見出し画像

傾聴は万能なのか?精神科病棟で感じた共感の難しさ

こんにちは。医療ライターの丸岡みどりです。

以前の記事で、わたしは夜勤時は1時間半以上も前に職場へ入り、心のアイドリングをしていたエピソードをご紹介しました。(ご興味がある方はこちらをご覧ください👇)

ただ、どれだけ時間をかけても、一緒に夜勤をする相手によっては、準備しきれないことがあります。

病棟勤務時代、特定のナースに対して尋常ではないほど激しい非難を繰り返す同僚(Aさんとします)がいました。その攻撃性に巻き込まれないよう、いつも以上に気合を入れて出勤する必要があったのです。

傾聴が仇となる?

わたしは精神科の看護師として、Aさんの話にもまずは気持ちを受け止めることを基本に傾聴していました。

共感しつつも決して同調せず、客観的な言葉を選び、できるだけ冷静に話を聴くよう努めていたのですが…。内心では、モヤモヤを抱えていました。

患者さんの話を聴くのは仕事。でも、看護師であるAさんになぜここまで気を遣い、カウンセリングのような対応をしなければいけないのか?

そして、不思議だったのは、攻撃の標的になるのが決まって周囲から「仕事ができる」と評価されているナースたちだったのです。

仮眠室のベッドのなかで、わたしはぼんやりとこんな仮説を立てました。

①相手を貶めることで、自分を上げようとしているのではないか?
②悪口をいうことで、ドーパミンが出まくっているのではないか?

論文が解き明かす「攻撃性」の正体

当時の仮説は、あながち間違いではなかったようです。

まず、自尊心と攻撃性の関係について。
ある研究では、自尊心が低い人ほど、怒りや敵意に基づいた大きな反応的攻撃性を示す傾向があると報告されています(Amad et al., 2020)。

わたしの単なる想像ですが、Aさんは「自分が正当に評価されていない」という強烈ないら立ちを抱えていたのではないか。だから、エース級の看護師を叩くことで、歪んだ形で自分を維持しようとするメカニズムが働いたのでは?と推測しました。

続いて、なぜ非難がエスカレートするのか?
ある研究によれば、他者を攻撃する行動をとると、脳の報酬系として知られる領域が活性化することが示されています。攻撃そのものが脳にとって快感になり、攻撃行動に駆り立てられると報告されています(Chester et al., 2018)。

また、無意識のうちに行動が強化・習慣化され、パターンとして定着していく可能性についても言及されていました。

「聴きすぎない」という処方箋

相手のためにと丁寧に話を聴き続けるのは、リスクもある。脳内の報酬系をさらに刺激し、攻撃のサイクルを加速させてしまう可能性があると実体験からも感じます。

精神科看護師として培った傾聴スキル。
ただし、話の意図を見極めたうえで、時には適切に距離を置く必要があると再認識しました。

職場に攻撃性の強い人がいたら「この人の脳内には報酬(ごほうび)が出ているのかも…」と考えてみてもいいかもしれませんね。

看護師として、普段はエビデンスを重視した医療記事を執筆しています。
ふと感じた疑問を論文で調べてみるのは、冷静に「やはりそうだったか」と納得できる貴重な時間です。

日常の小さな疑問を英語論文で検証するシリーズ。
次回もまた、身近なテーマを掘り下げてみたいと思います。

【参考文献】
Amad, S., Gray, N., & Snowden, R. (2020). Self-Esteem, Narcissism, and Aggression: Different Types of Self-Esteem Predict Different Types of Aggression. Journal of Interpersonal Violence, 36, NP13296–NP13313.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32065011/

Chester, D. S., Lynam, D. R., Milich, R., & DeWall, C. N. (2018).
Neural mechanisms of the rejection–aggression link. Social Cognitive and Affective Neuroscience, 13, 501–512.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6007431/

医療・ヘルスケア分野の執筆実績は、ポートフォリオよりご覧いただけます。


いいなと思ったら応援しよう!