Vol.26 マンモグラフィとエコー、どちらを受ければいい?「エビデンス」の意味から考える。
「乳がん検診はマンモとエコー(超音波)、どちらがいいんですか?」——これは健診の現場で最もよく聞かれる質問のひとつです。答えは簡単ともいえるし、とても難しいともいえます。
「40歳以上なら2年に1回マンモグラフィでいいよ」——これが最も優等生で、問題の少ない回答です。でも、もしかすると別の答えをされたことがある方もいるかもしれません。
この問いに正確に答えるには、まず「エビデンス」という言葉の意味を正確に理解する必要があります。エビデンスとは、わかりやすく言えば「きちんとした臨床試験で確認された根拠」のことです。特に死亡率を下げることが証明されているかどうか——これが、対策型健診における「エビデンス」の核心です。
現在、国が「対策型健診(国が推奨する公的ながん検診)」としてマンモグラフィを採用しているのは、「マンモグラフィが乳がん死亡率を下げる」という複数の強固なエビデンスがあるからです。国立がん研究センターも2024年時点で、視触診や超音波検査については「乳がんで亡くなることを防ぐ科学的根拠が不十分なため推奨されていない」と明記しており、マンモグラフィと超音波を同時に受けることや、2年ごとのマンモグラフィの間に超音波を追加することも、現時点では推奨されていません。
一方、「エコーのほうがマンモより感度が高い」と感じている現場の医師は少なくありません。実際、マンモグラフィで異常が指摘された場合にエコーで精密検査をすることは多いですし、マンモグラフィでは見えないのにエコーでのみ異常が指摘できることも珍しくない。そうした経験から、「だったら超音波だけやればいいのでは」と主張する医師もいます。
この問いに答えるべく行われたのが、J-START(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial)です。40歳代の日本人女性76,196名を対象にした世界初の大規模ランダム化比較試験で、これまでに出ている結果をまとめると、マンモグラフィ+超音波の併用群はマンモグラフィ単独群よりも感度が高く、がん発見数も有意に多く、早期がんの発見や進行乳がんの累積罹患率の低下が示されています。ただし一方で、併用群では「要検査」と判定される率が上がり、針生検などの侵襲的な追加検査も増えるという「不利益」も確認されています。基本的には併用群のメリットが大きそうな結果ではありますが、最も重要な点として、現時点ではまだ「乳がんによる死亡率の低下につながる」という最終結果は確認されておらず、さらなる長期追跡が必要とされています。
つまり、何年か後に「健診は超音波で!」がスタンダードになる可能性はあるとしても、現時点で「マンモはやめて超音波だけで!」というのは、少なくともエビデンスの面からは正確ではありません。そもそも、エコーの健診でたくさんの乳がんを見つけられたという論文が一本出た、というだけではエビデンスとは呼べません。あとから真逆の結果の研究が報告されることは日常茶飯事で、何本も何本も同じような結論の論文が重ねられてはじめて、エビデンスがある、と言えるようになります。残念ながら、このことを正しく理解している医師は非常に少ないのが現状です。
ただし、「エビデンスがない=使ってはいけない」ではないということも、押さえておく必要があります。国が税金で多くの人に提供する対策型健診には「多数の人に適用しても有効である」という高いエビデンスが必要です。だから市町村のがん検診はマンモグラフィを採用しています。これは合理的な判断です。しかし、皆さんが自分のお金や健保組合のお金で受ける任意型健診・人間ドックについては、その限りではありません。
たとえば、マンモグラフィのエビデンスは主に欧米の白人女性を対象とした研究で構築されており、そのデータをそのまま日本人に当てはめることには異論もあります。日本人に多い「高濃度乳房(デンスブレスト)」の女性では、エコーのほうが発見率が高いという研究も多数あります。超音波の読影に長けた医師にとっては、マンモグラフィよりもエコーのほうが確実に早期がんを見つけられる、という状況もあり得ます。「偽陽性になってもいい、とにかく見逃しだけは避けたい」という価値観であれば、併用という選択肢もあるでしょう。強固なエビデンスはなくても、信頼できる医師の勧めに従ってマンモグラフィ以外の方法を選択することも、状況によっては決して間違いとは言えないのです。
このエビデンスという考え方は、普段科学的な文献に触れていない方が一朝一夕に身につけるのは難しいですし、インターネットの情報から正確なものだけを選び取るのも容易ではありません。残念ながら医師の中でもエビデンスを正しく理解している人は少数派であり、信頼できる医師を見つけること自体が、重要な一歩になるかもしれません。
まとめると、基本的にはマンモグラフィを2年に1回受けておくのがまず間違いない。ただし、乳がん検診のエビデンスについて十二分に理解している医師が個別に判断して「あなたにはこちらのほうがメリットがある」と判断した場合には、それ以外の健診方法があなたにより大きな利益をもたらす可能性もある——そんなところでしょうか。
出典:
Ohuchi N, Suzuki A, Sobue T, et al.; J-START investigator groups. Sensitivity and specificity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast cancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial. Lancet. 2016;387(10016):341-348. PMID: 26547101
Harada-Shoji N, Suzuki A, Ishida T, et al.; J-START investigators. Cumulative incidence of advanced breast cancer in women aged 40–49 years in the Japan Strategic Anti-cancer Randomised Trial (J-START) of adjunctive ultrasonography: a prespecified secondary analysis. The Lancet. 2025. DOI: 10.1016/S0140-6736(25)02319-0
国立がん研究センター「乳がん検診について」(2024年9月20日更新)https://ganjoho.jp/public/pre_scr/screening/breast.html
*noteの記事の内容は筆者の個人としての見解です。筆者所属の医療機関の見解とは一切関係ありません。内容の正確性には細心の注意を払っておりますが、万が一不適切な内容がございましたらご指摘いただけましたら幸いです。
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