刺さる!煮詰まった女と、煮え切らない男のリアル――綿矢りさ『しょうがの味は熱い』【読書記録37】
こんにちは!🍦マオ¦読書記録 です。
2025年37冊目に読了したのは、綿矢りささんの『しょうがの味は熱い』(文春文庫)でした。

同棲=結婚じゃないの?!
煮え切らない男・絃と煮詰まった女・奈世が繰り広げる現代の同棲物語。トホホ笑いの果てに何かが吹っ切れる、迷える男女に贈る一冊。
Instagramの読書友達が「全独身アラサーは読んで(意訳)」と仰っていたのを見て、「ハイッ読みます!!!」と挙手し、その翌日には書店に向かっていた(つまるところいつも通り出勤しただけだが)。
タイトルの「しょうがの味は熱い」がなんだか耳に残って、ピリリとした刺激を期待しながらページをめくる。
――ほんとうに、熱かった。生々しく、時に痛く、そしてどうしようもなく分かる感情のオンパレード。そうか、これが「完全に共感はできないのにリアル」というやつか……と何度もうなずきながら読んだ。
▫️ぐるぐるする物語の“煮詰まり”
物語の主役は、同棲して3年になる20代後半の男女。女・奈世は結婚に前向き。「こんなにうまくいってる(主観)んだから、そろそろ結婚したい」と素直に思っている。一方の男・紘は、どこか煮え切らない。彼の中には「結婚したい」気持ちがまったくのゼロではないはずなのに、「まだこのまま(同棲)でいいんじゃないか」と踏み出せずにいる。
このふたりの関係は、本当に「どこにでもありそう」なものなのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。好き……な気持ちはあるのに、どうにも呼吸が合わない。進みたいのに、足踏みばかりする。
作中、こんな一節がある。
飽きたり飽きられたりすることにおびえるなんて、贅沢すぎるね。
冷めた愛情というのは、まだ腐っているわけではないのに、それほどにまずい食べ物なのだろうか。
ごみ箱にすぐ捨てちゃってもいいくらいに?
この言葉を読んだとき、思わず「オグゥッッ」と変な声が出た。
“冷めた愛情”というのは、まだ好きという気持ちの残り香があるからこそ、簡単に捨てられない。でも食べれば味が悪い。心が受け付けない。そういう愛情って確かにある。一番盛り上がっていた時期を失したら、もうだめですか?終わりですか??過去の自分の恋愛における感情が、呼び起こされる。
▫️「幸せになりたい」と「努力する恋」
奈世は思う。
あと少しがんばれば、幸せになれるかもしれない。でも愛や結婚は、あともう少し、と努力するものでしょうか。
(中略)
こんな、どこかであきらめながらもがんばらざるを得ないという状況が存在することを、私はいままで知りませんでした。
この感覚、わかりすぎる。恋愛って、“好き”の熱量で動いている時期は勢いもあるし、少しの努力は楽しい。でもそれがいつしか“成就するための努力”になったとき、苦しさだけが残るようになる。
うまくいかないのは自分のせいなのか、相手のせいなのか、そもそもタイミングの問題なのか——正解のない問いを抱えながら、それでも「がんばらなきゃ」と思ってしまう。――でも、何に向けて?何を目指して?
奈世のその思考は、どこか自傷的ですらある。でも一方で、どうしようもなく愛おしい。
彼女のまっすぐさと、どこか脆さのある紘との関係は、読者の感情をぐらぐらと揺さぶってくる。
▫️男の“わがままさ”にイラつく
少しネタバレになってしまうかもしれないけれど、今すぐにでも結婚したいと迫る奈世と、決断の時を延ばそうとする紘との間で、どうにも埋めがたい断絶があり、二人は一度距離をとる。というか一方的に奈世が離れていく。
そこでようやく紘は、束縛されていたようにも感じていた奈世がいなくなり自由を謳歌する反面、「奈世がいなくて寂しい」と強烈に思い始める。そして実家に帰った奈世を迎えに行く。
え、ちょっと待って✋🏻自分が煮え切らなかったくせに、奈世が離れると急に「やっぱ好き」って……それって勝手すぎない!?と叫びたくなる。なんというか、章が変わってからの奈世の一人語りの調子がガラリと変わっているところや、紘の唐突な心変わりがとても奇妙で簡単には飲み込めない。これが綿矢節なのか……。
でもこれらの言動の中には、彼なりの必死さや情けなさが滲んでいて、たまらなくリアルでもある。
「一人の時間が欲しい」と言ってたくせに、いざひとりになると寂しくなる男。奈世がいると鬱陶しいくせに、いないと不安になる。
この矛盾、ほんとにイラっとする。なのに、わかってしまう自分がいるのが悔しい。
共感できない。けどわかる。
好きだけじゃどうにもならない。けど好きが足を止めてしまう。
人間の複雑さが、めちゃくちゃ詰まってる。
▫️“しょうがの味”が教えてくれる、恋愛のスパイス
この小説の魅力は、「ぐるぐるしているだけのシンプルな構造」の中に、感情のひだが丁寧に描かれているところにあると思う。
奈世も紘も、別に悪い人ではない。むしろどちらも優しいし、相手を傷つけようとしてるわけじゃない。でも、どうしてもうまく噛み合わない。
そこに読者の自分を重ねてしまうから、余計にしんどく、そして読み進めてしまう。
『しょうがの味は熱い』というタイトルが象徴するように、恋愛や結婚の現実は、ピリッとした刺激とじんわりとした温かさが同居している。熱いからこそ、口にするのに躊躇する。けど、どこかでまた味わいたくなる。そんな感情を、静かに、でもしっかりと刻んでくれる一冊だった。ちなみにこのタイトルの解釈の正解(というか解釈案)を誰か教えて欲しい。最早哲学すぎてわからん。
▫️綿矢りささん、もっと読みたくなった
これまで綿矢さんの作品を1作品くらいしか読んだことがなかった私。
だけどこの作品を読んで、「あ、この人の言葉選び、肌に合うかも」と思った。文章の一つひとつが繊細で、まるで自分の中の言葉にできなかった感情を翻訳してもらってるような気持ちになる。
次は何を読もう。『かわいそうだね?』?『手のひらの京』?
おすすめがあればぜひ教えてください。
▫️こんな人におすすめ
✔️同棲中または結婚を考えているけど、相手と歩幅が合わないと感じている人
✔️「好き」だけでは進めない恋を経験したことがある人
✔️人の不器用さや未熟さを、少し距離を置いて眺めてみたい人
✔️綿矢りさ作品をまだ読んだことがない人の“最初の一冊”に
▫️まとめ
「今の関係って、なんなんだろう……」
恋人同士の微妙な空気、結婚への温度差、そして“好き”のカタチがだんだん変わっていく切なさ。
読んでるこっちはもはや情緒ぐらぐらだけど、それがめちゃくちゃおもろい。共感と違和感が交互にくる、新感覚の恋愛リアル劇でした😌
ෆ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ෆ
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