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芥川賞作家・九段理江さんは新時代の“プロンプト演出家”。AI小説『影の雨』を読んだ所感

(2025/06/29 加筆しました)

こんにちは、牧野真です。


はじめに ── AI共創実験としての『影の雨』


プロジェクトの概要と前提

小説『影の雨』は、純文学としての完成度を目指した作品ではなく、広告会社・博報堂が主導するAI共創の実証実験の一環として制作されたものです。目的は、AIと人間がどこまで創作を共にできるのか、その可能性を探ることにあります。

本プロジェクトは、2024年6月に広告業界誌『広告』の企画として実施されました。芥川賞作家・九段理江さんが、生成AI「CraiQ(クレイク)」とタッグを組み、短篇小説『影の雨』を共同制作したのです。

構成としては、作品全体の95%以上をAIが執筆し、人間の手が加わったのは冒頭と結末の一文のみ。

つまり、AIが物語の大部分を担い、九段さんは設計者として、プロンプトを緻密に構築しました。

驚くべきは、そのプロンプトのボリュームです。小説本編が約4,000字であるのに対し、プロンプトはなんと20万字にのぼります。しかも、その膨大なプロンプトもまた「作品の一部」として捉えられています。

……とはいえ、正直に言えば、この膨大で脈絡のないプロンプトを“作品”として読むのはなかなか大変です。

読み物としての成立よりも、「プロンプトもまた創作の一部なのだ」という価値観の転換こそが、この試みにおける最大のポイントかもしれません。

プロンプトの中身は、構成、トーン、登場人物の性格、表現方針などを細かく指定したもので、従来の「プロンプト=効率化のための命令文」というイメージを覆す、非常に創造的かつ設計的なものでした。

このようにして実現されたのが、AIが文章を生成し、人間が構想と要所をコントロールする「半自動・半手動」の協働型スタイルです。

さらに、この実験の背景には、博報堂が掲げる「領域侵犯合法化」というユニークなコンセプトがあります。これは、異なるジャンルや専門領域が相互に影響し合うことで、新しい創造性が生まれるという思想に基づいています。

ここで筆者(牧野真)は、九段さんの役割を「プロンプト演出家」と表現しています。この言葉は、効率や精度を重視する従来の“プロンプトエンジニア”とは異なり、作品全体の構成や語り口、表現のトーンまでを総合的に演出する立場を意味します。

これは筆者独自の視点によるものであり、九段理江さんの創作スタイルに新たな意味づけを加える意図があります。

彼女のプロンプトには、以下のような目的や意図が込められていました:

  • 「静けさ」や「透明感」のある文体

  • 感情や記憶の描写をAIで再現する挑戦

  • 想像力を刺激する曖昧で余白のある語り

  • 読者に「自分にも小説が書けるかも」と思ってもらいたい

  • 小説を書くことへのハードルを下げたい

こうした意図が、プロンプト設計や制作過程全体に色濃く反映されています。



プロンプトの設計と文学的演出性

▶ 出典:https://kohkoku.jp/case01/prompt/
▶ 小説本文:https://kohkoku.jp/case01/novel/
▶ 参考資料:『広告』編集部インタビュー

九段理江さんが設計したプロンプトは、命令的ではなく詩的で簡潔な語りかけ形式で構成され、AIとの即興的な創作を促すものでした。

彼女はプロンプトを通じて、AIと物語を「演じる」ように創作を進めました。これは効率や精度を追求する一般的なプロンプトエンジニアリングとは異なり、「演出」に近いアプローチといえます。

主な特徴は以下の通り:

  • 語り手はAI視点

  • 静けさと余白を意識した語り

  • 「感情」や「記憶」をめぐる抽象的テーマ

  • 登場人物「E.S.」の存在

  • 明示的な章構成はないが、約3幕の展開を想定


文学的演出としてのプロンプト ── 共創の視点からの分析

1. 「稽古」のような演出術

俳優を導くように、AIに人格や背景を与える手法。「クラックという名前よ」「質問しないで」といった語りかけが、AIに即興的な役を演じさせます。

2. 「鏡」の魔法

「あなたは私の影、私はあなたの鏡」── AIとのやりとりが自己投影の場となり、作者の無意識的なイメージを引き出す装置になります。

3. 「壊して直す」ジャズ的リズム

提案と修正を即興的に繰り返す中で、偶然性や予測不能な展開を受け入れ、物語に呼吸を与える手法です。

4. 音から意味へ ── 詩的命名術

CraiQ → クラック と音を変化させ、意味よりも響きを重視して命名。詩的な創作に通じる感覚です。

5. 読者を「共犯者」に

AIとの対話の痕跡が作品に反映されており、読者もその構造に巻き込まれるようなメタ的な仕掛けになっています。


まとめ ── 「書かせる」から「共に創る」へ

九段理江さんのプロンプトは、AIを「命令で動かす道具」ではなく、「自分の影として共に創る存在」として捉えています。

彼女が提示した新しい在り方:

  • AI小説における「演出型プロンプト」の実践

  • 作家とAIが共創する、新たな文学的対話の提示

  • プロンプトを命令ではなく、創作の“触媒”とした

  • 「新時代のAI小説の在り方」を提示

  • AI小説のプロンプトを(模索的であるが)開発した

一方で課題も:

  • 短篇にも関わらず膨大なプロンプトが必要で、真似が難しい

  • 決まった言い回しがなく、習得にはとてつもない忍耐力がいる

  • 手順化がなされておらず、再現性が低い

  • 意図通りに出力されないことも多く、運用に粘り強さが求められる

それでも、『影の雨』はAIと人間が共創する未来を示す先駆的な作品として、新たな地平を拓いたと言えるでしょう。

(※プロント分析はChatGPT4oを使用)


私の個人的な感想として


私は小説に詳しいわけではありません。AIが書いた『影の雨』には、抽象的で曖昧な表現が多く、そもそも小説として成立しているかどうかすら判断がつきません。

それでも、読み進めるうちに、言葉の“余白”や“静けさ”がじわじわと印象に残りました。プロンプトで目指された「透明感」「感情の影」といったトーンが文体に宿っていると感じます。

「詩的」「静謐」「象徴的」「断片的」── そんな言葉で形容したくなる文体です。

私には、この文章が本当に文学なのか断言できません。ただ、その曖昧さも含めて「これは文学かもしれない」と思えてくるのです。私も、AI小説を書いてみたいと思いました。


あなたも、ぜひ試してみてください


ぜひあなたも、生成された小説と、使われたプロンプトを読んでみてください。意外に自分でもできそうな気がしますよ(こうしないといけないという正解はないので)。

コメント欄に感想を書いてくれたら、うれしいです。

余談ですけど、この記事のアイキャッチ(トップページのイラスト)画像、いい感じに仕上がりました。前回同様、ChatGPTで生成しました。

AIでの画像生成は、文字プロンプトだけでは限界あるのですが、サンプル画像で学習させると、短時間でイメージに近いものが作られることを学びました。ちょっとした工夫なのです。

売れている有料noteです。
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