書籍に「AI執筆」の明記を。出版文化の信頼を守るために、今できること

(※2025年6月21日 海外事例などを加筆)
こんにちは、著者の牧野真です。ダイヤモンド社などの大手出版社より、書籍を何冊も出版してきました(監訳本あり)。
AIで書かれた本が増える中、読者は“知らずに読まされている”かもしれない
最近、電子書籍──とくにAmazon Kindleでは、ChatGPTなどの生成AIを使って書かれた書籍が急増しています。
中には、読者にとって価値のある内容もありますが、一方で「内容が薄い」「構成が機械的」といった低品質な本が大量に出版されているのも現実です。
もちろん、AIの活用自体を否定するわけではありません。ただ問題なのは、読者が「人の手による本(著者が全部書いた本)」だと思って購入したものが、実際にはAIによって大部分が生成=代筆されているケースが増えていることです。
ビジネス書は、既に全文がAIだけで生成できるし、著者のブログやメルマガをAIに学習させれば、本人の文体や語り口を模倣してAIが執筆を代行することも可能です。

作家の九段理江さんが「95%をAIで書いた」という小説「影の雨」を3月下旬発売の雑誌「広告」で発表した。昨年の芥川賞受賞作「東京都同情塔」について「全体の5%ぐらいは生成AIの文章を使っている」と語っていたことから、編集部が逆の発想に基づき「95%を生成AI、残り5%を九段さん」とのルールで執筆を依頼した。
「影の雨」は4千字ほどの掌編。AIの「私」が人間の感情とは何かについて思いをはせる内容だ。最初と最後の一文を九段さんが書いて方向性を定め、残りは対話型AI「ChatGPT(チャットGPT)」にゆだねた。九段さんは小説の書き方を指導するかのように対話を重ね、両者のやりとりを記録した「プロンプト」は約20万字に。
かつてAIでは難しいとされてきた小説も、今では普通にAIで書かれています。実際にAIが関与したとされる小説が芥川賞や星新一賞の最終候補に挙がった事例もあり、AIによる創作をめぐる議論は活発になっています。審査員の多くも、AIによる執筆を明確に否定していません。
「AI使用の有無」を出版情報に明記することで、読者の選択肢を守りたい
私の提案は、とてもシンプルです。
「この本にAIが使われているかどうか」を、出版情報に明記すること。
いま多くのAI書籍は、人間の執筆かどうかの判断がつかないまま販売されています。
その結果、読者は人が書いた本だと思い込んで購入し、内容に失望するという不利益を受ける可能性があります。
しかも、AIで生成された書籍の多くは、構成の粗さや情報の薄さ、事実誤認などの問題を抱えているケースも少なくありません。
だからこそ、AI使用の有無を事前に明示することが、読者の信頼を守るうえで必要不可欠だと考えています。
読者が「どんな本か」を理解したうえで選べる──その透明性こそが、これからの出版に求められる責任だと思うのです。
海外では、AI執筆の透明化が始まっている
【Amazon(米国)】Kindle著者にAI使用の申告を義務化
2023年9月、AmazonはKindle Direct Publishing(KDP)において、AIによって生成されたコンテンツ(テキスト・画像・翻訳など)を含む場合、著者が事前に申告する制度を導入しました。
これは、AI生成コンテンツと、AIを補助的に使ったコンテンツ(例:誤字修正、文章改善)を区別し、前者のみ申告を義務づけるものです。
英語原文
“Amazon.com has started requiring writers who want to sell books through its e‑book program to tell the company in advance that their work includes artificial intelligence material.”(AP通信)
日本語訳
「Amazonは、自社の電子書籍プログラムを通じて書籍を販売したい著者に対し、作品に人工知能(AI)による素材が含まれているかどうかを事前に申告するよう求め始めた。」
ただし、この申告内容は現在のところAmazon内で管理され、読者には公開されていません。将来的に読者にも開示される可能性はありますが、現時点では「内部申告制度」にとどまっています。
【Le Monde(フランス)】編集倫理とAI使用の明文化を実行
フランスの大手新聞社 Le Monde(ル・モンド)は、AI時代における編集方針を明確にし、次のような取り組みを行っています。
AI使用方針(2023年12月)
英語原文(Le Mondeグループ発表)
“Generative artificial intelligence can in no way replace editorial teams. Its use is only authorized under strictly defined conditions, as a tool to assist editorial production.”
日本語訳
「生成型AIは、いかなる場合でも編集チームの代替にはなり得ない。その使用は、編集制作の補助ツールとして、厳格に定義された条件下でのみ認められる。」
OpenAIとの契約(2024年3月)
Le Mondeは、OpenAI(ChatGPT開発元)と契約を結び、ChatGPT内でLe Mondeの記事が使われる際には、出典とロゴの表示を義務づける合意を交わしています。
英語原文(契約発表より)
“Le Monde group... signed a partnership agreement with OpenAI... enabling the use of our content to make ChatGPT’s responses more reliable, with references and logos displayed.”
日本語訳
「Le MondeグループはOpenAIと提携契約を結び、ChatGPTの回答をより信頼性あるものにするため、自社のコンテンツを提供することに合意。出典とロゴの表示が条件に含まれている。」
日本では統一ルールはないが、業界も動き始めている
日本では、現時点で書籍やKindle本に「AIが関与しているかどうか」を明記する公的なルールや法律は存在しません。
そのため、実際にはAIが生成したコンテンツであるにもかかわらず、読者がそれに気づかず購入してしまうケースもあります。
出版業界もこの問題を認識し始めています。
たとえば、一般社団法人 日本電子書籍出版社協会(電書協)は2023年7月に「生成AIの利用についての考え方」を発表し、その中で次のように述べています。
「生成AIを利用して制作したコンテンツについては、その旨を明示するなど、読者に対して適切な情報提供を行うことが望ましい。」
これは法的な拘束力を持つものではありませんが、出版業界自身が「読者への透明性」の重要性を認識している証拠だと言えます。
こうした業界の動きを後押しするためにも、著者や出版社が自主的にAI使用を表示することが、今こそ求められています。
教育界でも「AI代筆」が問題視されている
いま、AIによる“代筆”が学術の世界で深刻な課題になっています。
2024~2025年の複数の調査によると、大学生の3〜5割が何らかの形で生成AIを活用しており、レポートの下調べ、難解な内容の理解、データやグラフの作成など、さまざまな学習場面で利用されています。
中国では、DeepSeekというオープンソースAIを大学ネットワーク内で安全に使えるようにし、プライバシーを保ったまま学習支援を行う体制が整えられています。
その一方で、「AIにレポートや卒論を書かせる」行為が大きな問題となっており、中国の一部大学では「AI生成のレポートは0点」と明記する厳格なルールを導入するなど、規制の動きが広がっています。AI検出ツールも導入されていますが、精度には限界があり、誤判定による混乱も報告されています。
日本の大学でも、AIだけで作成されたレポートや論文を認めないとする方針が浸透しつつあり、AIの利用ガイドラインを整備する動きが活発です。
どこまでの利用が適切で、どこからが不正と見なされるのか──教育現場でも、線引きが大きな課題となっています。
この「AI代筆問題」は、出版の世界とも深くつながっています。著者名の背後にAIの影があるなら、それをどう開示すべきか。透明性を求める声は、学問の世界でも高まりつつあります。
「AI執筆の明記」はAIを否定するものではない
誤解してほしくないのは、この提案がAIの活用そのものを否定するものではないという点です。
AIを使って書かれた本にも、読む価値のあるものがあります。AIは構成や下書き、情報収集の支援において、非常に有益なツールです。
だからこそ大切なのは、「AIを使っているかどうか」をあらかじめ読者に知らせる透明性です。
まとめ:読者への誠実さは、AI使用の明示から始まる
読者に対して誠実であり続けるためにも、「AIが使われているかどうか」を正直に伝える姿勢が欠かせません。
それは単なる情報開示ではなく、著者や出版社が読者と対等に向き合い、信頼を築こうとする意思の表れです。
「AI使用の明記」は、読者の信頼を裏切らないために、著者や出版社が果たすべき最低限の責任だと思います。
✍️あなたはどう思いますか?
AIで書かれた本について、あなたは事前に知っておきたいと思いますか?
ぜひあなたのご意見も、コメント欄で教えてください。
📚参考文献
Amazon KDP AI Generated Content Policy
一般社団法人日本電子書籍出版社協会「生成AIの利用についての考え方」(2023年7月)
Le Monde AI Editorial Guidelines(2023年12月)
Le MondeとOpenAIの提携リリース(2024年3月)
AI代筆に関する日本・中国の調査(2024年)
<キャッチ画像はAI使用>
このnote記事のキャッチ画像はChatGPTで生成しました。いい感じのイラストができあがったと思っています。やわらかい雰囲気が好きです。
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