共生の黎明 #45 第13章 第6節:揺らぎを受けとめる場 連続小説
その会議室は、午後のやわらかな光に包まれていた。
市役所の地域連携課。
ここでは定期的に、地域の課題や提案を共有する「小さな意見交換会」が開かれている。
今日はその場に、介護福祉士、商店街の理事、子育て支援員、図書館司書など、地域の現場で活動する面々が静かに集っていた。
「アヤ/ユラ、ですね」
若い男性職員が、ゆっくりと紙の配布資料を広げる。
「既に一部の施設での使用が始まっていますが、今回は、制度的な位置づけをどうするかという観点から、皆さんのご意見をうかがいたいと思います」
手渡された紙には、こう記されていた。
【地域協力ポイント制度:運用試案】
名称:アヤ/ユラ
目的:地域内での支援・貢献行為を可視化し、相互理解と温かな循環を促進する
記録形式:デジタル記録(個別・匿名)
交換特典:図書館貸出期間延長、公共施設利用優待、商店街提携サービスなど
※一定量の「ユラ」は地域通貨「まちの環(わ)」に交換可能(予定)
沈黙の後、介護福祉士の女性がゆっくりと話し始めた。
「介護現場で、家族や地域の方が手助けしてくださることがあります。でも、そういう支えって、記録に残らないし、報われにくいんです」
彼女は続ける。
「アヤ/ユラは、その“気持ち”を受けとめる仕組みになる気がします。報酬じゃなくて、“ありがとう”が形になって、誰かにつながっていくような」
商店街の理事が頷いた。
「お店でも、地域の清掃に参加してくれた学生にユラを渡したいって話が出ててね。
ユラをまちの通貨と交換できるようにするのは、いい仕組みだと思う」
「でも、これって評価の格差になったり、数字だけが独り歩きしたり……そういうことは起きませんか?」
若い保育士の問いに、司書が穏やかに答える。
「たぶん、“換算”するものではなくて、“感じ合う”ものとして受けとめることが大切なんだと思います」
「アヤは等価でも、意味は人それぞれ違う。その違いを許し合える仕組みであれば、数字の先に“心”があると思えるかもしれません」
会議室には、また静けさが戻った。
だが、その沈黙は決して重苦しいものではなく、
それぞれの胸に「揺らぎ」を受けとめる空間がひらかれていた。
制度とは、感情を閉じこめるためのものではない。
むしろ、それを 受けとめ、光に変える器 でありうるのだ。
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