共生の黎明 #46 第13章 第7節:揺らぎのなかに 連続小説
朝の光が差し込む窓辺に、小さな交換所の案内が立てられていた。
「アヤ/ユラ ⇄ 地域通貨『まちの環(わ)』 試験交換受付中」
手書きの丸い文字に、誰かの描いた柔らかな木のイラストが添えられている。
福祉センターの一角に設けられたこの窓口には、数人が静かに立ち寄っていた。
受付に立つのは、以前から地域で活動していた女性職員。
手元の端末で確認を取りながら、一人ひとりに丁寧に説明していた。
「こちら、10ユラ分ですね。1ユラ=1環で交換できます。
使える場所は、近隣の商店街や公共施設、あと最近は薬局でも使えるようになりましたよ」
男性は少し驚いたように目を見開き、それから小さく笑った。
「ありがとう、助かるよ。母の通院のことで、ちょうど必要だったんだ」
彼はレシートのような紙片を受け取り、深く頭を下げた。
待っていた若い女性は、ユラをアヤとして誰かから受け取った話をしていた。
「本当は、そのまま残しておきたかったんですけど……生活費の足しにすることにしました。
でも、誰かがくれた“ありがとう”が、こうしてまた別の誰かを支えると思うと、悪くないですね」
その言葉に、職員はゆっくりと頷いた。
「きっと、その“ユラ”も喜んでいると思います」
窓口を離れる人々の背に、春の光が差していた。
まちの中のどこかで、交換された「ユラ」がめぐり、「環(わ)」となって再び使われる。
ほんのわずかの、でも確かな揺らぎ。
人々はまだ、この制度の未来を知らない。
けれどこの朝、小さな交換が静かに未来の兆しを告げていた。
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