見出し画像

一生ボロアパートでよかった㉗

あらすじ
自慢だった新築の白い家が、ゴミ屋敷に変貌していく。父はアル中になり、母は蒸発し、私は孤独になった。
ーーー1人の女性が過去を振り返っていく。

 アオイちゃんの鋭利さを増した声は、続けざまに私の胸を突き刺しました。

「2年生になってクラスが別々になった後、ユイちゃんは全然私の教室に遊びに来てくれなかったよね。それで結局、私ばっかりユイちゃんの教室に遊びに行ってたよね。私、部活もあるから休み時間しかおしゃべり出来ないねって、何度も話したじゃん。それでもユイちゃんは私の教室に一度も来なかった。私がユイちゃんの教室に遊びに行くのをやめても、ユイちゃんは私の教室に来なかった。ユイちゃんにとって、私なんてそんなもんだったんでしょ。私は、ユイちゃんとマナちゃんがいるから中学受験をやめたのに。あの時お母さんを説得するのどんなに大変だったか知らないでしょ。私は、私はずっと2人のことを友達だと思ってたから、中学受験をやめたんだよ。私は、2人と一緒に居たくて、中学受験をやめたの。それなのに、マナちゃんなんて1人で中学受験して引っ越しちゃうしさ。もう、ほんと、全部、無駄だった。ユイちゃんさ、友達つくるために努力したことある?人から好かれるための努力、したことある?私はさ、マラソン大会も勉強も、それに部活だってさ、全部努力してやってきたんだよ。今も、自分で、そういうふうに行動してるの。ユイちゃんはさ、自分で努力してるの?自分から行動してる?ユイちゃんはずっと、誰かになんとかしてもらえるのを待ってるだけなんだよ。ユイちゃん、そんなんだから孤立するんだよ。自分でさ、自分から、行動しなよ。ちゃんと自分に必要なことを考えて、自分から行動しなよ。待ってちゃ何も変わらないよ」

 アオイちゃんは一気に捲し立てました。さすが吹奏楽部の部長ですよね。やっぱり、肺活量が違うんでしょうね。あんなに明瞭な滑舌で、あんなに大きな声で話していても、全く息が切れていませんでした。私はたぶん、アオイちゃんみたいには喋れないと思います。大人になった今でも。アオイちゃんは、やっぱりすごいんです。

 あ、そうそう、私の名前、ずっと言ってませんでしたね。自己紹介遅くなりましたが、私、金井ユイっていうんです。

 この時、久しぶりにアオイちゃんにユイちゃんって呼ばれて、私一瞬嬉しく思ったんですよ。でも、アオイちゃんの話の文脈を読み取るにつれて、全くそんなことを思っている場合じゃないと理解しました。そして同時に、頭が冷めていきました。話の文脈を読み取り切った時には、もはや呼吸は止まっていたかもしれません。

 アオイちゃんは再度私の手首を掴むと、ズンズンと保健室前まで私を連れて行きました。私は放心状態でした。アオイちゃんの後頭部で元気よく跳ねて揺れるポニーテールをただただ見つめていました。アオイちゃんが保健室のドアを手で勢いよくガラッと開けた時、ようやく私はハッとして、現実に引き戻されました。

「せんせー、いますかー?」

 アオイちゃんが大きな声を保健室の中へいい加減に投げ込みました。すぐに「はーい」と若く透き通る声が聞こえました。

 保健室の奥から現れたのは、養護教諭の芹澤ホノカ先生でした。目がくりっとしてまん丸くて、前髪は眉毛の位置で切り揃えてありました。さらにボブカットでしたから、より年齢が若く見えました。生徒の中には親しみを込めて、ホノカちゃんと呼ぶ人もいました。ホノカ先生は、優しい先生として生徒から評判でした。ホノカちゃんと呼んでも、怒ったりしませんでしたから。坂ティーは、生徒に坂ティーと呼ばれたら怒ってましたけどね。

「あの、3年2組の金井ユイさんです。朝からずっと体調悪いみたいで、連れてきました」

「あら、そうなの、金井さん、大丈夫?」

 アオイちゃんの説明に、ホノカ先生は眉をしかめて私の顔を覗き込みました。

「横になる?」

 ホノカ先生の声は優しいんです。声とか話し方っていうのは、つくづく性格が出るなって思います。でも続けられたアオイちゃんの言葉に、私はまたも胸を突き刺されたようでした。

「その子、不登校だったんです。今日久しぶりに学校に来て、疲れちゃったんだと思います。あとよろしくお願いします。私、始業式あるんで。失礼します」

 アオイちゃんはそう言って、保健室の扉を、ガラガラガタン、と大きな音を立てて締めて、出て行きました。



つづく



↓①から最新話のマガジンあります🤗


↓1話読切の短編小説も書いてます😊

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集