよな…」

聞く気はないのに、勝手に耳に入ってくる。

その瞬間——

タッ…タッ…タッ…

廊下の向こうから、小気味よい足音。
音程ははっきりファ。

(この“ファ”は……校長先生だ。歩き方で分かる。)


📝 明里さんの“ソ”が揺れた瞬間


コッ、コッ、コッ――

右前の席から響いていた、
明里さんのいつもの“安定のソ”。

今日も寸分の狂いもなく、
規則正しく響いていた……はずなのに。

コッ……コ……コッ……

(あれ?)

湊は思わず顔を上げかけてしまった。

音が……揺れた。

まるでレコードが一瞬だけ回転数を落としたような、音程の揺れだった。

ほんの一瞬だけ、

“ソ”が“ソ♭”に沈んだ。

(明里さんが、迷ってる……?
 いや、そんなはず……でも今の音は……)

明里さんは超がつくほど優秀で、
問題を解くときの筆記音もブレたことがない。
いつだってテンポも音程も一定だ。

なのに今日は、ほんの一筆、
迷いの“ソ♭”が混じった。

(どうしたんだろ……
 わからない問題があるなんて、珍しい……)

湊の心拍が、秒針のテンポより速くなる。

——だがその揺れは、
明里さんの表情よりも先に、湊の耳が察知した。

絶対音感の特権であり、呪いでもある“感知”。
そして、その迷いが何を意味するのかは、
まだ湊には分からなかった。

でも、

(……もしかして俺と同じ問題で詰まった?
 いや、だったら……ちょっと嬉しいな。)

湊は気づかない。

自分の胸からは、
音にならない“微かなソ♯”が跳ねていたことに。


📝 静寂と“消えたソ”


明里さんの“ソ”が——
ふっと、途切れた。

コッ、コッ……
コ……
……沈黙。

(あれ?……終わった?)

湊はそっと時計を見る。
秒針が一定のリズムでカチ、カチと進んでいる。

残り 20分。

(いやいやいや、ありえない。
 明里さんが20分前に全部終わらせる?
 そんな天才みたいな……いや天才だけど……)

教室は静まり返っている。
でも湊には分かる。

「明里さんの音」だけが、存在しない。

ペンが止まっている。
消しゴムも使っていない。
ページをめくる音すらしない。

(どうしたんだろ……?
 考え込んでる?
 それとも……まさか、体調悪い?)

湊の耳は音を拾おうと研ぎ澄まされる。
けれど静寂は深まる一方だ。

——ただの沈黙なのに、
湊にはその沈黙が“明里さんの不安”みたいに聞こえた。

(……声、かけたい。
 でも今はテスト中……)

ペンを持つ手が、汗ばんでくる。
胸の奥がざわついて、落ち着かない。

(明里さん……大丈夫?)

湊の耳は、
“音にならない気配”を一生懸命探し続けた。


📝 静寂を破った“高音のソ”


沈黙が降りたままの教室。
湊の鼓膜だけが、ずっと緊張していた。

(……まだ、聞こえない。明里さん、大丈夫かな……)

そんな心配を抱えたままの 10分後。

ーーその瞬間だった。

ソー❗️

高音のソ。

まるでバイオリンのA線を弾いたような、
正確無比で、無駄に美しい——そんな“ソ”。

だが。

(……え?)

音の正体を理解した瞬間、
湊の思考は一瞬でフリーズした。

(……今の……
 “ソ”……?
 っていうか……オナラ……?)

静まり返った教室で、

湊はそっと右前を見る。

明里さんは、ペンを握ったまま固まっている。
表情は見えないけれど、耳がほんのり赤い。

(……あ、明里さん……
 もしかして……これを……
 我慢してたんだ……?)

静寂が長かった理由。
筆記音が止まった理由。
迷いのソ♭の正体。

全部つながった。

(いや待って、でも……
 オナラまでソなの!?
 どんな絶対音感なんだ俺……)

湊は頭を抱える。

(ていうか……
 なんでそんな綺麗なソなんだよ!
 もっと濁ってても良くない!?)

秒針のカチカチが、遠くへ消えていく。



湊の答案用紙は G だらけ。

小さく息を吐いて
天井を見つめる。

(……今日、いちばん綺麗だった“ソ”は、
 もう忘れられないな。)




🎻おしまい🎻



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