【LEO戦国時代②】ASTスペースモバイルの「最強衛星」はスペースXを凌駕する!?|5分で読める最新テクノロジーあれこれ
最新のテクノロジーに関することを中心にお送りする本シリーズ。
宇宙開発、AI、量子技術から科学全般の話題まで、エンジニア視点で解説。
難しいことは苦手でちょっと。。。という人から、興味はあるんだけど実はあまりわかってない。。。って人まで、「5分でスッと理解できるように」というコンセプトでお届けしています。
ここのところ話題に事欠かない、LEO(低軌道)を中心とした通信衛星コンステレーション開発でぶっちぎりで先頭を走るスペースⅩ。
「LEO戦国時代」と称して、そんなスペースX以外の衛星コンステレーション計画に焦点を当てるシリーズの第2回です。
(スペースXの現状を含めた、第1回の記事はこちら。)
今回は、投資家にも大きな注目を集める「ASTスペースモバイル」についてです。
🤔AST SpaceMobileとは?
ASTスペースモバイル(ティッカー:$ASTS)というのは企業名。2017年に創業し、2021年にNASDAQに上場したばかりの新興企業です。

予定衛星数:約90機(2027年中の目標)
打上済み衛星数:6機(BlueBird1~6)
サービス開始:2026年前半予定(楽天のサービス開始は2026年Q4が目標)
事業内容は、スマートフォン向けの衛星通信サービスの提供となっており、先行してサービスを開始しているスターリンクモバイルと真っ向勝負という形になっています。
2017年5月:AST & Science LLCとして会社設立
2019年4月:最初の試験衛星「BlueWalker 1」を打ち上げ
2021年4月:SPACによる事業統合によりAST SpaceMobileが設立され、NASDAQに上場
2022年9月:2番目の試験衛星「BlueWalker 3」を打ち上げ
2023年4月:BlueWalker 3を使用し、改造していない市販スマートフォンによる世界初の双方向音声通話に成功
2024年9月:スペースXのファルコン9で商用衛星「BlueBird 1-5」を打ち上げ
2025年12月:次世代商用衛星(Block 2)となる「BlueBird 6」を打ち上げ
2020年には、日本の楽天からも出資を受けて戦略的パートナーシップを提携。2025年4月に「Rakuten最強衛星サービス」として発表され、国内初の市販スマートフォンによるビデオ通話の実証試験に成功したことでも話題になりました。
こうやって見ると、ASTスペースモバイルの事業はかなり順調に来ているように見えますね。
実際、計画に対して1~2年の遅れはあるものの、宇宙開発という分野では比較的「順調」と言っていいんじゃないでしょうか。
⚔️スマホ向け通信でスペースXとガチンコ
そんなASTスペースモバイルが提供を目指す、スマートフォン向けの衛星通信サービスは、
「既存のスマートフォンがそのまま使える」
という点でも、スペースXのスターリンクモバイル(旧スターリンクDTC)と同じ。でも、通信速度がまったく異なります。
スターリンクモバイルの通信速度は4Mbpsくらいが限界と言われており、テキストメッセージや緊急連絡での利用がメインです。
一方で、ASTスペースモバイルはBlueWalker 3による実証試験で下り最大21Mbpsの通信速度を達成。
実運用で主力となる次世代衛星「BlueBird Block-2」では、下り最大120Mbpsの通信速度を目指しています。これは動画配信やオンラインゲームなど、たいていのことは快適に利用できるレベル。
もはや、何かあった時の「備え」ではなく、日常的に使えるサービスになるということですね。
いったい、どうしてそんなに違うんでしょうか。
💪 非常識な外観が生む「最強衛星」
ASTスペースモバイルの衛星といえば、なんといってもその異様な外観に注目がいきます。
人工衛星といえば、本体の両側に翼のような太陽光パネル(太陽電池パドル)が付いてるイメージが一般的。
でも、ASTスペースモバイルの衛星はまるで空飛ぶ絨毯(じゅうたん)、というより畳(たたみ)??のようです。
実はこの「畳」のような外観を形成するタイル状のパーツの一つ一つが、太陽電池パドルとフェーズドアレイアンテナが一体になったユニットになっていて、太陽光で発電した電力を直接アンテナに供給しています。
つまり、衛星全体が展開式の巨大なアンテナ。これで微弱なスマホの電波でも、ブロードバンド通信を可能にしているんです。

更に、次世代衛星「BlueBird Block-2」では大幅にサイズアップ。
初代の衛星は約8メートル四方(64㎡)の大きさでしたが、次世代衛星は約15メートル四方(223㎡)になります。
テニスコート1面とほぼ同等という大きさで、通信容量は10倍にまで拡張されます。

BlueBirdの軌道高度は約700kmと、スターリンクモバイルより若干高めに位置。
この大きなアンテナの強力な通信能力によって、より高い位置からより広い範囲を、わずか1機の衛星でカバーすることが可能です。
その範囲は直径3000km・・・って言われてもピンと来ないと思いますが、北海道から沖縄石垣島まで日本列島がすっぽり収まってしまうくらいです。
これによって、わずか90機程度のBlock-2衛星で、全世界をカバーできるとされています。
とにかく衛星数を増やしていくスターリンクと真逆の、少数精鋭という戦略を取っているんですね。
🛰️ スターリンクモバイルとは仕組みも違う
アンテナのパワーでスターリンクモバイルを圧倒するASTスペースモバイルの衛星ですが、違いはそれだけではありません。実は、通信の仕組みでも大きな違いがあります。
💫ASTスペースモバイルのベントパイプ方式とは?
スターリンクモバイルは以前の記事でも解説しているように、衛星自体が基地局として働いています。
これを「再生中継方式」っていうんですが、ASTスペースモバイルは「ベントパイプ方式」っていう方法を取っています。
なんでベントパイプ(曲がった配管)と呼ぶかというと、ただのデータの通り道だからです。
つまり基地局は地上にあって、衛星は地上から来たの電波を、そのまま折り返して地上に送り返すだけってことなんです。
もちろん、本当にそのまま折り返してるわけではなく、電波の周波数を変えたり信号を増幅したりはしてるわけですが、ポイントとなるのは基地局が衛星にあるのか?地上にあるのか?というところ。
💫ベントパイプ方式って何がいいの?
気になるのは、結局どっちがいいの?ってことですよね。
ベントパイプ方式のメリットは、なんとといっても衛星の構造がシンプルということです。
衛星はただ電波の通り道なので、スマートフォンとの接続に必要な基地局としての機能はすべて地上に設置すればいい。
衛星自体の機能は、非常に単純なのでローコストで実現できるし、トラブル、故障が発生するリスクも少ないというわけです。
これは、地上側の設備を準備するスマートフォンの通信事業者にとっても、地上ネットワークの設備をそのまま流用できるので好都合です。
さらに、スマートフォンの通信方式が4Gから5G、さらに6Gへと進化していっても、地上局をアップデートすれば衛星はそのまま利用できてしまう。
まさに、いいことづくめなんですね。
一方、スターリンクモバイルが採用する再生中継方式では、衛星自体に基地局として機能を持たせる必要があるため、衛星側の負担が重い構造になってしまいます。
高機能な衛星は高価な上に故障のリスクも高いですし、宇宙空間で衛星が故障が発生したらメンテナンスもほぼ不可能。
通信方式が新しくなった時にも、既存の衛星は利用できなくなってしまうため、新たな衛星を開発して打ち上げる必要がある。
といった感じで、どうしても高コストになってしまうんです。
😫 もちろん弱点もある
ここまでの内容では、ASTスペースモバイルのほうがすべてにおいてスターリンクモバイルより勝(まさ)ってそうですが、もちろん弱点もあります。
💫通信遅延が大きい
ベントパイプ方式の最大のデメリットは、通信遅延が大きいことでしょう。
スマートフォンが基地局と接続して通信できる状態になるまでには「無線接続の確立」「認証」「暗号化」「通信路確保」など多くのステップが必要で、10~20回のやり取りが必要になります。
こういったやり取りもベントパイプ方式では、いちいち衛星を経由して地上局との送受信が必要になります。
衛星自体が基地局となっている再生中継方式と比べると、通信経路が単純に2倍になるので通信遅延も大きくなってしまい、リアルタイム性が重要なアプリケーションなどでは影響があるかもしれません。
💫地上局が設置できないエリアでは利用できない
また、そのために常に衛星が通信可能なエリアに地上局が必要なこと。ISL(衛星間光リンク)に対応できないこともデメリットです。
再生中継方式を採用するスターリンクモバイルは、ISLを利用することによって、極端な話をすれば地球の裏側に地上局があっても通信することが可能です。

一方で、ベントパイプ方式では衛星がカバーするエリア内に常に地上局がないと通信が成立しません。

そのため、大洋上や極地など、広範囲で基地局の設置が困難な場所では、利用が制限されてしまいます。
📡 通信会社との提携ネットワークでスペースXを圧倒
そんなASTスペースモバイルですが、前述のとおり通信事業者との相性がよいことを売りに、まだサービス開始前にも関わらず各国通信事業者との提携ネットワークを拡大しています。
主要株主である楽天をはじめ、AT&T(米国)、Verizon(米国)、Vodafoneグループ(欧州など)、Orange(フランス)など全世界で50社以上と提携。
潜在顧客は全世界で15億人以上に及び、スターリンクモバイルを圧倒しています。
日本国内では、au、ドコモ、ソフトバンクの主要3社が提携したことでスターリンクモバイルのほうに注目が集まっていますが、世界的にはASTスペースモバイルが有利な情勢なんです。
そういうわけでサービス開始を目前にして、全世界の投資家からも大きな注目を集めています。
📝 まとめ
というわけで、「LEO戦国時代」の第2回はASTスペースモバイルの解説でした。サービス開始はこれからなので未知数ではあるものの、スマートフォン向けの衛星通信サービスでは、スペースX以上に期待を集めています。
一方で、スペースXもただ黙って見ているわけではありません。次世代のスターリンクモバイルV2が発表されており、ASTスペースモバイルを上回る150Mbpsの通信速度を実現するとか。
果たして、スマートフォン向け衛星通信サービスではどちらが覇権を握るのか?
はたまたダークホースとなる第3勢力が現れるのか?
今後に注目です。
