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【31】清酒の精米について

特定名称酒の条件である精米歩合や、灘の酒造りが栄えた背景としての水車精米など、これまで何度か登場している「精米せいまい」の話を、トピックとしてまとめてみたいと思います。


精米の目的

清酒醸造において何故精米をするのか?
これはまず米の構造から説明が必要で、米の外側と内側で構成する物質の組成比が異なります。

米種子の構造

 まったく精白していない米種子を玄米といいます。その玄米のいちばん外層は、黒褐色の堅い果皮から成り、その内側の薄いフィルム状の種皮が、胚乳と胚芽を包んでいます。種皮は、米種子における水分や酸素の出入りを調節しています。
 胚乳は、米種子の本体で、主成分はデンプンです。このデンプンは、種子が発芽して成長する時のエネルギー源になります。胚乳表面は、タンパク質と脂肪から成る糊粉層が覆っています。発芽時に、この糊粉層にある酵素がデンプンを分解、エネルギー源として利用しやすいブドウ糖に変えます。米のとぎ汁の白い濁りは、糊粉層の脱落によるものです。

女子栄養大学 「胚芽精米のすべて」より

その組成比の違いが酒造りに影響するのですが、「灘の酒用語集」に簡潔に書いてあるので以下に引用します。

精米
米は、主食用にも、酒造用にも玄米をそのまま使わず外層の茶色い部分を削って白米にしてから使われるのが一般的である。
酒造用白米は主食用白米に比べ、はるかに高度に精米される。つまり玄米の外側をより多く除去する。胚芽(米の生育で芽になる部分)や米粒外層部には、蛋白質、脂肪、灰分(無機物)、ビタミンが多く、これらが麹菌や酵母の生育を急進させて酒質の調和をくずし、また精製酒の着色、雑味成分となり酒質を劣化させるからである。これら不良成分を取り去ることが精米の目的である。
通常、70%前後まで精米(玄米の外側30%部分を除去)すると、玄米と比べ蛋白質は約70%、脂肪は約5%、灰分は約20%になる。また、入荷時の玄米の水分は通常14~15%であるが、精米時間が長くなるにつれ水分が減少し、一般に70%白米では2~3%減少する。

灘の酒用語集(WEB版)「精米」より

精米歩合が低くなるほどデンプンの割合が高く、他の物質の割合が少なくなり、きれいな酒質の清酒を造りやすくなります。逆に味わいのある清酒を造ろうと思うと、精米をほどほどに抑え、旨みを構成するアミノ酸等が多く含まれるよう誘導することになります。
また米の外層部に局在する不飽和脂肪酸が酢酸イソアミルやカプロン酸エチルの酵母細胞内での生合成を阻害することが知られており、吟醸香を出すためには高精白米を用いることが必須とされていました。しかし、その前提条件を吹っ飛ばして、それほど磨いていない米でも香気成分を作り出せるようになったのが「キクマサHA14酵母」です。

「灘の酒用語集」には灰分やビタミンが微生物の生育を急進させて悪影響を及ぼすように書いてありますが、宮水に比べてミネラル分が少ない軟水地域では、同程度に磨いた米では安定した酒造りができなかった(軟水に応じた酒造りができるまでの話)という三浦仙三郎の事例もあり、必ずしも悪影響であるとは言えないかもしれません。

精米歩合とは

【04】清酒の表示(2) -特定名称と任意記載事項-で触れていますが、復習です。「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」第86条の6第1項の規定に基づき、「清酒の製法品質表示基準」が定められ、その中に記載されています。

精米歩合とは、白米(玄米からぬか、胚芽等の表層部を取り去った状態の米をいい、米こうじの製造に使用する白米(以下「こうじ米」という。)を含む。以下同じ。)のその玄米に対する重量の割合をいうものとする。

清酒の製法品質表示基準 より

簡単に言うと、玄米を100%としたときにその重量の何%になるまで精米したか、を表しています。精米歩合70%であれば、30%を磨いて除いたものになります。玄米100kgから白米70kgを得たことになります。

  • 精米歩合(%) = ( 搗精とうせい後の白米重量 ÷ 投入玄米重量 ) × 100

この精米歩合によって8種類の特定名称酒が定義されるのですが、それは【04】清酒の表示(2) -特定名称と任意記載事項-においてご確認ください。
特定名称と精米歩合について誤解されやすい点が1つあるので特記しますが、純米酒において精米歩合の規定はありませんが、純米酒と表示する場合には精米歩合の表示も必要です。たまにメーカーの人間でも間違ったこと言うので気を付けてください。

また、「精米歩合」と米の搗精で使われる精白せいはくは逆の考え方になり、高い低いが良く混同されています。「低精白」=「高精米歩合(80%超とか)」、「高精白」=「低精米歩合(30~40%など)」です。
何故このようなややこしいことになったかというと、それまで用いられていた「精白度」に対して、1958年(昭和33年)に「精米歩合」が公式に定められたためです。

昔は精米の程度を表わすには精米によって減少する量の割合を考え、これを「搗減り」、「精白度」と称していた。現在のように得られた白米の重量を基準にして算出する「精米歩合」が公式に定められたのは、酒類業界の計量関係がメートル法に切替えられた33酒造年度(昭和33年10月1日)以降である。

昔のつくり 今のつくり II.精米」(野白 喜久雄, 日本釀造協會雜誌, 70, (2), 89-93(1975))より

さらに時代をさかのぼると、重量ではなく容量による搗減つきべり表示が行われていました。重量法による表記は1930年(昭和5年)以後のことです。

我が国では昔から米の量は容量で計る習慣であり、また重量測定用の秤(はかり)よりも容量測定用の枡(ます)が簡便なため、この容量による搗減り表示が普通であった。これは簡便ではあるが、枡への米の詰め方でかなり量が違ってくるし、また糠の付いた米は容量が大き目に出てくる(糠を完全に除いた白米9斗~9斗2升が糠付き米1石に相当すると言われていた)。両々相まって1石の白米の重量が一定しないため各種歩合が不正確となり、相互の比較検討も不可能であった。

昔のつくり 今のつくり II.精米」(野白 喜久雄, 日本釀造協會雜誌, 70, (2), 89-93(1975))より

しん精米歩合

上記の精米歩合は、搗精前後の全体の重量比で示したもので、「重量精米歩合」または「見掛け精米歩合」などと表すことがあります。
その中には、米粒の摩耗による重量減のほかに、くず粒の砕米化、糠化による重量減、無理な精米による白米自体の砕米化など、精米目的以外の損失を含む(←「灘の酒用語集」より)ため、できた白米の大きさにばらつきがあり、吸水や蒸米において挙動が異なることがあります。
そのため、精米の精度を示すパラメータとして「真精米歩合」を算出するようになりました。そして重量精米歩合と真精米歩合の差を「無効精米歩合」としました。

  • 真精米歩合(%) = ( 白米千粒重 ÷ 玄米千粒重 ) × 100

  • 無効精米歩合(%) = 真精米歩合 ー 重量精米歩合

前にも述べたとおり、普通の精米歩合はそれが重量法であれ容量法であれ、砕米となって糠に化した米粒をも含んで計算されたもので、真正の精米歩合を示すものではない。真精米歩合は米粒1粒の重量減に基礎をおくべきもので、これは玄米と白米の千粒重を測定することによって得られる。

昔のつくり 今のつくり II.精米」(野白 喜久雄, 日本釀造協會雜誌, 70, (2), 89-93(1975))より

千粒重せんりゅうじゅうとは、文字通り1,000粒あたりの重量のことで、米粒の形や張りを表す指標としても用いられる数字ですが、清酒醸造においては整粒千粒重を指し、砕米などは除去されます。
無効精米歩合が小さいほど精米の精度が高いとされ、後述する精米機の発展につれて、その値は小さくなっていきました。

精米の発展の歴史

江戸時代に入り、精米技術が向上していくわけですが、水車精米に至るまでは、【27】清酒の成り立ち(4) ―灘五郷における清酒造りの発展・前編―でも触れた話になります。

5. 精米技術の進歩
 米搗きが木臼から精米効率の高い石臼になったのは江戸時代のごく初期でした。人力による労働力が増加すると、精米能力も増加しました。
 中国から碓(からうす)が輸入されたのは、2代将軍秀忠時代の頃で、米搗き作業に改革をもたらしました。
(中略)
7. 水車精米
(中略)
 足ふみ精米から水車精米に切り替わったのは、明和期(1764年〜1772年)といわれ、この水車精米を実現したのは桜正宗の6代目主人「山邑太左衛門(やまむらたざえもん)」でした。水車精米では、1箇所で1日16石(2400kg)も処理でき、しかも米を搗く臼がみかげ石であったので搗きがよく、さらに六甲の急流を利用したので、水車を高速回転させ、高白度精米することができました。
 これに対し、伊丹、池田では、足踏み精米だったので、1人1日5臼(1斗5升5合…約23kg)と、1割搗きがやっとでした。
 水車精米では2割搗きが可能となり、美味しい酒を造りだすことができ、さらに太左衛門は、水質の違いを活かした寒造りの技術も完成させました。かくして、淡麗美味な灘酒の大躍進とは対照的に、伊丹酒が衰退していきました。

サタケ 技術情報誌「TASTY」Vol.34 特集:酒造精米の歴史 より

本文中に「水車精米を実現」とありますが、水車精米による高精白の話でしょう(6代目山邑太左衛門の天保期の話)。
足踏み式(ちなみに当時は「精米」という用語はなく「踏米ふみまい」と呼ばれたそう)から水車精米になることで、処理量も精白度も向上したのですが、急流という地形による利点を活かしたもののため、全ての酒造地域において活用できたわけではなく、上述の伊丹・池田のように精米で後れを取った地域が出てきました。

精米機の開発

明治時代に入ると、上述の水車精米の問題点を解決すべく、動力を水力から他のエネルギーで代替するようになります。灘でも、西宮の酒造家・辰馬たつうま喜十郎きじゅうろうによって、明治21年(1888)に蒸気機関を動力とした精米が行われるようになりました。しかしこれは米搗きの動力に蒸気機関を導入したもので、米を搗くという精米方式は基本的に変わっていませんでした。

同時期の19世紀後半、世界では既に研削けんさく式精米機が開発されていました。意外なことにイギリス製です。

2.世界初の動力精米機は研削式精米機
 世界初の精米機は、研削式と呼ばれ、1860年(江戸末期・安政7年)頃イギリスのダグラス&グラント社で開発されました。
 当時、ビルマ(現・ミャンマー)などのアジアで米を買い付け、その米を母国や欧州に販売するイギリス商人がいました。
 1850年(嘉永3年)頃、円盤状の窪みをつけた地面に籾を入れ、円盤の中
心部を支点として重いローラーを牛で轢かせ、籾摺り、精米を行なっていましたが、米を入れて輸送するジュートバッグをローラーに巻き付けると、籾摺りや精米効率が上がることを発見しました。
 これがヒントになり、鉄工業を創業して大型蒸気機関を製造しているイギリスのダグラス&グラント社の手で籾摺機と、精米機を実用化させました。

サタケ 技術情報誌「TASTY」Vol.33 特集:精米機 より

文中にあるように、植民地で採れた米を欧州へ販売するため(食用の他、工業用にも使用された)、それまで日本と同様に唐臼などを用いて精米していたアジアにて、蒸気機関による動力式の精米機が開発・導入されました。

日本でも国産の動力精米機の開発がサタケ創業者の佐竹さたけ利市りいちによって行われ、1908年(明治41年)には国産の研削式精米機を完成させました。

(3)佐竹利市(国産動力精米機の創始者)
 利市は、1863年(文久3年)農業を営む佐竹家の長男として、現:広島県東広島市西条西本町で生まれました。
(中略)
 1878年(明治11年)、利市15歳の時、足踏み精米作業をしていて、余りにも単調で無駄な作業だと思った時、脳裏に閃くものがありました。木村和平を訪ね、精米機を作る自分の構想を打ち明けました。突拍子のないことをと思っていた和平も、もしかしたら利市なら作れるかもと思い始めました。
 「旦那さん、出来上がったら買ってくれるか」と利市が言うと和平は「勿論、第一号はわしが買ってやる」との約束が交わされました。
(中略)
(6)日本初の動力式精米機開発
 利市が精米機の開発に、やっとのことで着手したのは32歳の1895年(明治28年)の時でした。
 和平の紹介で広島の鉄工所を借り、自ら設計、部品製作し、1896年(明治29年)に我が国初の動力精米機を開発しました。しかし、己の描く完成品ではないとして満足できない利市は、納品した3台を回収し、改良を加えて4連座式臼型精穀機を完成させました。
 木村和平を始め、米搗き職人の見守る中、試運転は終了し、和平の絶賛の評価を得ました。しかし、利市は和平の求めている米肌を実現するため1908年(明治41年)に精米室を金剛砂とし、その内面を螺旋ロールとした循環式佐竹第2精穀機を完成させました。

サタケ 技術情報誌「TASTY」Vol.34 特集:酒造精米の歴史 より
4連座式臼型精穀機
(日本経済新聞 電子版特集「『田舎の真面目な会社』が世界へ 精米機のサタケ130周年とこれから」 より)

上図の「4連座式臼型精穀機」は「4連唐臼搗精機」とも呼ばれ、1898年(明治31年)に完成しました。石油発動機を用いて搗精を行うもので、この時点では、まだ米搗きの自動化(+技術的改良;臼を木製から金剛砂で固めた陶磁器にしたこと、臼底に円錐状の突起を設けたこと)に留まっていました。

循環式佐竹第2精穀機
(日本経済新聞 電子版特集「『田舎の真面目な会社』が世界へ 精米機のサタケ130周年とこれから」 より)

その後に開発された「循環式佐竹第2精穀機」は研削式精米機に分類されるもので、後に竪型精米機へとつながる構造となっていました。

 この精米機は、精白筒を金剛砂にし、その内周部には縦軸に螺旋精白ロールが形成してあり、米は精白筒の上面から螺旋ロールにより臼の底面に向け送られる際に、精白筒とロールの精白作用を受け、米は臼の上方に向けて還流し、所望精白度になるまで、循環精米が行なわれます。
 この精米機は、金剛砂を使った精米機なので、研削式精米機に分類されますが、一般飯米用としては当然ながら、精米白度を要求する酒造用精米に、当時の精米として水車精米で成し得なかった高度精白を実現しました。

サタケ 技術情報誌「TASTY」Vol.33 特集:精米機 より

竪型たてがた精米機

現在、酒造用の精米機として使われているのが竪型たてがた精米機です。「縦型」と表記しているサイトが散見されますが誤りです。意味としては「縦型」でも通じるのですが、用語としては「竪型」です。

先述の「循環式佐竹第2精穀機」から約20年後、1930年(昭和5年)に「竪型研削式精米機(C型)」の開発によって、金剛ロールを用いる現在の酒造用精米機が確立されました。それまで70%程度とされていた精米歩合を一気に40%台まで伸ばすことができたと記載されています。

「吟醸酒」誕生の陰にサタケの技術あり
 日本酒の歴史において「吟醸酒」が誕生したのは明治時代のことです。それはまさにサタケの動力式精米機誕生と符合するのです。「竪型研削式精米機」は酒米を研ぐことに特化した精米機で、吟醸酒発祥の地“西条”を日本三大銘醸地の地位確立に貢献した影の立役者です。
 1930年(昭和5年)には、今日の酒造精米機の標準構造として「竪型研削式精米機(C型)」を完成させました。金剛砂を焼き固めた円盤状のロールを採用し、研削作用に大変優れていました。通常、水車精米で石粉を混入させて、精米歩合70%のところを、このC型精米機で精米歩合40%精白を実現しました。金剛ロールの構造は、重ね餅のように小径ロールと大径ロールを二段重ねにしたので、金剛ロール面の米は、複雑な研削作用で原型精白に整形させることができました。この精米機を見た人の評判で、この竪型精米機は瞬く間に酒造業界に知れ渡り、酒造好適米の開拓、新酵母の開発などとあいまって、酒造技術に革新的な進化をもたらし、吟醸酒が誕生しました。このC型酒造精米機の構造は、今日のDB/RMDB型酒造精米機にも受け継がれ、機構は変えずに、省力化に向け、精米歩合に応じて回転速度や負荷を自動制御するなどの改良が加え続けられてきました。しかし、金剛ロールに代わる革新的酒造精米機は未だに現れておらず、開発者の快心の作と言えるものでしょう。

サタケWEBサイト 「サタケの魅力 05.サタケの歴史 1908年(明治41年)」より

以下に引用したのは日本経済新聞の記事に掲載されていた竪型精米機の模式図です。後述する大七酒造の精米に関する記事ですが、先に画像だけ借用しておきます。

日本経済新聞 「酒米の味わい引き出す研ぎ 福島の酒蔵、伝統に磨き」(2015年1月5日) より

原理については図に記載の説明で十分でしょうか。張り込んだ玄米重量に対して、白米重量が指定の割合になるまで循環しながら精米を行い、精米が完了した時点で白米を払い出す方式になっています。回転速度や圧力を強くすればより早く精米ができますが、摩擦熱などの負荷も強くなり、破米・砕米などのリスクが高くなることから、米の状態を見ながらコントロールされており、特に高精白になるほど時間を掛けて精米が行われています。

精米方式の違い

球形精米・扁平へんぺい精米・原形げんけい精米

これまで「精米」と言われてきたものが「球形精米」です。70%くらいではまだ米粒の縦長の形状を留めていますが、それ以上に精白を進めていくと、徐々に球形に近付いていきます。

精米サンプル
(昔の拾い物で出典不明です……)

米の長さが優先的に削られ丸くなっていく球形精米に対し、米の形状に沿って外層部を均一に削ろうとするのが、「扁平精米」および「原形精米」です。2つの違いについては精米後の米の形状のどこに特徴を取るかで分けられますが、基本的は玄米と相似の形状になるように削ったのが原形精米、厚さを優先的に削ったのが扁平精米と説明されています。

各精米の形状と特徴
(広島県食品工業技術センター 「『きれいな味わいのお酒』を生み出す『扁平・原形精米法』について」より)

扁平精米については、1993年に齋藤富男が精米方法の違いが酒質に影響することを示しました(→後述します)が、実用化するには精米の緻密なコントロールと長時間の搗精が要求されるため、提唱されたものの実践は難しいと考えられたようです。しかし、この報文を受けて大七酒造が、扁平精米の導入を目指し独自に研究開発した結果、全国で初めて扁平精米の実用化に成功します。

1993年 扁平精米への取り組みを開始
 東京国税局鑑定官室⻑の齋藤富男⽒が、⽇本醸造協会誌1⽉号「ふるい分け法による酒造⽤⽩⽶の評価」、同3⽉号「酒造⽤⽩⽶の形状と精⽶効率」など、扁平精⽶に関する論⽂を初めて発表された。
 この論⽂に注⽬した⼤七酒造は、直後に齋藤⽒に連絡をとり、扁平精⽶実現への検討を開始した。しかし当時、精⽶機メーカーでは砕⽶発⽣のリスクが⼤きくなることを理由に、扁平精⽶に否定的であった。
 9⽉、⼤七酒造は精⽶機メーカーの助けを借りずに、独⾃に扁平精⽶への挑戦を開始した。
1994年 二期目、実用化に目途
 扁平精⽶に着⼿して⼆期⽬に⼊ったこの年、⼤七酒造は実⽤化に⽬途をつけ、12⽉に全国初の扁平精⽶による純⽶⼤吟醸の仕込みを開始した。
1995年 大七の技術を『超扁平精米』と命名
 2⽉、太⽥英晴社⻑と尾形義雄精⽶部⻑とで、齋藤⽒が扁平精⽶の実験データをとられたという秋⽥県醸造試験場を訪問し、現地で⾏われていた扁平精⽶を視察。
 ここで⼤七の扁平精⽶のほうが明⽩に扁平度が⾼いことを確認し、⾃信を深めた。
 ⼤七の技法を、既存の扁平精⽶の上をゆく「超扁平精⽶」と命名した。

大七酒造WEBサイト 「超扁平精米」より

その後、新たな砥石の開発等により技術上の課題がクリアされ、2018年にサタケが開発した新型精米機によって扁平精米・原形精米が実用化されたのが、同社による真吟しんぎん精米」と呼ばれるものです。

2.「真吟精米」について
「真吟精米」は、米の長さ、幅よりも厚さを優先的に削ることで、「球形精米」より米表面に多く分布しているタンパク質を効率良く取り除くことができる。「真吟精米」は、米の形状で日本酒の酒質を変える最先端の精米技術であり、図 1 に示す「扁平精米」および「原形精米」のことを呼んでいる。
3. cBN ロールについて
立方晶窒化ホウ素の砥粒を台金に電着メッキしたロール(cBN ロール(図2))を採用したことで、従来のビトリファイド砥石では難しかった「真吟精米」を実用化できた。ビトリファイド砥石に使用されている緑色炭化ケイ素(GC)の砥粒と比較し、立方晶窒化ホウ素の砥粒は約2倍硬く、鋭利なエッジ形状を有しているので研削作用が高い。そのため、砥粒サイズの小さいロールを使用する「真吟精米」でも、大幅に時間がかかることなく精米できるようになった。

真吟精米で醸す美味しいお酒」(川上晃司, 美味技術学会誌, 24, (1), 74-77(2025))より

この「真吟精米」を可能にした精米機が、後述するそのメリットにより各所に導入されるようになっています。

精米方式の差による酒質への影響

球形精米に比べ、扁平精米・原形精米においては、同じ精米歩合でも白米に含まれる粗タンパク質含量が少なくなり、製成酒においてもアミノ酸量が優位に減少することが齋藤らによって示されています。これは球形精米における精米歩合を低くするのと同等の効果で、扁平・原形精米では球形精米に比べ精米歩合が高くても同程度の酒質を得ることが可能とされています。

精米歩合70%の偏平に精米した白米と通常の精米を行った白米を用いて清酒醸造試験を実施し、精米方法の違いが酒質に及ぼす影響を検討した。偏平精白米中の粗タンパク質含量は通常精白米中のそれより少なく、また製成酒中のアミノ酸度及びアミノ酸総量はともに少なかった。特に製成酒中のアミノ酸総量は、通常精米仕込酒の83%と原料米中の含有量の比以上に拡大した。きき酒試験の結果においては、偏平精白米を使用した清酒は通常の精白米を使用したものに比較して味がきれいで軽快な傾向を示し、総合成績は危険率5%で優れていると判断された。この結果より、偏平精米は精米歩合を低くするのと同じ効果があり、酒質の向上とコストの引き下げに寄与できると期待される。

偏平精米を用いた清酒醸造試験」(齋藤富男, 日本醸造協会誌, 89, (6), 489-491(1994))より

また、広島県食品工業技術センターによる報告では、扁平・原形精白米を使用した製成酒は貯蔵劣化しにくい優れた特徴を有していることが示されました。

特に米価の上がっている昨今では、大吟醸並みに削らなくても同程度の酒質を目指すことができることにより、原料コストを下げることができます。
簡単な計算式で示しますと、1俵21,000円の玄米に対して、精米歩合40%にすると、白米1kgあたりの単価は875円になりますが、真吟精米で60%にすると583円になります。

・球形40% 21,000÷60÷0.4=875
・真吟60% 21,000÷60÷0.6=583.33…

精米コストはその分上がるとしても、米の単価の差額より少なければメリットになりますね。ただし後述する特定名称の取り扱いにおいては、営業的にデメリットにもなるかもしれません。

なお真吟と球形はそれぞれの特徴を生かした酒造りが重要で、どちらが優れているという話ではないことも重要です。
製麴においては球形のほうがコントロールしやすく、掛米のみ真吟精米の白米を利用するなど、蔵によって取り組み方があるようです。詳しくは以下のサイトにあるサタケへのインタビューをご覧ください。

精米歩合の限界

限界、と物騒な単語を持ち出してみましたが、2つの「限界」について展開したいと思います。

精米歩合競争

まず、どこまで米を磨くことが出来るのか、という競争については、有名な話では「獺祭」が精米歩合25%で清酒を造ろうとしたときに、他所に精米歩合24%の清酒があると聞き、さらに磨けと指示して23%にしたことで「獺祭 二割三分」が誕生したというものがあります。

このお酒は最初は25%の歩留まり精米歩合を純米大吟醸として計画されました。社員総出で栽培した自社保有田の山田錦の稲穂を見ながら、「これで日本最高の精米歩合の酒を造ろう」と思い立ったのが最初のきっかけです。最初は25%の計画でした。精米機に玄米を入れて精米し始めたのを確認して出張した私に、灘のある大手メーカーが24%精白の純米大吟醸を市販してると教えてくれた方がいました。一晩考えて翌日帰りの新幹線の中から車内電話でさらに2%磨いて23%にするよう精米担当者に要請しました。すでにその時精米し始めてから6昼夜経っていました。疲れもあり、渋る彼を説得して何とかあと2%磨いてもらったんですが、その最後のたった2%を磨くために24時間かかりました。

獺祭WEBサイト「獺祭磨き二割三分物語」より

その後もさらに低精米歩合の競争が続き、ついに一桁まで到達するのですが、0.85%という数字を叩き出した新澤酒造店を超えようという蔵はもう現れないと考えられます。精米時間5,000時間超というのがどれだけ異常なのか、言うまでもないでしょうし……。
なお精米歩合の表示について小数点以下は切り捨てというルールなのですが、この製品が世に出た際に「精米歩合0%」という表記になってしまったため、1%未満については切り捨てとせず「1%未満」とする、と法令の方が変わりました。

(ホ) 精米歩合の表示については、「精米歩合」の文字の後に続けて使用した白米の精米歩合を1%未満の端数を切り捨てた数値(精米歩合が1%未満のものにあっては、「1%未満」の文字)により表示するものとし、精米歩合の異なる複数の白米を使用した場合には、精米歩合の数値の一番大きいものを表示するものとする。

国税庁 酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 「第86条の6 酒類の表示の基準」より
※太字部分(筆者による)が追記された箇所

精米歩合については、山田錦では「YK35」が示すように35%程度まで磨けば十分で、そこから先は白米の成分構成比は大きく変化しないと考えられており、無駄にコストを上げるだけかもしれません。

また磨かない酒造りに関しては、近年では90%精米という食用の精米と同程度での仕込を行う蔵(清酒、その他の醸造酒ともに)が増えており、単に低精白米というだけで物珍しくなくなってきましたので、何故磨かないのか、というストーリーや米の特徴を出してこないと差別化が難しいのかなと思います。

特定名称における精米歩合の取扱い

上述のように、扁平精米や原形精米であれば、球形精米より高い精米歩合でも酒質の劣らない清酒ができるとされています。
しかし、現行の法令上、既定の精米歩合以下にしなければ(純米)吟醸・(純米)大吟醸は名乗ることができません。
特定名称は米をどれだけ削ったか、そのコストをもって高価格の根拠とされてきましたが、精米方式の多様化は想定されていないのです(そもそも米をどれだけ磨いたかという精米歩合自体は価格や品質を明示するものではないのですが)。
(球形)40%の純米大吟醸に品質で劣らない真吟60%の純米吟醸です!!と謳ったとしても、一般消費者には純大吟>純吟というイメージが定着しているので、人に贈るならやっぱり純米大吟醸かしら……となることが想定されます。
真吟のセールストークとしても、高品質のお酒をより安く、と謳うのはこの特定名称の縛りが大きいと考えられます。

精米歩合の価値

また、先に純米酒の件でも触れていますが、特定名称を表示する場合には、併せて精米歩合を表示しなければなりません。米の状態や造りのコントロールのために都度精米歩合を変更する場合、資材も変更しなければならず、表示内容の税務署への申告など手続きもその度に必要です。

米に合わせて酒造りを調整するため、精米歩合の表示をしない蔵として代表的なのが「剣菱」です。

酒造りのポリシーは、“肩書き”よりも“味”
剣菱の商品には、精米歩合のラベル表示をしておりません。理由は、毎年異なる条件下で育ったお米のできに合わせて精米歩合を変えているから。すべては、変わらぬ味を守り続けるため。 “肩書き”よりも“味”。それが、私どものポリシーです。

剣菱酒造WEBサイトより

他にも精米歩合や特定名称によるイメージに縛られたくないという理由で精米歩合非公表(即ち「普通酒」扱い)とする製品は多くあります。製造工程管理上は精米歩合は重要ですけれども、特定名称に頼らず商品販売が可能なのであれば、特定名称と精米歩合の表示は特段必要としない――という判断です。

清酒はその醸造工程において、他の醸造酒と比べ、原料特性によるバラつきを技術で調整できる余地が大きいです。
精米もそのパラメーターの一つであり、目的とする酒質に到達するための手段ではありますが、精米歩合それ自体は最終製品における何かを表すことはできません。

精米歩合は結局のところ「米をどれだけ削った(精米した)か」の指標でしかなく、消費者にとっては価格の根拠や酒質を類推するパラメーターとして用いることが多いとはいえ、絶対的なものではありません。
原料米とその調達ルートにより原料コストは異なりますし、醸造法によって香味も様々なものが造られています。加えてここに「精米方法」が入ってくると、その歩合だけで何かを想像するのは正直難しいです。その数字で決まる「特定名称」の価値も同様です。

スペック疲れとも言われる近頃の情報過多な清酒業界、この辺りの情報も(工程管理的には必要ですが)次のステージに向かうべきなのかもしれません。

精米についての話は以上です。
機械構造等について詳しい話は容量の関係もあり省略していますが、サタケなどメーカーのサイトが詳しいです。そして精米特性とコメの品種という話題も、文量が爆発するので意図的に避けました(笑)
新しいトピックがあれば追加するかもしれません。


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