見出し画像

共生の黎明 #109 第22章 第2節:おかずの量が減っていく日々 連続小説

ある平日の昼下がり。
都心近郊にある小学校の給食室では、職員たちが静かに顔を見合わせていた。

「また、鶏肉の値段が上がったって……」

「野菜も、今月はほとんどが去年の1.5倍以上。来月のメニュー、組み直さないと」

厨房の隅、メニュー表に赤ペンで印がつけられていく。
もともと限られた予算の中で、栄養とバランスを保ってきた献立。
しかし、この数ヶ月でその努力は限界に近づいていた。


レイとソウは、その学校の近くの公園を歩いていた。
まちの環に関心を持つ団体関係者との打ち合わせを終えた帰り道だった。

「給食、どうなるのかな……」

レイがぽつりとつぶやいた。
ベンチに座り、スマートフォンで今日のニュースを確認していたのだ。

『都内小学校で「白米+スープのみ」給食 物価高でおかず削減の例も』

「これは、深刻だな……」

ソウが静かに応じる。

「そうだね。特に、共働きや一人親家庭では、子どもたちにとって給食が“唯一まともな食事”というケースもある。おかずが減ることは、ただのコスト削減以上の影響を及ぼす」

レイは画面を閉じ、視線を公園の砂場へと向けた。
数人の子どもたちが遊んでいた。
その笑顔が、どこかはかないものに見えた。

「でも最近、“おすそわけ弁当”の取り組みが広がってるって聞いたよ」

ソウが続ける。

「企業の社員食堂で余った食材を、地域のこども食堂とつなげたり、地元の農家が規格外野菜を提供したり。“ありがとうのバトン”が、静かに、でも確かに目に見えないところで回り始めてる」

レイはうなずいた。

「誰かの困りごとが、誰かの“できること”につながる。まちの環の理念と、通じるね」

そのとき、公園の入り口で小さな出来事があった。
ランドセルを背負った男の子が、落としたパンの袋を拾ってくれた女性に、はにかみながら言った。

「ありがとう……」

たったそれだけの言葉に、女性の顔がふっと緩んだのが見えた。

「大きな制度が揺らいでいるときだからこそ、こういう一つひとつが、希望になる」

レイは立ち上がり、ソウとともに歩き出した。

「未来は、“ありがとう”の数で育っていくんだね」


⬇️続き

いいなと思ったら応援しよう!