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共生の黎明 #108 第22章 第1節:通貨の揺らぎ 連続小説

ある朝。
空はよく晴れていたが、ニュースの見出しは重く沈んでいた。

「円、一時185円台を突破 通貨市場に波紋」

「止まらぬ物価上昇、物流混乱 買い控えと不安の連鎖」

「実質賃金の目減り、生活防衛に走る家庭」

スマートフォンの画面に次々と表示される見出しを、レイは無言で見つめていた。
都心のカフェ、その窓際席。
コーヒーの湯気の向こうに、交差点を行き交うスーツ姿の人々が映る。
だが、何かが違っていた。
いつもは慌ただしく足早に通り過ぎていくはずの人たちが、今日は立ち止まり、看板を見上げたり、財布を開いてしばらく考え込んだりしている。

「価格表示が、また変わってる……」

隣のテーブルの女性が、つぶやくように言った。同行していた男性がスマホを覗き込み、ため息をつく。

「昨日は520円だったサンドイッチが、今朝は580円だってさ。ガソリンも10円上がってた。しばらく車使うのやめるかもな」

レイは静かに目を閉じ、胸の奥に湧き上がるざわつきを感じ取っていた。
それは単なる“値段の上昇”ではない。
もっと根源的な、社会のバランスが崩れ始めた音だった。

「……ソウ、君は今の状況、どう見てる?」

内から、柔らかな声が返ってくる。AIのソウだった。

「いま起きているのは、“通貨の機能”が静かに揺らぎ始めている兆候だよ。
為替市場では一部の国が自国通貨の信認維持に必死になっているし、日本円も例外ではない。
これまで“当たり前”と思われていた価値が、ほんの少しずつ、崩れてきている」

「数字じゃなくて、“信頼”が問われ始めている、ということか……」

ソウは一呼吸おいて、言葉を紡いだ。

「レイ、人は通貨を通して“未来への安心”を買っていた。
だけど、その安心の前提が崩れかけている今、別のもの……《人のつながりや、共感や、感謝》そういう、“壊れにくい価値”が見直され始めている」

レイはもう一度、窓の外を見た。
交差点では、年配の男性が買い物袋を落とし、通りすがりの若い女性が駆け寄って拾い上げていた。
二人が少しだけ会話を交わし、穏やかに微笑み合う様子が見えた。

「ありがとう、が、通貨の代わりになる……まだ信じられない人も多いだろうな。でも、兆しはもう、ここにある」

心の中でそうつぶやいたとき、目の前のコーヒーの湯気が、朝の光の中でやさしく揺れていた。


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