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Vol.27 胃カメラとバリウム、どちらを受けるべきか。そもそも胃の検査は必要か。


「胃の検査はバリウムと胃カメラのどちらがいいですか?」——これは乳がん検診の「マンモかエコーか」Vol.26 マンモグラフィとエコー、どちらを受ければいい?「エビデンス」の意味から考える。|ドクターO と並んで、健診の現場でもっともよく聞かれる質問のひとつです。ただしこの2つの問いは、構造的に似ているようで、決定的に異なる点が一つあります。

前回(Vol.26 マンモグラフィとエコー、どちらを受ければいい?「エビデンス」の意味から考える。|ドクターO)のマンモ対エコーでは、「対策型検診として現時点で死亡率減少のエビデンスがあるのはマンモのみで、国もそれを推奨している」という明確な非対称性がありました。しかし胃がん検診では、胃部X線検査(バリウム)も胃内視鏡検査(胃カメラ)も、いずれもが国の指針で推奨されています。これが出発点として重要です。

国立がん研究センターの有効性評価ガイドライン(2014年版)では、50歳以上を対象に2年に1度、「胃部X線検査または胃内視鏡検査のいずれか」を推奨しています。バリウムについては日本国内の複数の観察研究のメタ解析で、受診により40〜48%の胃がん死亡率減少が示されています(感度70〜80%、特異度85〜90%)。内視鏡については、80,272人を中央値13年追跡した大規模な日本の研究(Narii N, et al. Cancer Sci. 2022)で、内視鏡検診受診者の胃がん死亡率が非受診者比で61%低下(HR=0.39)することが示されています。

では「どちらを選ぶか」。多くの消化器内視鏡専門医は、内視鏡の方が早期病変の発見に優れていると感じており、その感覚は一定の根拠に基づいています。早期胃がんは、わずかな色調変化・微細な凹凸として現れることが多く、直接粘膜を観察できる内視鏡はこのような変化の指摘に優れています。内視鏡では疑わしい部位から組織を採取して確定診断が可能であり、食道・十二指腸も同時に観察できます。バリウムで異常が見つかった場合は確定のために内視鏡を行う「二度手間」も生じます。内視鏡検診がバリウム検診と比較して死亡率減少効果が大きい可能性を示唆した研究もいくつかあります(Hamashima C, et al. Cancer Sci. 2015)。ただし、現時点で明確にバリウム検査よりも胃内視鏡検査が対策型健診として優れている、(バリウムを受けるべきではない)という結論には至っていません。

ところで、そもそもピロリ菌がいない人に胃がん検診は必要なのでしょうか。胃がんの大部分(日本の報告では90%以上、国際的には75〜90%)はピロリ菌感染を背景に発生するといわれています。ピロリ菌に一度も感染したことがない未感染者は、胃がんリスクが極めて低いことは確かです。

「であれば、ピロリ菌陰性と確認された人は胃がん検診を受けなくていいのでは?」——この問いは論理的に妥当で、おそらく将来的にはその方向に進む可能性があります。しかし現時点では、ピロリ菌陰性かどうかで胃がん検診の対象を分けた方法は、国の対策型検診として提唱されていません。理由はいくつかあります。まず「ピロリ菌陰性」の結果が必ずしも「真の未感染」を意味しないことです。除菌後・偶発的除菌・胃粘膜萎縮進行による自然消失・偽陰性といった状況では、検査で陰性と出ても胃粘膜がすでに傷ついている場合があります。また、ピロリ菌陰性者を対象から外した場合の死亡率への影響を検証した質の高い臨床試験がなく、集団全体への適用を支持するエビデンスがないのです。

最後に、健診の現場の実態について少し言いにくいことを書きます。胃の検査に限らず、人間ドックや企業健診の検査内容は、多くの場合、健保組合と健診施設との契約によって決まります。健保が「胃の検査を実施すること」を健診項目として含めていれば、健診施設はその内容を履行することが原則です。必ずしもエビデンスや医師の推奨通りの検査内容が行われるとは限らないわけです。「この受診者にとって、今この検査が本当に必要か」を正確に判断するためには、健保組合の側にも検診の有効性・対象・間隔を正しく見極められる医師が関与していることが必要なのですが、現状ではすべての健保組合でそのような実態にはなっていないようです。


出典:
国立がん研究センター「有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン2014年版」https://ganjoho.jp/med_pro/cancer_control/screening/screening_stomach.html
国立がん研究センター「胃がん検診について」(2024年9月20日更新)https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/stomach.html
Narii N, Sobue T, Zha L, et al. Effectiveness of endoscopic screening for gastric cancer: the Japan public health center-based prospective study. Cancer Sci. 2022;113(11):3922-3931. PMID: 36002149
Hamashima C, Shabana M, Okada K, Okamoto M, Osaki Y. Mortality reduction from gastric cancer by endoscopic and radiographic screening. Cancer Sci. 2015;106(12):1744-1749. PMID: 26432528

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